過去のノートにある映画感想メモシリーズ。
今回は茶色のノートからご紹介。
前回にひきつづき黒澤・小津映画を漁ってた。
photo1:最初のページはオーストラリアン・オープンの話題から。
photo2:X-FILESシリーズはシーズン4のつづき。
photo3:なんだか東京アイマックス・シアターにハマって何度も行ってるんだなw
若かりし頃のメモなので、不適切な表現、勘違い等はお詫び申し上げます/謝罪
なお、あらすじはなるべく省略しています。
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『APARRTM』(1995)
監督:ジル・ミモーニ 出演:ロマーヌ・ボーランジェ ほか
緻密に仕組まれた構成、もとは女の衝動的行動なのに、狂い始めた運命の歯車は加速して愛する者をすれ違わせてゆく。
側にいるのに気づかない男女に苛立ちながら、米映の臭いハッピーエンドにしない仏映のあくまでさり気ないリアリズムが心憎い。
リズ役の女優の美しさも注目だが、けっこう裸体を披露するボランジェのアンニュイでロリータ的魅力にはいつも惹かれる。
お父さんもさぞかしご自慢だよね。巨乳にビックリ(失礼
考えればMに聞いて、やっぱAを探しにローマに行くこともできる。
でもやっぱ同じことの繰り返しで、1人を永遠に誠実に愛し続けるなんて幻影にすぎない。
町を歩いていたらバッタリ再会して「あら偶然ね」なんて再燃する物語りなんて平凡で陳腐すぎる。
実際にはもっと細かい攻略とどんでん返し的要素にあふれているけど、全部は書ききれない。
Lの最後の表情とAの最後の「おあいこね」とも「仕方ないね」とも「幸せにね」ともとれるなんとも深い表現が印象的。
ストーキング犯罪が増えているこの頃、映画では簡単に恋人になれる方法でも、
実際やったらかなり怖い状況になるから誤解なきよう。
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『グランド・クロス』(1998)
監督:ジーン・デ・セゴンザク 出演:エヴァ・ラ・ルー、フレックス・オーディ・イングランド ほか
ノストラダムスのいう世界終末の一因とされる「グランド・クロス」。だが今作はちょっと違うんじゃない?
太陽の黒点が増えて異常気象となり、地球が氷の世界と化すって話。
科学者によれば氷河期になるといっても気温が下がるのは数度。本当に恐ろしいのは急に氷になっちゃうより、
数度の違いによって引き起こされる自然現象の変化らしい。
日本のハミガキのCMでブキミなキャラ出してたおじさんが、今作ではかなり自己中な科学者を嫌味たっぷりに演じている。
常にハッピーエンドでよかったよかったてのがアメリカンスタイル。
凍りついたLAのCGは見物だけど、ちょっと最近のパニック超大作続きに目が肥えてきて、
なんだか絵っぽかったり、ここは模型か・・・とか思ったりして、リアリズムの追求も楽じゃないね。
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『雨月物語』(1953)
原作:上田秋成 監督:溝口健二 出演:京マチ子、水戸光子、田中絹代、
森雅之、小沢栄 ほか
イタリーヴェニス国際映画コンクール最優秀外国映画賞'53受賞。
待望の森雅之さん出演作。彼の作品も世界で認められているのに、何にでもなりきれちゃう達者ぶりが、
三船さんの豪快一徹さの影に隠れちゃったのかな。
こういう話って国内外、古今東西問わずあるよね。尺八や笛、太鼓でかなり日本の時代劇色を強調。
田中絹代も当時大スターだったんだよね。地味な感じ、セリフもちょっと控えめで、
京マチ子の妖艶さと対照的。彼女も海外の作品で活躍したんだよね。
作りが日本昔話調になってるけど、当時のそれぞれの生活の再現としては勉強になる。
女性も仕事を持って、夫婦共働きしてたんだな。
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『晩春』(1949)
原作:広津和郎「父と娘」 監督:小津安二郎
出演:笠智衆、原節子、月丘夢路、宇佐美淳、桂木洋子、杉村春子、三宅邦子、三島雅夫、坪内美子 ほか
海外でも『花嫁の父』という題材は共通の感動を呼ぶ。『東京物語』と同じ顔合わせが揃っているのがイイ。
ちょっとハイソな家族でこんな帽子も似合うセンスある優しい父親ならいいなと思わせる。
結婚観を娘に語り、念を押すように「幸せになっておくれ」と願う父の気持ちが沁みる。
「娘はつまらない。育ったと思ったら嫁に出さなきゃならない。出なきゃ心配だし」
「我々も育ったのをもらったんだしな」
「熊五郎なんて名前が気に入らないのかしら? 胸のあたりにモジャモジャ毛が生えてそうじゃない?
