
2007年の暮れに行われたライブ、THE SECOND SESSIONの際に配布されたもののなかに1枚のリーフレットが混じっていた。
そして1ヶ月と経たないうちに製作発表。
吉川晃司“日本のシンドラー”に〔2008/1/17〕
第2次世界大戦中にナチスの迫害からユダヤ人を救った実在のリトアニア領事、杉原千畝(ちうね)氏を描くミュージカル「SEMPO」の製作発表が16日、都内で行われた。杉原氏の活動に興味を持っていた歌手の中島みゆき(55)が初めてミュージカルに楽曲を提供。テーマ曲「NOW」など6曲を書き下ろした。
主演はミュージカル初挑戦のロック歌手・吉川晃司(42)。本国の意向に背きユダヤ人にビザを発給した“日本のシンドラー”役に「権力にのみ込まれず信念を貫く精神はロックに通じる。魂を揺らす作品にしたい」と抱負。共演は愛華みれ(43)、今拓哉(39)ら。4月4日から東京・初台の新国立劇場で。
ミュージカル。
ミュージカルだ。
そりゃあ歌はずいぶん上手くなったとはファン心理では思うけれど、そもそも発声の方法も違うだろうし、演技の方も特別上手い方だとも思わない。
吉川晃司にとってステージは「歌って自己表現する場所」であって、そこで何者かの人生を生きる芝居はこの上ではやってはいなかった。
そんな吉川がミュージカルのしかも主演。
吉川ファン(私も含め)が喜ぶものをきっと作ってくれるだろうという謎の信頼感はあったものの、そこにはほかの多くの役者が共演しており、当然そのファンの、おそらく演劇やミュージカルをたっぷりを見てきた人々がその舞台を見る。
そんな人たちが喜んでくれるものが出来るのだろうか?
期待と不安がシーソーのようにあっちへ行ったりこっちへ来たりする。
で、私は何公演かのチケットを取り、東京へも行ってその姿を確かめることにした。
SEMPO -日本のシンドラー 杉原千畝物語-
杉原千畝:吉川晃司
杉原幸子:森奈みはる
(当初は愛華みれの予定だったが体調不良で降板)
トニー/ノエル:今拓哉
エバ:彩輝なお
エリーゼ:井料瑠美
ビル/ニシュリ:泉見洋平
杉原節子:辛島小恵
グッシェ:田村雄一
ソリー:池田祐見子
カイム:沢木順
私は舞台の演劇やミュージカルをほとんど見たことが無かった。はまってしまうと抜け出せないだろうことが容易に想像できたからだ。
せいぜい友人の小劇団の本当に小さな箱の作品くらいしか見たことがない。
しかし吉川が主演するとなればそうも言っていられない。妙に緊張しながら開演を待った。
オーケストラピットから音楽が流れ始める。
導入部が演じ始められるが、「杉原千畝」の出番はまだだ。
現代(ベトナム戦争時代)の場面から過去へ。
今思えば、杉原千畝=センポの登場シーンは『吉川晃司』を随分意識した演出だったのかもしれない。
飲み屋で情報交換するトレンチにハットの男。
第一幕は吉川晃司の歌う場面は殆ど無かった。
客席の私はというと、出来るだけフラットに作品だけに集中して見ようと思っていたにもかかわらず、吉川の場面はどうにもソワソワしてしまい──作品の中で浮いてしまってはいないか、悪目立ちしてしまってはいないか、そんなことが気になってしまって集中できなかった。
しかし第二幕が始まり、いよいよセンポの歌う場面が増えてくるにつれて物語も佳境に向かい、いつの間にか第一幕で感じていたような微かな居心地の悪さや『吉川晃司』を感じることはなくなっていた。
そこにいるのは、この物語の中に生きる『杉原千畝』だった。
パスポートにサインを続ける千畝(センポ)。
判子屋の職人が手書きではつらかろうと判子を作り差し出す。
ナチス秘密警察のスパイだった秘書も協力し始める。
そして千畝はついに当局に連行される。
「申し訳ない、私にはもう書けない──」
千畝は汽車に乗せられる直前までサインを書き続けた。
私はいつの間にかすっかり入り込んでしまい、ハンカチがなければ困るくらい号泣していた。
そして2回目の観劇からは、もうオープニングの歌が始めるだけで泣けるようになっていた。
このミュージカルの経験は吉川晃司にとって本当に大きかったのだろうと思う。
この出演にあたって、やはりこれまでの発声とは根本的に違うため、クラシックの発声、ミュージカルの歌い方をきちんと学んだという。
ロックの歌い方に戻したとしても喉の使い方をちゃんと知ったおかげで声が枯れなくなったり幅が広がったりしたというようなことを本人も言っていた。
ライブに通って彼の歌を聴き続けてきた素人の私にもわかる程に吉川晃司の歌は変わったのだ。
より安定し、よりダイナミックに、より伸びやかに。
さてこの『SEMPO』の公演が開幕する2ヶ月ほど前。
1本の映画が公開されていた。
チーム・バチスタの栄光
海堂尊の「このミステリーがすごい大賞」受賞作の映画化。
この時には私はまだこの原作を読んでいなかった(興味はあった)のだが、もともと原作ありの映像化の場合は原作は出来る限り映像作品を見た後に読むことにしている。(もともと読んでいたものが映像化された場合はまあ仕方ない)
主人公の性別が変えられているなどという情報もあったので、これは原作を先に読んでしまうと絶対楽しめないな!と確信したので読むのを保留していた。
吉川晃司の役どころは、チーム・バチスタの中心人物である天才心臓外科医桐生恭一。
田口白鳥シリーズの主役はもちろん田口なのだが、「チーム・バチスタ」の物語の中ではまあ主役と言ってもいい重要な役どころ。
最初にこの映画の話を聞いた時には
ててて天 才 外 科 医 ???吉川が???????
