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忘れないように……

アカデミー賞の発表順や俳優賞についてあれこれ

2021-05-14 12:45:00 | 映画 - ベスト

 今年のアカデミー賞の授賞式での各賞の発表の順番は、例年とはかなり違う物となった。

Shawna Xが担当した第93回アカデミー賞の公式ビジュアル

 監督賞は、過去5年では21番目や23番目と終盤に発表されていたが、今回は7番目に発表。作品賞は、今までは最後に発表されていたのに、今回は最後から3番目。

 それもこれも、主演男優賞を最後に持って来るためだった。昨年8月に大腸癌で43歳の若さで亡くなったチャドウィック・ボーズマンの受賞で式典の最後を飾ろうと考えたのだろう。

 2016年~2021年の授賞式の具体的な発表順は以下の通り。


日時
(現地時間)
2021年
4月25日
2020年
2月9日
2019年
2月24日
2018年
3月4日
2017年
2月26日
2016年
2月28日
第93回第92回第91回第90回第89回第88回
司会無し無し無しジミー・キンメルジミー・キンメルクリス・ロック
作品賞『ノマドランド』『パラサイト 半地下の家族』『グリーンブック』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ムーンライト』『スポットライト 世紀のスクープ』
開始時刻
(日本時間)
9:00am10:00am10:00am10:00am10:30am10:30am
放映時間3時間19分3時間36分3時間21分3時間53分3時間49分3時間37分
各部門の発表順
1脚本賞助演男優賞助演女優賞助演男優賞助演男優賞脚本賞
2脚色賞長編アニメーション賞長編ドキュメンタリー賞メイク&ヘアスタイリング賞メイク&ヘアスタイリング賞脚色賞
3国際長編映画賞短編アニメーション賞メイク&ヘアスタイリング賞衣装デザイン賞衣装デザイン賞助演女優賞
4助演男優賞脚本賞衣装デザイン賞長編ドキュメンタリー賞長編ドキュメンタリー賞衣装デザイン賞
5メイク&ヘアスタイリング賞脚色賞美術賞音響編集賞音響編集賞美術賞
6衣装デザイン賞短編実写映画賞撮影賞録音賞録音賞メイク&ヘアスタイリング賞
7監督賞美術賞音響編集賞美術賞助演女優賞撮影賞
8音響賞衣装デザイン賞録音賞外国語映画賞外国語映画賞編集賞
9短編実写映画賞長編ドキュメンタリー賞外国語映画賞助演女優賞短編アニメーション賞音響編集賞
10短編アニメーション賞短編ドキュメンタリー賞編集賞短編アニメーション賞長編アニメーション賞録音賞
11長編アニメーション賞助演女優賞助演男優賞長編アニメーション賞美術賞視覚効果賞
12短編ドキュメンタリー賞音響編集賞長編アニメーション賞視覚効果賞視覚効果賞短編アニメーション賞
13長編ドキュメンタリー賞録音賞短編アニメーション賞編集賞編集賞長編アニメーション賞
14視覚効果賞撮影賞短編ドキュメンタリー賞短編ドキュメンタリー賞短編ドキュメンタリー賞助演男優賞
15助演女優賞編集賞視覚効果賞短編実写映画賞短編実写映画賞短編ドキュメンタリー賞
16美術賞視覚効果賞短編実写映画賞脚色賞撮影賞長編ドキュメンタリー賞
17撮影賞メイク&ヘアスタイリング賞脚本賞脚本賞作曲賞短編実写映画賞
18編集賞国際長編映画賞脚色賞撮影賞歌曲賞外国語映画賞
19作曲賞作曲賞作曲賞作曲賞脚本賞作曲賞
20歌曲賞歌曲賞歌曲賞歌曲賞脚色賞歌曲賞
21作品賞監督賞主演男優賞監督賞監督賞監督賞
22主演女優賞主演男優賞主演女優賞主演男優賞主演男優賞主演女優賞
23主演男優賞主演女優賞監督賞主演女優賞主演女優賞主演男優賞
24作品賞作品賞作品賞作品賞作品賞


 今年は23部門と昨年までより1部門少ないのは、録音賞(Best Sound Mixing、第3回アカデミー賞から)と音響編集賞(Best Sound Editing、第36回から)が統合されて音響賞(Best Sound)になったからだ。



 また、従来の外国語映画賞(Best Foreign Language Film、第20回から)の名称が、昨年開催の第92回から国際長編映画賞(Best International Feature Film)に変更された。この名称変更は2019年4月の会合で決められた。