なんて呼んだらいいの? クマさんったら八っつあんみたいだし・・・」てw
この女優さん、世話焼き女性役がピッタリだね。
「ずっと父さんの側にいたいの」
「私は死ぬ身だがお前はこれからだ。結婚は始めから幸せになれるもんじゃない。
新しい幸せを作っていくものなんだ。それがずーーっと繰り返してきた流れというものだよ。
お前なら幸せになれる。なってくれるね」
うーん、奥が深いんだね、このお父さんの結婚観は。新婚旅行は湯河原だって、随分近場だね
すっかりガランとした娘の部屋でリンゴを静かに剥き終え、初めて父親は涙を流す。
喜びの涙か。孤独の涙か。両方か。笠智衆の老いた演技は繊細で、何度も撮り直しさせられたなんて思えない。
「海はあっちだっけ?」「こっち」「東京はこっちだろ」「あっち」
なんて笑いのシーンもいろいろとりまぜて、日本の家族が時代とともに微妙に移りゆく様をじっくりとらえた貴重な記録でもある。
(笠智衆が「九州男はけして泣かない」ってゆって監督に反対したって今作だったっけね?
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『悪い奴ほどよく眠る』(1960)
監督:黒澤明 出演:三船敏郎、
森雅之、香川京子、三橋達也、志村喬、西村晃、加藤武、藤原釜足、笠智衆、藤田進、菅井きん、田中邦衛 ほか
三船さんはいくつになっても、どの作品でも三船だけど、森さんの化けようは分からなかった
スチールのアップですら本人と思えないのは歳のせいだけでもあるまい。
今じゃ珍しくない汚職を題材に堅い社会問題を突いてる。
本当に公金の使い道は無駄のほうが多い。長年築き上げられた汚いルートはいちいちほじくって告発することもできないくらいだろう。
笠智衆さんの老人じゃない役を観るのは初めてだが、なんだかちょっと小津さん入った喋りがイイ。
殺し屋役の田中邦衛さんが若い。黒澤作品には端役で何回か出てるんだね。
図体の大きいサラリーマンの三船さんと森さんの共演に喜んだが、本当にこれが森さんなのかいまだに信じがたい。
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『お早よう』(1959)
監督:小津安二郎 出演:佐田啓二、
久我美子、笠智衆、三宅邦子、杉村春子、三好栄子 ほか
だんだん鑑賞を重ねるうちに誰が誰か名前と顔が一致してきた。『白痴』で気の強い役を演じた美しい女優は久我さん、
世話焼きおばさんの役が多い杉村さん、三宅さんらは、当時の重鎮のバイプレーヤーだったんだろう。
なんとなく音楽や撮り方がJ.タチのようなカラーの今作。
両隣が混み合って、なにかと面倒な近所付き合いの様子を、日本的に軽い喜劇ドラマとして描いた。
きっと昭和初期だろうな。映画界もテレビに押されて苦しい時だったらしい。文化の進歩には勝てない。
このタイトルは、子供がバカバカしいと思う、大人の決まりきった挨拶からきてる。
ラストシーンも、いい感じの男女が、想いは隠して「いい天気ですね」と繰り返している。
難しい人間関係の潤滑油ってやつよね。今作はシリアスなテーマはなくほのぼのムード。
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『姿三四郎』(1943)
監督:黒澤明 出演:大河内傳次郎、
藤田進、轟夕起子、志村喬、河野秋武、清川荘司 ほか
これが記念すべき黒澤の初監督作品。短編ながら柔道の真剣勝負の世界をおもしろく描いている。
三四郎の俳優が実にさわやかな甘いマスク。
ラスト、横浜へ向かうという汽車がたった3両で何もない野原を走ってゆくのがなんともほのぼのムード。
そっか、柔道って殺人技にもなる武術なんだって改めて分かった。
スポーツかゲームのように思ってたけど、相撲よりもっとエキサイティングなんだ。
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『どん底』(1957)
監督:黒澤明 出演:三船敏郎、山田五十鈴、香川京子、中村鴈治郎、千秋実、左卜全 ほか
今作は華やかな武家社会でも、侍の立ち回りもなし。延々と浮浪者同然の男たちを撮った異色作。
すっかり開き直った者、夢を見る者、1つの希望にしがみつく者、どん底の生活の中でいろんな人生観がある。
年中酒
と、バクチと、惚れたはれたの繰り返しに、お遍路の格好のじいさんの出現で急展開する。
「ウソでも支えにしなきゃ生きてけない奴もいるって知ってただけさ。悩んだってくだらねぇ、なるようになるさ」
ドンツクドンツク酒を飲んで踊りまくる、このアカペラがなかなかプロ級で圧巻。
こうなると自分のことも手にあふれて、人の心配をする余裕もない。
なぜ生まれ、なぜ生きるかなんて、かったるくて考えられない。
酒で正気を忘れて、同じアホなら踊らにゃ損ってやつ。
「働いてなんとかなるなら、働くさ」ってことは時代が貧しかったからか。
ああ、自分もいつか死ぬ身で、こんなどん底な気持ちになった時こそ、他人をいたわったり、
陽気にマイペースにその日を過ごしたいな、なんて思う。
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『わが青春に悔なし』(1946)
監督:黒澤明 出演:原節子、
藤田進、大河内傳次郎、杉村春子、三好栄子、志村喬 ほか
昭和初期、京大の学生運動を背景に、1人の女の自立を描いた。原らが大学生から20代後半までを演じる。
昭和8年といえば父が生まれた年。日本はまだ戦時色が強く、自由な思想を持つことだけで「アカ」とか、国の敵とみなされた。
詳しい状況が分からずもどかしいが、淡い恋模様、逆境に向かうヒロインの話だけでも見応えあり。
藤田の変わらずさわやかな魅力が残る。
「こうなるのを恐れていた。自分は明日どうなるかも分からない。私の仕事は10年後の日本に理解され、役立つものなんだ」
夫婦のように同棲し、束の間の幸せの中に、不安と背中合わせでも、情熱の女はこういう愛に燃えるんだよね。
今までハイソなお嬢さま役の多かった原の、女を捨てた労働者ぶりに注目。
「1番生き甲斐を感じる」ここまでさせる愛の力ってスゴイね。
しかし素直に言いたいこともいえないなんて時代は怖い。二度と繰り返さないように願おう。
逆に言えばそんな時代だったから、男女の愛情の絆、人と人の絆が強まり、生きる意義も見出せたのかもしれない。
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『秋刀魚の味』(1962)
監督:小津安二郎 出演:笠智衆、岩下志麻、佐田啓二、岡田茉莉子、吉田輝雄 ほか
驚いたことに『晩春』とキャストを少し変えてあるだけでストーリーからセリフまでほとんど同じ。
他にも母1人子1人のバージョンがあるらしいが、なぜここまでこだわったのか?
画家が同じテーマで何作も描くことはあっても、映画で同じものを撮るって人は初めて。
若い岩下がクールビューティーで、素直な娘役って感じじゃない。
今作でも父が友人に「娘はつまらん。育てたらやらなきゃならない」と同じセリフ。
曲はまた『ぼくの伯父さん』風でのどか。
バーでばったり会った海兵隊時代の人と軍艦マーチ?を聞いて敬礼のマネをし
「もし日本が勝ってたら、青い眼で三味線弾くのがいただろう。今じゃ若者が向こうのマネしてるけど」
「負けてよかったよ」
なんて会話の中にも、戦争がつい昨日の記憶として残っていることが分かる。
サラリーマンの兄が奥さんに気兼ねしながらゴルフクラブをやっと手に入れて、練習場で嬉しそうに打つシーンも日本的。
でも共働きで、早く帰った夫がエプロンして料理するなんていいじゃない。
とにかく登場人物が飲んでばかりいるフシギな作品。