と慌てたものだった。
これまで映画で演じてきた役はヤクザだったり犯罪グループに加わる不良刑事だったりして、それは『吉川晃司』のやんちゃそうなイメージが見る側に共有できていた役、乱暴な言い方だがある意味「演じなくてもそこにいるだけでその人物でいられる」ような役が多かったのだ(監督たちはそれを吉川晃司の存在感が唯一無二であるという表現で語ってくれてはいたけれど)。
ここへきて、(当時の)吉川晃司のイメージにはない役どころ。
映画監督たちの中に、吉川晃司が役者で使えるという認識が広まってきているのかもしれないと思った。
医療ものはまずセリフが難しい。そして桐生は天才心臓外科医。
十代のアイドル時代の映画でスタントマンを使うことを嫌がってスタッフや事務所の人間を困らせた吉川晃司は、20年以上たってもやはりスタントではなく出来る限り自分で手術のシーンも演じた。
この頃にはまだ、「役者の仕事も歌に生かすため」みたいなことを言っていて、役者は本業ではないような言い方をしていた。けれど「本業ではないからそれなりに見えればOK」という意味ではもちろんない。
本業として命がけで役者をやっている人に対して自分のスタンスは失礼なのではないか
という心理が働いたものだと私は察している。だからこそ、どんなに不器用でも全力でぶつかって演じなければそれこそ本業の人たちにたいへんな失礼なのだと。
原作者海堂尊が手術シーンの撮影を見学していた時、執刀している桐生を医学生が代わりに演じているのだと思ったというエピソードがある。
随分貫禄のある医学生だな、外科医の佇まいがすでに備わっている。
果たしてカットがかかりマスクを取った桐生は、吉川晃司本人だった──というもの。
自身も医師である海堂尊に本職の外科医(の卵)と見間違えられたというのだから吉川の役作りは成功だったのだろう。
映画自体は(私にはとても面白かったが)賛否両論あったのは仕方ないと思う。予定通り映画を見た後に原作を読んだ私はその原作の面白さにむしろショックを受けたものだった。映画を先に見ておいて本当に良かった。
ただ、今でも桐生恭一は吉川晃司で良かったとひそかに思っている。
たとえそれが吉川晃司ファンの贔屓目だったとしても。
この「桐生」を見た後に「SEMPO」を観劇した私は、俳優・吉川晃司の可能性について幾度も考えては反芻していた。
以降、吉川晃司には(撮影時期は別として)年1本くらいのペースで役者仕事が定着する。
8月。
こんなニュースが飛び込んできた。
吉川晃司が大河ドラマ「天地人」で魔王・信長に挑戦〔2008/8/20〕
2009年のNHK大河ドラマ「天地人」に、織田信長役として吉川晃司が出演することが明らかになった。
「天地人」は妻夫木聡演じる“知勇兼備”の戦国武将・直江兼続の成長と生き様を中心に描く長編歴史ドラマ。番組プロデューサーは吉川の起用について「既成の役者さんでは出せない、新しい信長像がほしかった。信長、天下、というものを表現するのに必要な存在感のある人」とその理由を話している。
8月19日早朝に山梨県で行われたクランクイン・ロケでは、吉川は髷にヒョウ柄袴という豪快なスタイルで凛々しい騎馬姿を披露。レコーディングの合間を縫って馬術のトレーニングを積んでいたという彼の見事な手綱さばきに、撮影スタッフからは感嘆の声が上がった。
妻夫木は「吉川さんを前にして、緊張感のあるシーンが撮れました」とコメント。一方の吉川は「馬のシーンを撮って、なんとかやっていけるかなと思いました。信長は特異な存在ですからね。ある意味、魔王であり、何かの犠牲者でもあっただろうなと思っているので。寂しい面と、強い面と、その二つを出せればいいと思っています」と、信長役という大役を演じる決意を語っている。
吉川がテレビドラマに出演するのは、2002年のNHK連続ドラマ「真夜中は別の顔」以来。「天地人」には前半約20話に出演予定とのことだ。
これは、本当に大きなニュースだった。
2002年の「真夜中は別の顔」ですでに出禁は解けており歌番組などにもたまに出てはいたものの、NHKだ。