 名称は変更されたが、エントリー資格は米国以外で製作された主要言語が非英語の長編であることに変わりはない。このため、ナイジェリアからこの部門に初めて出品された『LIONHEART/ライオンハート』が、その主要言語がナイジェリア唯一の公用語である英語であったため、第92回アカデミー賞の国際長編映画賞において失格とされて物議をかもした。翌年のアカデミー賞には、ナイジェリアはハウサ語の映画を出品した。



 今年のアカデミー賞の開始時刻が前年より1時間も早くなったのは、コロナ禍で延期されて4月開催となりアメリカではサマータイムが始まっていたため。現地では開始時刻は前年通りである。ただし、2017年までのアカデミー賞と比べると現地時間でも30分早く始まっている。



◆ ◆ ◆

 話を戻すと、今年の授賞式で最後に発表となった主演男優賞はチャドウィック・ボーズマンではなくアンソニー・ホプキンスが受賞した。主演作『ファーザー』の日本公開は2021年5月14日(金)で、緊急事態宣言の期間延長を受けて休業中の映画館も地域によっては多いのだが、予定通りの日付で公開となった。

 私は授賞式の数日前にチャドウィック・ボーズマン主演の『マ・レイニーのブラックボトム』を観て、ボーズマンの受賞はないなと思った。作品自体は悪くはないんだけれど “とても良かった” わけでもなく、そういう作品の中での演技にいまいちピンと来なかった。(誰から見ても分かりやすい “熱演” ならともかく、そうでない演技を演技経験のない者が評価するのは難しく、演技の善し悪しというのは分かりづらい)

 下馬評などからチャドウィック・ボーズマンが本命視されていたが、予想をアンソニー・ホプキンスに変更した。ボーズマン以外の4名の主演男優賞候補のうち『ミナリ』のスティーヴン・ユァン以外の3人は見てなかったので、年齢的に最後のノミネートかもしれないという理由からで、予想というより希望だった。まさか的中するとは思わなかった。



 チャドウィック・ボーズマン主演のNetflixの『マ・レイニーのブラックボトム』は、主演男優賞の他に主演女優賞・美術賞・衣装デザイン賞・メイクアップ&ヘアスタイリング賞の計5部門でノミネートされ、衣装デザイン賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞の2部門を受賞。主要部門は俳優賞のみのノミネートだった。

 そもそも、作品賞にも監督賞にも脚色賞にもノミネートされてない映画で主演賞を受賞できるのだろうか。

 たとえアカデミー賞級の演技をしても、それがラジー賞にノミネートされるような最低映画だったら、アカデミー会員は投票するだろうか。やはり、名作の中での演技だからこそ、アカデミー賞に絡んでくるのだと思う。



 そこで、今世紀に入ってから授賞式が開催された第73回~第93回の21回のアカデミー賞の俳優賞の受賞者が出た映画が、アカデミー賞の作品賞・監督賞・脚本賞・脚色賞にノミネートされたか、受賞したか調べてみた。各年の受賞俳優は主演女優賞・主演男優賞・助演女優賞・助演男優賞の順に並べています。受賞を「◎」、ノミネート止まりを「△」、ノミネートもされなかったものは「×」としています。