しかも、「大河ドラマ」だ。
しかも、「信長」だ。
なんだろう、おかしな感覚なのはわかっているのだが、ぱぁっと晴れ渡った空が広がった気がした。
この時本格的に乗馬に取り組んだことで以降の時代劇にも繋がっていったし、吉川は今でも時間を見つけて馬には乗りに行っている。不器用な兼業役者だった吉川はその時どきの撮影で新しい世界に触れ、それをしっかりと自分の身につけていった。もしかしたらその姿勢の礎はこのあたりの作品で築かれたのかもしれない。
2009年になって見た作品「天地人」については色々言いたいことはあるがそこは割愛しよう。結局本能寺の変まで見てもう見るのをやめてしまった。
吉川が色々勉強してやろうとした所作などが現代人が見るのに違和感があるからと却下されたとか、信長は史実では下戸だとされているのに葡萄酒ばっかり飲んでいたとか、吉川にとっても意気込んだ分落胆の多い現場だったようだ。後にMCでも『信長公に申し訳ない』旨のことを言っている。
ただ、「大河ドラマ」に重要な役で出演したという実績はやはり大きい。
作品の評価はさておき「吉川晃司の信長」はそれなりに評価されていたようだったのがいちファンの視点としても喜ばしいことだった。
一般の知人などから「吉川晃司ってまだやってたんだ?」と言われなくなったことに気づいたのはもう少し後の話。ただし「コンサートもほぼ毎年やっている」と言うと2020年現在いまだに「まだ(歌を)やってるの?」と言われることならあるけれど…
そんな「信長」への期待が否応なく高まっている年末。
すでに恒例のようになった年末の代々木第二体育館でのライブが行われた。
3daysだったが2008年のコンサートはこの3本だけ。いつもならツアーが無かったことに対してもっと文句も言いたくなるところだっただろうがよほどこの年は濃密だったのだ。ツアーが無い代わりに舞台を何公演も見たことも手伝ってのことだと思うけれど。
KIKKAWA KOJI LIVE 2008 25th Year's Eve 〔2007/12/29~31〕
代々木第二体育館は、プロムナードを挟んでNHKのほぼ向かい側にある。
「来年の大河ドラマ」の予告編が流れたりもしていた。そこには信長に扮した吉川の姿もあり、ライブ前に否応なくウキウキしたものだった。
この時のサポートメンバー。
詳しいことはなにもわからない。
けれど、吉川がここへ来て未体験の事に挑もうとしていることは察せられた。
そして1ヶ月と経たないうちに製作発表。
吉川晃司“日本のシンドラー”に〔2008/1/17〕
第2次世界大戦中にナチスの迫害からユダヤ人を救った実在のリトアニア領事、杉原千畝(ちうね)氏を描くミュージカル「SEMPO」の製作発表が16日、都内で行われた。杉原氏の活動に興味を持っていた歌手の中島みゆき(55)が初めてミュージカルに楽曲を提供。テーマ曲「NOW」など6曲を書き下ろした。
主演はミュージカル初挑戦のロック歌手・吉川晃司(42)。本国の意向に背きユダヤ人にビザを発給した“日本のシンドラー”役に「権力にのみ込まれず信念を貫く精神はロックに通じる。魂を揺らす作品にしたい」と抱負。共演は愛華みれ(43)、今拓哉(39)ら。4月4日から東京・初台の新国立劇場で。
ミュージカル。
ミュージカルだ。
そりゃあ歌はずいぶん上手くなったとはファン心理では思うけれど、そもそも発声の方法も違うだろうし、演技の方も特別上手い方だとも思わない。
吉川晃司にとってステージは「歌って自己表現する場所」であって、そこで何者かの人生を生きる芝居はこの上ではやってはいなかった。
そんな吉川がミュージカルのしかも主演。
吉川ファン(私も含め)が喜ぶものをきっと作ってくれるだろうという謎の信頼感はあったものの、そこにはほかの多くの役者が共演しており、当然そのファンの、おそらく演劇やミュージカルをたっぷりを見てきた人々がその舞台を見る。
そんな人たちが喜んでくれるものが出来るのだろうか?
期待と不安がシーソーのようにあっちへ行ったりこっちへ来たりする。
で、私は何公演かのチケットを取り、東京へも行ってその姿を確かめることにした。
SEMPO -日本のシンドラー 杉原千畝物語-
杉原千畝:吉川晃司
杉原幸子:森奈みはる
(当初は愛華みれの予定だったが体調不良で降板)
トニー/ノエル:今拓哉
エバ:彩輝なお
エリーゼ:井料瑠美
ビル/ニシュリ:泉見洋平
杉原節子:辛島小恵
グッシェ:田村雄一
ソリー:池田祐見子
カイム:沢木順
私は舞台の演劇やミュージカルをほとんど見たことが無かった。はまってしまうと抜け出せないだろうことが容易に想像できたからだ。
せいぜい友人の小劇団の本当に小さな箱の作品くらいしか見たことがない。
しかし吉川が主演するとなればそうも言っていられない。妙に緊張しながら開演を待った。
オーケストラピットから音楽が流れ始める。
導入部が演じ始められるが、「杉原千畝」の出番はまだだ。
現代(ベトナム戦争時代)の場面から過去へ。
今思えば、杉原千畝=センポの登場シーンは『吉川晃司』を随分意識した演出だったのかもしれない。
飲み屋で情報交換するトレンチにハットの男。
第一幕は吉川晃司の歌う場面は殆ど無かった。
客席の私はというと、出来るだけフラットに作品だけに集中して見ようと思っていたにもかかわらず、吉川の場面はどうにもソワソワしてしまい──作品の中で浮いてしまってはいないか、悪目立ちしてしまってはいないか、そんなことが気になってしまって集中できなかった。
しかし第二幕が始まり、いよいよセンポの歌う場面が増えてくるにつれて物語も佳境に向かい、いつの間にか第一幕で感じていたような微かな居心地の悪さや『吉川晃司』を感じることはなくなっていた。
そこにいるのは、この物語の中に生きる『杉原千畝』だった。
パスポートにサインを続ける千畝(センポ)。
判子屋の職人が手書きではつらかろうと判子を作り差し出す。
ナチス秘密警察のスパイだった秘書も協力し始める。
そして千畝はついに当局に連行される。
「申し訳ない、私にはもう書けない──」
千畝は汽車に乗せられる直前までサインを書き続けた。
私はいつの間にかすっかり入り込んでしまい、ハンカチがなければ困るくらい号泣していた。
そして2回目の観劇からは、もうオープニングの歌が始めるだけで泣けるようになっていた。
このミュージカルの経験は吉川晃司にとって本当に大きかったのだろうと思う。
この出演にあたって、やはりこれまでの発声とは根本的に違うため、クラシックの発声、ミュージカルの歌い方をきちんと学んだという。
ロックの歌い方に戻したとしても喉の使い方をちゃんと知ったおかげで声が枯れなくなったり幅が広がったりしたというようなことを本人も言っていた。
ライブに通って彼の歌を聴き続けてきた素人の私にもわかる程に吉川晃司の歌は変わったのだ。
より安定し、よりダイナミックに、より伸びやかに。
さてこの『SEMPO』の公演が開幕する2ヶ月ほど前。
1本の映画が公開されていた。
チーム・バチスタの栄光
海堂尊の「このミステリーがすごい大賞」受賞作の映画化。
この時には私はまだこの原作を読んでいなかった(興味はあった)のだが、もともと原作ありの映像化の場合は原作は出来る限り映像作品を見た後に読むことにしている。(もともと読んでいたものが映像化された場合はまあ仕方ない)
主人公の性別が変えられているなどという情報もあったので、これは原作を先に読んでしまうと絶対楽しめないな!と確信したので読むのを保留していた。
吉川晃司の役どころは、チーム・バチスタの中心人物である天才心臓外科医桐生恭一。
田口白鳥シリーズの主役はもちろん田口なのだが、「チーム・バチスタ」の物語の中ではまあ主役と言ってもいい重要な役どころ。
最初にこの映画の話を聞いた時には
ててて天 才 外 科 医 ???吉川が???????
と慌てたものだった。
これまで映画で演じてきた役はヤクザだったり犯罪グループに加わる不良刑事だったりして、それは『吉川晃司』のやんちゃそうなイメージが見る側に共有できていた役、乱暴な言い方だがある意味「演じなくてもそこにいるだけでその人物でいられる」ような役が多かったのだ(監督たちはそれを吉川晃司の存在感が唯一無二であるという表現で語ってくれてはいたけれど)。
ここへきて、(当時の)吉川晃司のイメージにはない役どころ。
映画監督たちの中に、吉川晃司が役者で使えるという認識が広まってきているのかもしれないと思った。
医療ものはまずセリフが難しい。そして桐生は天才心臓外科医。
十代のアイドル時代の映画でスタントマンを使うことを嫌がってスタッフや事務所の人間を困らせた吉川晃司は、20年以上たってもやはりスタントではなく出来る限り自分で手術のシーンも演じた。
この頃にはまだ、「役者の仕事も歌に生かすため」みたいなことを言っていて、役者は本業ではないような言い方をしていた。けれど「本業ではないからそれなりに見えればOK」という意味ではもちろんない。
本業として命がけで役者をやっている人に対して自分のスタンスは失礼なのではないか
という心理が働いたものだと私は察している。だからこそ、どんなに不器用でも全力でぶつかって演じなければそれこそ本業の人たちにたいへんな失礼なのだと。
原作者海堂尊が手術シーンの撮影を見学していた時、執刀している桐生を医学生が代わりに演じているのだと思ったというエピソードがある。
随分貫禄のある医学生だな、外科医の佇まいがすでに備わっている。
果たしてカットがかかりマスクを取った桐生は、吉川晃司本人だった──というもの。
自身も医師である海堂尊に本職の外科医(の卵)と見間違えられたというのだから吉川の役作りは成功だったのだろう。
映画自体は(私にはとても面白かったが)賛否両論あったのは仕方ないと思う。予定通り映画を見た後に原作を読んだ私はその原作の面白さにむしろショックを受けたものだった。映画を先に見ておいて本当に良かった。
ただ、今でも桐生恭一は吉川晃司で良かったとひそかに思っている。
たとえそれが吉川晃司ファンの贔屓目だったとしても。
この「桐生」を見た後に「SEMPO」を観劇した私は、俳優・吉川晃司の可能性について幾度も考えては反芻していた。
以降、吉川晃司には(撮影時期は別として)年1本くらいのペースで役者仕事が定着する。
8月。
こんなニュースが飛び込んできた。
吉川晃司が大河ドラマ「天地人」で魔王・信長に挑戦〔2008/8/20〕
2009年のNHK大河ドラマ「天地人」に、織田信長役として吉川晃司が出演することが明らかになった。
「天地人」は妻夫木聡演じる“知勇兼備”の戦国武将・直江兼続の成長と生き様を中心に描く長編歴史ドラマ。番組プロデューサーは吉川の起用について「既成の役者さんでは出せない、新しい信長像がほしかった。信長、天下、というものを表現するのに必要な存在感のある人」とその理由を話している。
8月19日早朝に山梨県で行われたクランクイン・ロケでは、吉川は髷にヒョウ柄袴という豪快なスタイルで凛々しい騎馬姿を披露。レコーディングの合間を縫って馬術のトレーニングを積んでいたという彼の見事な手綱さばきに、撮影スタッフからは感嘆の声が上がった。
妻夫木は「吉川さんを前にして、緊張感のあるシーンが撮れました」とコメント。一方の吉川は「馬のシーンを撮って、なんとかやっていけるかなと思いました。信長は特異な存在ですからね。ある意味、魔王であり、何かの犠牲者でもあっただろうなと思っているので。寂しい面と、強い面と、その二つを出せればいいと思っています」と、信長役という大役を演じる決意を語っている。
吉川がテレビドラマに出演するのは、2002年のNHK連続ドラマ「真夜中は別の顔」以来。「天地人」には前半約20話に出演予定とのことだ。
これは、本当に大きなニュースだった。
2002年の「真夜中は別の顔」ですでに出禁は解けており歌番組などにもたまに出てはいたものの、NHKだ。
しかも、「大河ドラマ」だ。
しかも、「信長」だ。
なんだろう、おかしな感覚なのはわかっているのだが、ぱぁっと晴れ渡った空が広がった気がした。
この時本格的に乗馬に取り組んだことで以降の時代劇にも繋がっていったし、吉川は今でも時間を見つけて馬には乗りに行っている。不器用な兼業役者だった吉川はその時どきの撮影で新しい世界に触れ、それをしっかりと自分の身につけていった。もしかしたらその姿勢の礎はこのあたりの作品で築かれたのかもしれない。
2009年になって見た作品「天地人」については色々言いたいことはあるがそこは割愛しよう。結局本能寺の変まで見てもう見るのをやめてしまった。