開催年
(作品賞
ノミネート数)
俳優作品名作品
監督
脚本・
脚色賞
2021年
第93回
(8本)
フランシス・マクドーマンド『ノマドランド』
アンソニー・ホプキンス『ファーザー』×
ユン・ヨジョン『ミナリ』
ダニエル・カルーヤ Judas and the Black Messiah×
2020年
第92回
(9本)
レネー・ゼルウィガー『ジュディ 虹の彼方に』×××
ホアキン・フェニックス『ジョーカー』
ローラ・ダーン『マリッジ・ストーリー』×
ブラッド・ピット『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
2019年
第91回
(8本)
オリヴィア・コールマン『女王陛下のお気に入り』
ラミ・マレック『ボヘミアン・ラプソディ』××
レジーナ・キング『ビール・ストリートの恋人たち』××
マハーシャラ・アリ『グリーンブック』×
2018年
第90回
(9本)
フランシス・マクドーマンド『スリー・ビルボード』×
ゲイリー・オールドマン『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男××
アリソン・ジャネイ『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』×××
サム・ロックウェル『スリー・ビルボード』×
2017年
第89回
(9本)
エマ・ストーン『ラ・ラ・ランド』
ケイシー・アフレック『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
ヴィオラ・デイヴィス『フェンス』×
マハーシャラ・アリ『ムーンライト』
2016年
第88回
(8本)
ブリー・ラーソン『ルーム』
レオナルド・ディカプリオ『レヴェナント:蘇えりし者』×
アリシア・ヴィカンダー『リリーのすべて』×××
マーク・ライランス『ブリッジ・オブ・スパイ』×
2015年
第87回
(8本)
ジュリアン・ムーア『アリスのままで』×××
エディ・レッドメイン『博士と彼女のセオリー』×
パトリシア・アークエット『6才のボクが、大人になるまで。』
J・K・シモンズ『セッション』×
2014年
第86回
(9本)
ケイト・ブランシェット『ブルージャスミン』××
マシュー・マコノヒー『ダラス・バイヤーズクラブ』×
ルピタ・ニョンゴ『それでも夜は明ける』
ジャレッド・レトー『ダラス・バイヤーズクラブ』×
2013年
第85回
(9本)
ジェニファー・ローレンス『世界にひとつのプレイブック』
ダニエル・デイ=ルイス『リンカーン』
アン・ハサウェイ『レ・ミゼラブル』××
クリストフ・ヴァルツ『ジャンゴ 繋がれざる者』×
2012年
第84回
(9本)
メリル・ストリープ『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』×××
ジャン・デュジャルダン『アーティスト』
オクタヴィア・スペンサー『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』××
クリストファー・プラマー『人生はビギナーズ』×××
2011年
第83回
(10本)
ナタリー・ポートマン『ブラック・スワン』×
コリン・ファース『英国王のスピーチ』
メリッサ・レオ『ザ・ファイター』
クリスチャン・ベイル『ザ・ファイター』
2010年
第82回
(10本)
サンドラ・ブロック『しあわせの隠れ場所』××
ジェフ・ブリッジス『クレイジー・ハート』×××
モニーク『プレシャス』
クリストフ・ヴァルツ『イングロリアス・バスターズ』
2009年
第81回
(5本)
ケイト・ウィンスレット『愛を読むひと』
ショーン・ペン『ミルク』
ペネロペ・クルス『それでも恋するバルセロナ』×××
ヒース・レジャー『ダークナイト』×××
2008年
第80回
(5本)
マリオン・コティヤール『エディット・ピアフ ~愛の讃歌~』×××
ダニエル・デイ=ルイス『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
ティルダ・スウィントン『フィクサー』
ハビエル・バルデム『ノーカントリー』
2007年
第79回
(5本)
ヘレン・ミレン『クィーン』
フォレスト・ウィッテカー『ラストキング・オブ・スコットランド』×××
ジェニファー・ハドソン『ドリームガールズ』×××
アラン・アーキン『リトル・ミス・サンシャイン』×
2006年
第78回
(5本)
リース・ウィザースプーン『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』×××
フィリップ・シーモア・ホフマン『カポーティ』
レイチェル・ワイズ『ナイロビの蜂』××
ジョージ・クルーニー『シリアナ』××
2005年
第77回
(5本)
ヒラリー・スワンク『ミリオンダラー・ベイビー』
ジェイミー・フォックス『Ray/レイ』×
ケイト・ブランシェット『アビエイター』
モーガン・フリーマン『ミリオンダラー・ベイビー』
2004年
第76回
(5本)
シャーリーズ・セロン『モンスター』×××
ショーン・ペン『ミスティック・リバー』
レネー・ゼルウィガー『コールド マウンテン』×××
ティム・ロビンス『ミスティック・リバー』
2003年
第75回
(5本)
ニコール・キッドマン『めぐりあう時間たち』
エイドリアン・ブロディ『戦場のピアニスト』
キャサリン・ゼタ・ジョーンズ『シカゴ』
クリス・クーパー『アダプテーション』××
2002年
第74回
(5本)
ハリー・ベリー『チョコレート』××
デンゼル・ワシントン『トレーニング デイ』×××
ジェニファー・コネリー『ビューティフル・マインド』
ジム・ブロードベント『アイリス』×××
2001年
第73回
(5本)
ジュリア・ロバーツ『エリン・ブロコビッチ』
ラッセル・クロウ『グラディエーター』
マーシャ・ゲイ・ハーデン『ポロック 2人だけのアトリエ』×××
ベニチオ・デル・トロ『トラフィック』


 第73回~第93回の俳優賞受賞者のべ84名のうち、作品賞・監督賞・脚本賞・脚色賞のいずれにもノミネートされてない作品から俳優賞を受賞したのは18回あった(レネー・ゼルウィガーが2回受賞してるので計17名)。第82回から作品賞のノミネート作品数が倍増したのに、第82回~第93回の12回だけでも7回。意外と多かった。