吉川が色々勉強してやろうとした所作などが現代人が見るのに違和感があるからと却下されたとか、信長は史実では下戸だとされているのに葡萄酒ばっかり飲んでいたとか、吉川にとっても意気込んだ分落胆の多い現場だったようだ。後にMCでも『信長公に申し訳ない』旨のことを言っている。
ただ、「大河ドラマ」に重要な役で出演したという実績はやはり大きい。
作品の評価はさておき「吉川晃司の信長」はそれなりに評価されていたようだったのがいちファンの視点としても喜ばしいことだった。
一般の知人などから「吉川晃司ってまだやってたんだ?」と言われなくなったことに気づいたのはもう少し後の話。ただし「コンサートもほぼ毎年やっている」と言うと2020年現在いまだに「まだ(歌を)やってるの?」と言われることならあるけれど…
そんな「信長」への期待が否応なく高まっている年末。
すでに恒例のようになった年末の代々木第二体育館でのライブが行われた。
3daysだったが2008年のコンサートはこの3本だけ。いつもならツアーが無かったことに対してもっと文句も言いたくなるところだっただろうがよほどこの年は濃密だったのだ。ツアーが無い代わりに舞台を何公演も見たことも手伝ってのことだと思うけれど。
KIKKAWA KOJI LIVE 2008 25th Year's Eve 〔2007/12/29~31〕
代々木第二体育館は、プロムナードを挟んでNHKのほぼ向かい側にある。
「来年の大河ドラマ」の予告編が流れたりもしていた。そこには信長に扮した吉川の姿もあり、ライブ前に否応なくウキウキしたものだった。
この時のサポートメンバー。
GUITAR : 弥吉淳二
GUITAR : 菊地英昭 (ex.THE YELLOW MONKEY)
BASS : 小池ヒロミチ
BASS : JOE(FUZZY CONTROL)
KEYBOARDS : ホッピー神山
DRUMS : SATOKO (FUZZY CONTROL)
ゲスト◆
GUITAR : 原田喧太
GUITAR :アベフトシ(ex.the michelle gun elephant)
セッションのシリーズのことを考えれば構成そのものは小ぢんまりとしていると言ってもいい。
けれどそこにいたゲストギタリストの一人はアベフトシだった。
私は名前こそ知れ曲もメンバーのこともそれほどよく知らなかった。だから、アベフトシがミッシェルが解散して少しの活動の後ほとんど音楽活動はしていなかったということも実は知らなかった。
もともとどんな縁だったのかは知らないけれど、そんなアベに声をかけてステージ上に引っ張り出したのが吉川だったのだ。
そんなことも知らないし、申し訳ないがミッシェルにもさほど思い入れのない私にとっては原田喧太のゲスト出演の方が沸き立つ出来事だったのだが。
このライブの映像は何故か商品化されなかった。理由はわからない。商業上なにかまずいことでもあったのかもしれない。昔はレコード会社が違うだけで商品化されないなんてことは当たり前にあったし、その他の理由があってもそれは「大人の事情」というやつだと割り切ることくらいは出来る。
アベフトシが不慮の事故でこの世を去ったのはこのたった7ヶ月後のこと。
この年末3日間が、彼のギタリストとして最後のステージとなってしまった。
(このライブ単体では商品化されていないが、先だってリリースされた「LIVE ARCHIVES35」には彼の姿が収録されている)
(ここにいて今はもういないもう一人についてはここではまだ触れないでおく)
この時のセトリ。
01. FANTASIA
GUITAR : 菊地英昭 (ex.THE YELLOW MONKEY)
BASS : 小池ヒロミチ
BASS : JOE(FUZZY CONTROL)
KEYBOARDS : ホッピー神山
DRUMS : SATOKO (FUZZY CONTROL)
ゲスト◆
GUITAR : 原田喧太
GUITAR :アベフトシ(ex.the michelle gun elephant)
セッションのシリーズのことを考えれば構成そのものは小ぢんまりとしていると言ってもいい。
けれどそこにいたゲストギタリストの一人はアベフトシだった。
私は名前こそ知れ曲もメンバーのこともそれほどよく知らなかった。だから、アベフトシがミッシェルが解散して少しの活動の後ほとんど音楽活動はしていなかったということも実は知らなかった。
もともとどんな縁だったのかは知らないけれど、そんなアベに声をかけてステージ上に引っ張り出したのが吉川だったのだ。
そんなことも知らないし、申し訳ないがミッシェルにもさほど思い入れのない私にとっては原田喧太のゲスト出演の方が沸き立つ出来事だったのだが。
このライブの映像は何故か商品化されなかった。理由はわからない。商業上なにかまずいことでもあったのかもしれない。昔はレコード会社が違うだけで商品化されないなんてことは当たり前にあったし、その他の理由があってもそれは「大人の事情」というやつだと割り切ることくらいは出来る。
アベフトシが不慮の事故でこの世を去ったのはこのたった7ヶ月後のこと。
この年末3日間が、彼のギタリストとして最後のステージとなってしまった。
(このライブ単体では商品化されていないが、先だってリリースされた「LIVE ARCHIVES35」には彼の姿が収録されている)
(ここにいて今はもういないもう一人についてはここではまだ触れないでおく)
この時のセトリ。
01. FANTASIA
(Gt.原田喧太・Gt.弥吉淳二・Ba.JOE)
02. KEY 胸のドアを暴け
02. KEY 胸のドアを暴け
(Gt.原田喧太・Gt.弥吉淳二・Ba.JOE)
03. 不埒な天国
03. 不埒な天国
(Gt.菊地英昭・Ba.JOE)
04. Crack
04. Crack
(Gt.アベフトシ・Ba.JOE)
05. Virgin Moon
05. Virgin Moon
(Gt.弥吉淳二・Ba.小池ヒロミチ)
06. JUST ANOTHER DAY
06. JUST ANOTHER DAY
(Gt.弥吉淳二・Ba.小池ヒロミチ)
07. Rambling Rose
07. Rambling Rose
(Gt.原田喧太・Gt.弥吉淳二・Ba.小池ヒロミチ)
08. Glow In The Dark
08. Glow In The Dark
(Gt.原田喧太・Gt.弥吉淳二・Ba.JOE)
09. Weekend Shuffle
09. Weekend Shuffle
(Gt.原田喧太・Ba.JOE)
10. Dance with Memories
10. Dance with Memories
(Cho.原田喧太・Gt.弥吉淳二・Ba.小池ヒロミチ)
11. この雨の終わりに
11. この雨の終わりに
(Gt.弥吉淳二・Ba.小池ヒロミチ)
12. Milky Way
12. Milky Way
(Gt.アベフトシ・Ba.JOE)
13. Black Corvette '98
13. Black Corvette '98
(Gt.アベフトシ・Gt.弥吉淳二・Ba.小池ヒロミチ)
14. SHADOW BEAT
14. SHADOW BEAT
(Gt.原田喧太・Gt.弥吉淳二・Ba.JOE)
15. プレデター
15. プレデター
(Gt.菊地英昭・Gt.弥吉淳二・Ba.小池ヒロミチ)
16. Honey Dripper
16. Honey Dripper
(Gt.菊地英昭・Gt.弥吉淳二・Ba.小池ヒロミチ)
17. RAMBLING MAN
17. RAMBLING MAN
(Gt.菊地英昭・Ba.小池ヒロミチ)
18. 恋をとめないで
18. 恋をとめないで
(Gt.原田喧太・Gt.菊地英昭・Gt.弥吉淳二・Ba.小池ヒロミチ)
19. ナイフ
19. ナイフ
(Gt.アベフトシ・Gt.菊地英昭・Gt.原田喧太・Gt.弥吉淳二・Ba.JOE・Ba.小池ヒロミチ)
- encore 1 -
20. LEVEL WELL
- encore 1 -
20. LEVEL WELL
(Gt.アベフトシ・Gt.弥吉淳二・Ba.JOE)
21. 光と影
21. 光と影
(Gt.菊地英昭・Gt.弥吉淳二・Ba.小池ヒロミチ)
- encore 2 -
22. せつなさを殺せない
- encore 2 -
22. せつなさを殺せない
(Gt.原田喧太・Ba.小池ヒロミチ)
12/31のみ
23.BE MY BABY
12/31のみ
23.BE MY BABY
(Gt.アベフトシ・Gt.菊地英昭・Gt.原田喧太・Gt.弥吉淳二・Ba.JOE・Ba.小池ヒロミチ)
このセットリスト、実はK2モバイルで募集したリクエスト上位曲で構成したという。
リクエスト上位ってわかる曲ばかり。そしてどうやらファンが好きな曲はキーの高い曲が多かったらしくけっこう苦労していたようだ…。
このセットリスト、実はK2モバイルで募集したリクエスト上位曲で構成したという。
リクエスト上位ってわかる曲ばかり。そしてどうやらファンが好きな曲はキーの高い曲が多かったらしくけっこう苦労していたようだ…。
ゲストとは言っても喧太の登場は多く、久しぶりに当たり前のように吉川の横でギターを弾く彼の姿を見た。時間が行ったり来たりするような気分。
そして最終日3日めはアリーナ最前列………!(会社の大掃除をブッチして行って良かった)
その最終日はMCなし、アンコールも引っ込まずにそのままやるという暴挙の末、追加曲でビーマイベイベーというご褒美まであった大充実な年末で2008年は幕を下ろしたのだった。
そして来る2009年。
吉川晃司はデビュー25周年を迎える。
25年。四半世紀。
なんの、勢いはいや増すばかり。
---吉川晃司と私 buck number---
【1】(1984~85)~出会う前~
【2】(1986)~鮮烈すぎる出会い~
【3】(1986~1988)~解体への…~
【4】(1989~1990)~COMPLEX~
【5】(1991)~LUNATIC LUNACY~
【6】(1992)~Shyness Overdrive~
【7】(1993)~10th Anniversary~
【8】(1994)~My Dear Cloudy Heart~
【9】(1995)~FOREVER ROAD~
【10】(1996)~BEAT∞SPEED~
【11】(1996~97)~0015→HEROIC Rendezvous~
【12】(1999)~HOT ROD~
【13】(2000)~HOT ROD MAN RETURNS~
【14】(2001)~SOLID SOUL~
【15】(2002)~PANDORA~
【16】(2003)~Jellyfish&Chips~
【17】(2004)~20th Anniversary~
【18】(2005)~エンジェルチャイムが鳴る夜に~
【19】(2006)~Savannah Night~
【20】(2007)~TARZAN~
【21】(2008)~SEMPO,and・・・~
【22】(2009)~25周年、両刃の剣を携え~
【23】(2010)~夏と冬のGROOVE~
【24】(2011)~日本一心~
【25】(2012)~愚~
【26】(2013)~SAMURAI ROCK~
【27】(2014)~反発の30年~
【28】(2015)~骨折してもシンバルキック~
【29】(2016)~WILD LIPS~
【30】(2017)~ライブこそ人生~
【31】(2018)~武道館で、笑顔の再会を~
【32】(2019)~吉川晃司、起動。~
【33】(2020)~空に放つ矢のように~
【34】(2021)~BELLING CAT~
【35】(2022)~OVER THE 9~
そして最終日3日めはアリーナ最前列………!(会社の大掃除をブッチして行って良かった)
その最終日はMCなし、アンコールも引っ込まずにそのままやるという暴挙の末、追加曲でビーマイベイベーというご褒美まであった大充実な年末で2008年は幕を下ろしたのだった。
そして来る2009年。
吉川晃司はデビュー25周年を迎える。
25年。四半世紀。
なんの、勢いはいや増すばかり。
---吉川晃司と私 buck number---
【1】(1984~85)~出会う前~
【2】(1986)~鮮烈すぎる出会い~
【3】(1986~1988)~解体への…~
【4】(1989~1990)~COMPLEX~
【5】(1991)~LUNATIC LUNACY~
【6】(1992)~Shyness Overdrive~
【7】(1993)~10th Anniversary~
【8】(1994)~My Dear Cloudy Heart~
【9】(1995)~FOREVER ROAD~
【10】(1996)~BEAT∞SPEED~
【11】(1996~97)~0015→HEROIC Rendezvous~
【12】(1999)~HOT ROD~
【13】(2000)~HOT ROD MAN RETURNS~
【14】(2001)~SOLID SOUL~
【15】(2002)~PANDORA~
【16】(2003)~Jellyfish&Chips~
【17】(2004)~20th Anniversary~
【18】(2005)~エンジェルチャイムが鳴る夜に~
【19】(2006)~Savannah Night~
【20】(2007)~TARZAN~
【21】(2008)~SEMPO,and・・・~
【22】(2009)~25周年、両刃の剣を携え~
【23】(2010)~夏と冬のGROOVE~
【24】(2011)~日本一心~
【25】(2012)~愚~
【26】(2013)~SAMURAI ROCK~
【27】(2014)~反発の30年~
【28】(2015)~骨折してもシンバルキック~
【29】(2016)~WILD LIPS~
【30】(2017)~ライブこそ人生~
【31】(2018)~武道館で、笑顔の再会を~
【32】(2019)~吉川晃司、起動。~
【33】(2020)~空に放つ矢のように~
【34】(2021)~BELLING CAT~
【35】(2022)~OVER THE 9~