  • 第92回 - レネー・ゼルウィガー (『ジュディ 虹の彼方に』 主演)
  • 第90回 - アリソン・ジャネイ (『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』 助演)
  • 第88回 - アリシア・ヴィカンダー (『リリーのすべて』 助演)
  • 第87回 - ジュリアン・ムーア (『アリスのままで』 主演)
  • 第84回 - メリル・ストリープ (『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』 主演)
  •  〃  - クリストファー・プラマー (『人生はビギナーズ』 助演)
  • 第82回 - ジェフ・ブリッジス (『クレイジー・ハート』 主演)
  • 第81回 - ペネロペ・クルス (『それでも恋するバルセロナ』 助演)
  •  〃  - ヒース・レジャー (『ダークナイト』 助演)
  • 第80回 - マリオン・コティヤール (『エディット・ピアフ ~愛の讃歌~』 主演)
  • 第79回 - フォレスト・ウィッテカー (『ラストキング・オブ・スコットランド』 主演)
  •  〃  - ジェニファー・ハドソン (『ドリームガールズ』 助演)
  • 第78回 - リース・ウィザースプーン (『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』 主演)
  • 第76回 - シャーリーズ・セロン (『モンスター』 主演)
  •  〃  - レネー・ゼルウィガー (『コールド マウンテン』 助演)
  • 第74回 - デンゼル・ワシントン (『トレーニング デイ』 主演)
  •  〃  - ジム・ブロードベント (『アイリス』 助演)
  • 第73回 - マーシャ・ゲイ・ハーデン (『ポロック 2人だけのアトリエ』 助演)

 逆に、作品賞・監督賞そして脚本部門の賞の3つとも受賞した作品から俳優賞を受賞した者は、コリン・ファース(『英国王のスピーチ』主演)、ハビエル・バルデム(『ノーカントリー』助演)、ジェニファー・コネリー(『ビューティフル・マインド』助演)の3名のみ。思ってた以上に少ない。


 第73回~第93回のアカデミー賞で俳優賞を複数回受賞してるのは、以下の7名。いずれも2度受賞。この中で、作品賞・監督賞・脚本賞・脚色賞のいずれにもノミネートされてない作品から俳優賞を受賞したのはレネー・ゼルウィガーのみ。

  • フランシス・マクドーマンド (『ノマドランド』 主演、『スリー・ビルボード』 主演)
  • レネー・ゼルウィガー (『ジュディ 虹の彼方に』 主演、『コールド マウンテン』 助演)
  • マハーシャラ・アリ (『グリーンブック』 助演、『ムーンライト』 助演)
  • ケイト・ブランシェット (『ブルージャスミン』 主演、『アビエイター』 助演)
  • ダニエル・デイ=ルイス (『リンカーン』 主演、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 主演)
  • クリストフ・ヴァルツ (『ジャンゴ 繋がれざる者』 助演、『イングロリアス・バスターズ』 助演)
  • ショーン・ペン (『ミルク』 主演、『ミスティック・リバー』 主演)


◆ ◆ ◆

 先ほど、ラジー賞うんぬんと言ったが、今年は37年ぶりの珍事があった。

 ラジー賞とは、ゴールデン・ラズベリー賞の愛称。アカデミー賞の授賞式の前日に “最低” の映画や演技を選んで表彰している。会費を払えば誰でも会員になれて投票できる。

 今年のアカデミー賞授賞式の中継で話題をさらったグレン・クローズが、Netflixの『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』の演技でなんとアカデミー賞とラジー賞の両方で助演女優賞にノミネートされてたのだ。結果としてはどちらも受賞には至らず。

 『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』は、アカデミー賞では助演女優賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞の2部門、ラジー賞では監督賞・助演女優賞・脚本賞の3部門にノミネートされた。原作は2016年のノンフィクション本『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』。

 同じ映画での演技でアカデミー賞とラジー賞の両方にノミネートされた俳優にはこれまで、『泣かないで』 Only When I Laugh (1981年) で助演男優賞のジェームズ・ココと、『愛のイエントル』 Yentl (1983年) で助演女優賞のエイミー・アーヴィングの2名がいるだけ。いずれも受賞は他の俳優だった。

 本当に最低な映画は観てる人がほとんどいなかったりするので、結局は名前の知られた映画に票が集まりノミネートすることになるため、こういうこともまれに起きるのである。



参照: