day by day

癒さぬ傷口が 栄光への入口

吉川晃司と私(2022)~OVER THE 9~

2023-03-08 | キッカワ。
負けてきた。
この2年はずっと負けてきた。
延期、中止、中断。
けれど、吉川晃司はずっと何かと戦って抗って、負けても負けても戦ってきたはずだ。

走り出せよ、ジャングルへ
何度でも 牙を剥け


2022年。
この年最初に姿を現した吉川晃司は、"俳優"だった。

DCU~手錠を持ったダイバー~〔TBS〕




TBS日曜劇場、阿部寛主演ドラマという「下町ロケット」を思い出させる組合せだが、この中で吉川晃司はストーリー上最も重要なポジションのキャラクターを演じた。
結論から言ってしまうと、作品的には色々と言いたいこと、納得のいかないことは多々あった。
しかし初期情報では「第一話ですでに死んでいる重要人物として登場」といった紹介だったので油断していたら、死んでいたどころか実は生きていたし最終話に向けてどんどん出番が増えてくる本当の重要人物だった。
続編を匂わせるような終わり方でもあったし、続編あるいは劇場版として作られる時には今度こそ中心人物として登場することになるのだろう。
作品そのものは「下町ロケット」ほどの評価ではなかっただろうから成合淳が財前部長を超えることはないとは思うが、吉川晃司にこういう役をやらせたいと思ってもらえることが増えているのは有難いことだと思う。
(それにしても成合と新名はいったい何歳の設定だったんだろう…)

この番宣もあり、TBS『バナナサンド(SP)』でサンドイッチマンとコントを披露。
そういえばサンドイッチマンと漫才がしたいって言ってたよ、確かに。
この後も秋のアルバム発売の頃にサンドイッチマンは自分の番組に呼んでくれたりなどして、いや…本当に……ありがたい…。プロモーションもなかなかままならない状況なので…。

吉川晃司が水球の選手だったことは知られたことだが、そうやって若い頃水の中で過ごしていた吉川は海でも素潜りで魚を獲ったりするのが得意だということはファンならたいていの人は知っていることだと思う。
しかし潜るのは基本素潜りだった吉川はダイビングのライセンスは持っていなかった。このドラマの出演にあたり、初めてダイビングの講習を受けライセンスを取得したという。
あんなに泳ぐ人というイメージの強い吉川が56歳にしてダイビングのライセンスを初取得というのも面白い話だ。

なお、前年に狭心症の手術を受けている吉川だが、病気のために心機能がフルでは使えていなかったのが治療のおかげで以前より良くなったとまた嘯いていた。
"こちら側"に向けてはそうやって粋がっていてくれていいから、くれぐれも無理はしないようにしていて欲しいと願うばかりだ。



デビュー38周年の2月1日。
ミニツアー"Guys and Dolls"の開催が発表された。
正式なタイトルは『KIKKAWA KOJI Premium Night"Guys and Dolls"』
上にはミニツアーと書いたが、公式ではツアーとは銘打っていない。
大阪・東京2・広島・名古屋の4都市5公演。

全国ツアーは夏か秋ごろからだろうと踏んでいたのでGWに突然湧いて出たライブの告知に面食らった。しかも2月頭に発表で本番は5月。こんなに発表から本番までの期間が短いなんて吉川ではそうそう無い。

数日後発表されたメンバーはこんな顔ぶれだった。
Guitar:今剛(1958生)
Bass:後藤次利(1952年生)小池ヒロミチ(1961年生)
Drums:山木秀夫(1952生)
Keyboards:ホッピー神山(1960年生)、 矢代恒彦(1960年生)
Backing Vocal:大黒摩季、 福原みほ

この顔ぶれを見てようやくこのライブのコンセプトを理解した。
これは吉川晃司が久しぶりに若造ポジションに戻れる大御所ミュージシャンの面々とそして実力ある歌姫たちをコーラスとして従え、"大人のROCK"をやるというコンセプトのライブだ。

"Guys"に当たる面々は人生の先輩であると同時に音楽の世界でレジェンドである。
判りやすいように生年を記載したが、吉川晃司が1965年生まれだから、一番年が近い小池ヒロミチでも4歳差。後藤次利に至ってはライブが始まる頃にはもう70歳になっていた。
COMPLEX前、アイドルと呼ばれた──吉川がまだ本物の若造だった時代から付き合ってもらっている後藤。
ロックアーティストとしてソロ活動を再開した『LUNATIC LUNACY』ツアーではサポートメンバーにも加わっていた。
あの時、後藤とホッピーがバチバチで緊張感がすごかったと吉川が述懐していたことがある。
そんな二人がまた同じステージに立つ。
それはそんな時代をリアルタイムで見てきた自分にとってもとても感慨深いことだった。
また、デビュー20周年の裏ツアー・『INOCENT ROCK』で、
ドラム:村上"ポンタ"秀一
ベース:後藤次利
ギターボーカル:吉川晃司
この3人でツアーをやったことも印象深い。
2021年始め"INVITATION"にゲストとして後藤を呼んだ時にまた3人でやりたいねと話していたという。
その話をしていたINVITATIONの収録は2020年12月ごろだったが、その僅か3ヶ月ほど後の2021年3月、レジェンドドラマー・村上"ポンタ"秀一 逝去。
「また3人で何かやりたいね」──は、叶うことのない"いつかの約束"になってしまった。

"Dolls"はコーラスの歌姫二人のこと。
この二人は吉川より年下のため、この座組の中で吉川は自称"中間管理職"のポジションだった。
一人はソウル、R&Bなどの分野で圧倒的な歌声を持つ福原みほ。
そしてもう一人はご存じ大黒摩季である。
それぞれソロシンガーとして十分な実績を持つ彼女らのコーラス(Backing Vocalと表記されていた)は普段女声コーラスを載せることは珍しい吉川晃司の声に負けることなく新しい世界観を作っていた。
また、大黒といえば活動休止前に吉川とコラボユニット『大吉』で『HEART∞BRAKER』を歌ったことが最も印象深い。大黒はこのレコーディング後数年にわたり病気の治療のため活動休止に入り、ステージでこの曲を披露する機会は無かった。あの当時吉川は「大黒が復帰するまでは歌えません」と言っていたが、その後ソロで歌いアルバムに収録したこともあり一人で歌うこともあったし、35周年ツアーの時には大黒パートをギターの生形に歌わせて披露していた。
それでも本来の『大吉』は2021年1月の歌番組"INVITATION"の中で実現しただけだった。
それが10年ごしについに実現した。
大きな忘れ物のようだった"大吉をステージで"が叶った瞬間だった。

4月の終わりからGW明けまでの短い期間。
『こんなメンバーの予定が全部揃うのは奇跡的。せっかくだからもっと多くの会場を回りたかったが、全員の予定がクリアできた上で取れる会場がもう無かったのだという。
ファイナルの名古屋・日本特殊陶業市民会館で、こんなコンセプトのライブをまたやりたいと意欲を見せていた吉川。
その計画はこの頃にはもう立ってはいたのかもしれない。
2023年のGuys and Dollsも開催されることが発表されている。
まだメンバーは発表はされてはいないが、コンセプトは同じだろうから何人かのメンバーは入れ替わることがあっても同じような大御所クラスのメンバー構成になるのだろう。

この2022年のメンバーで、2023年には参加しないことが確定してしまっている者が一人だけいる。

キーボード・矢代恒彦。

バンド『パール兄弟』のメンバー(五男)であり、吉川が若かった頃から長くサポートを務めてくれた「やっしー」。
久しぶりに見たステージの上のやっしーはすっかり頭髪も白髪が多くなっていたものの、自分の目の前で歌って踊っているDollsを優しく見守っていた。
そのわずか4ヶ月後。
やっしーは帰らぬ人となった。

約束をしていたかどうかは知る術もないが、ここにも"叶わないいつかの約束"があった。
そんな、叶わない約束がこれからは増えていくのかもしれない。
だから、ひとつひとつのステージがどんどん大切で重みのあるものに変わっていく。
ステージ上の彼らは、あくまでも軽やかに、楽し気に演奏しているのだけど。

報道の中にはかねてから闘病中であった旨に触れられているものもあったが公式発表ではやっしーの死因には触れられておらず、言及するのも野暮なのでただ彼の魂が平安でありますようにと祈るに留めたい。


このライブのグッズの中に、ロゴのカラーリングがカラフルなTシャツがある。これは『NO WAR Tシャツ』と名付けられた、ロシアのウクライナ侵攻によって避難を余儀なくされた避難民を支援するためのチャリティである。
※2023/2/21に、寄付先が公式HPにて報告されている。


KIKKAWA KOJI Premium Night "Guys and Dolls"
presented by WOWOW『INVITATION』

4/28 大阪フェスティバルホール
5/1・2 LINE CUBE SHIBUYA
5/5 広島JMSアステールプラザ
5/12 日本特殊陶業市民会館

=セットリスト=

01. Dream on
02. Virgin Moon
03. 心の闇(ハローダークネス)
04. No No サーキュレーション
05. ポラロイドの夏
06. 雨上がりの非常階段
07. RAIN-DANCEがきこえる
08. MISS COOL
09. ロストチャイルド
10. Mis Fit
11. in a sentimental mood

12. サイケデリックHIP
13. The Gundogs
14. HEART∞BREAKER【大吉】
15. Black Corvette
16. アクセル
17. BOY'S LIFE

- encore -

18. LA VIE EN ROSE(acoustic ver.)
19. この雨の終わりに
20. KISSに撃たれて眠りたい

※東京・広島のセットリストは知らないので変更があったかどうかは不明


初日大阪の日には、秋から2023年初頭にかけて行われる全国ツアーが発表された。
11月20日横須賀を皮切りに、(この時点では)2/19名古屋までの17都市19公演。追って発表された武道館を加えて18都市21公演のツアーだ。
秋~冬に全国ツアーをやるだろうとは思っていたが、この季節に公演数が少ないとはいえひとツアーやった上で通常通りのツアーもやる。"LIVE=LIFE"の吉川晃司、本領発揮だ。


さてそんなGuys and Dollsの最中、こんな発表があった。

アニメ『風都探偵』主題歌を作曲&プロデュース!



『風都探偵』といえば、『仮面ライダーW』のコミカライズ作品。実写特撮作品だった『W』のその後を描いた漫画だ。その縁で、鳴海荘吉を演じた吉川が連載雑誌でインタビューを受けたこともある。
その漫画がアニメ化されることになったのだが、そのエンディング主題歌が
大道克己(エターナル)を演じた松岡充作詞・歌唱、
鳴海荘吉(スカル)を演じた吉川晃司作曲・プロデュース・コーラス

で作る……という、なんとも熱いコラボで実現することになったという。

この曲、『罪と罰とアングラ』は作詞・歌唱松岡充なのだが、この後リリースされた吉川のアルバムにはそのアンサーソング、というか鳴海荘吉目線として吉川が作詞・歌唱した『ギムレットには早すぎる』が収録されている。

映画やドラマなど、出演しているタイミングではその配給会社やテレビ局などからライブ会場への花が届いていることは多いが当然ながら上映/放映期間やプロモーション期間が終わればもう花は来ない。来ないのが普通だ。
しかし、仮面ライダーWのチームは事あるごとに花を送ってきてくれているように思う。それだけ見えるところ見えていないところで縁が続いていたのだろう。
仮面ライダーWも大好きな私にとっては、その縁が続いくれていることが単純に嬉しい。




6月の終わり頃には秋冬ツアーの参加ミュージシャンが発表された。

Guitar:菊地英昭
Guitar:INORAN
Bass:ウエノコウジ
Drums:湊雅史
Keyboards:ホッピー神山


イエローモンキーのシーズン4が未だ発表されていない中、今年も当たり前のようにEMMAが参加(笑)。
「エマちゃん実家帰るからちゃんとお別れしよう」って言ってLIVE=LIFEツアーに参加してもらったのは何だったのか(笑)。(いや、嬉しいです。もちろんめちゃくちゃ嬉しいです)

今回はウブちゃん(生形真一)が不参加。彼も実家・ELLEGARDENの活動があるのでそちらが優先になるのは当然。
で、今回初参加のギタリストがINORAN(LUNA SEA)。
いちいち見る人が見たら叫び声を上げる人連れてくるわ。

そしてそのツアーが徐々に近づいてくるにつれ「出るのか?」「本当に出るのか??」と疑問符が浮かび始めていた──

実に『WILD LIPS』以来6年半ぶりのニュー・アルバム
『OVER THE 9』 のリリースがようやく、発表された。

2年くらいオリジナルアルバムが出なかっただけでレコード会社と揉めてるのか??!とか言ってた時代もあったというのに6年半も出ていなかったという。もちろん、コロナ禍の影響で延び延びになっていたことは想像に難くないがコロナ禍前に出せていたとしても4年ぶりになっていたわけで。
CDが売れない時代にアルバムを作ってリリースするのは色々苦労があるのだろう。かといって配信やサブスクだけでは思うような利益が得られない。ソーシャルメディアが発達した時代に、音楽で稼いでそれを還元していくのは何が正解なんだろう。
…という難しい話はここで語ることではないのでとにかく私はリリースされたものをきちんと購入するしかないのだが。

発売はツアーが始まる少し前。久しぶりのアルバムツアー、事前に予習でいっぱい聴く。
なにしろ新しいアルバムが出ていなければ予習の必要がない。正直言って、対応できないような全く知らない曲はもう無いので、むしろ予習は避けて新鮮な驚きを得ることを求めているのが近年の私の傾向になっていた。

前回のアルバムが曲数少なだったのが気になってはいたのだが、今回は12曲。一般的なフルアルバムくらいのボリュームはあり、ほっとする。
また半分はタイアップやリリース済で新曲は6曲に留まったが、リリース済とはいえ配信限定だった"BLOODY BLACK""Lucky Man""焚き火""Brave Arrow"、そして初音源化の"Over The Rainbow"が収録されており、前アルバムに感じた「曲少なくない?」という印象はさほど湧いてこない。
アルバムについてのレビューはまた改めて、気が向いた時に書こうと思う。どうせまた何年か次のアルバムは出ないのだろうから。




2022年のもうひとつの大事件。
それが『吉川晃司、NHK朝ドラに出演決定』というニュースだった。

[舞いあがれ!] 吉川晃司 大河内教官 名場面まとめ ダイジェスト〔YouTube〕

吉川がNHK"出禁"になっていたのはもうはるか昔のことになり、大河ドラマでも信長や西郷隆盛という重要人物を演じたり大型ファンタジー"精霊の守り人"にも出演したりしていた が、いわゆる『朝ドラ』に出演することになるとは本当に全く考えていなかったので本当に驚いた。
2022年後期(大阪局制作)『舞いあがれ!』でヒロイン・舞がパイロットを目指す展開の中で航空学校に進学し、そこで指導を受ける鬼教官…という役どころだ。元自衛官の鬼教官。うん、まあ、朝に出していいかどうかは別としてキャラクターとしてはぴったりだ。
吉川演じる『大河内教官』が登場したのはちょうどツアーが始まる頃だった。

私は基本的には吉川出演作に関しては、吉川が演じる役に筋が通ってさえいれば作品そのものがもうひとつの出来だったとしてもとりあえず許容してきた甘いファンだと思う。(そんな私でも我慢ならなかったのは『素直になれなくて』くらいのものだった)
それでも、作品自体が良くて演じるキャラクターが良ければそれにこしたことはない。
吉川の登場する『航空学校編』は、それまでの好評だった序盤とは別の脚本家が手掛けたこともあってそれ以前の雰囲気と変わってしまったと批判も出ていたのだが、その中で『大河内教官』は高く評価された。
そのことだけでもひとまず安堵できた。

余談だがこの朝ドラには関ジャニ∞の横山裕がヒロインの兄役として重要な役どころを演じており、繊細な演技に高い評価が集まっている。
無関係な推し二人が同じドラマで高い評価を得たのが個人的には単純に嬉しいし良かったと思っている。

大河内教官が登場する航空学校編のオンエア時期はちょうどツアーが始まった頃。会場によっては公演直前まで完売していなかったり当日券が発売された公演もあったのだが、『朝ドラで大河内教官を見て興味を持って来てみた!』なんて人が少しでもいたらいいのだが。



11月20日、ツアー開幕。
私は初日の横須賀に向かった。
同時期に私が行く予定をしていた関ジャニ∞(ジャニーズ)のコンサートも含め各地で『声出し解禁』というライブが見られるようになってきた時期だが、吉川のツアーは基本はこれまで通り声出しは禁止とされていた。
2021年の『声出し禁止』でライブ再開となった"BELLING CAT"ツアーの時から吉川は、歓声が無い分演奏や歌声を従来よりしっかり聴いて帰って欲しいと言っていた。このツアーでその状況になってから3ツアー目。多分、これまで約36年あまり通ってきた吉川ライブの中で、もしかしたら一番"バンド"をしっかり見ていたのが今回のツアーだった。

2021年のツアー"BELLING CAT"は初日だったはずの東京ガーデンシアター公演の延期、後半の公演は中止となり、最後の最後に急遽"ファイナル公演"として1公演だけガーデンシティで開催することが出来た。それはこのツアーを「中断したツアー」のまま終わらせることがしのびなかったからだと思っていたけれど。 やはりそんなもので誤魔化せるものでもなく、吉川晃司にとって2020年"BLOODY BLACK"ツアーの全公演中止に続き、半ばで中断させられたツアーだった。
「コロナに負け続けた2年」。
そして2022年"OVER THE 9"は、ついに、1公演として延期も中止もすることなく──

『ファイナル』の武道館に辿りついた。


KIKKAWA KOJI LIVE 2022-2023 "OVER THE 9"

01. ソウル・ブレイド
02. ギムレットには早すぎる

03. にくまれそうなNEWフェイス
04. LA VIE EN ROSE

05. タイトロープ・ダンサー
06. 風が呼んでいる
07. One Side Liar
08. まだ愛のために

09. サイレントシンデレラ(piano ver)
  スリルなモナリザ(〃)※会場によっていずれか
10. Nobody's Perfect

11. BLOODY BLACK
12. ナイフ
13. GOOD SAVAGE
14. The Sliders

15. Lucky man
16. LOVIN' NOISE
17. SAMURAI ROCK
18. 恋をとめないで
19. No No サーキュレーション

- encore -

20. INNOCENT SKY(竿隊のみアコースティック)
21. KISSに撃たれて眠りたい※
  アクセル※
  せつなさを殺せない※
  ※会場による



2022年11月20日から2023年2月24日までのこのツアー。
「以前は(コロナに)負けるもんかと躍起になっていたけど、少し考え方が変わって、『今、やれることをやれるだけやろう(それ以上の無理はしない)』と思いながらやっている」
「急に以前(コロナ前)と同じスタイルに戻すのではなく、状況をみながら少しずつ戻していこう」
──と、最初の方からMCで口に出していたがその時には限定的にでも声出しを解禁することは考えていたのかもしれない。まだ会場によってはグループディスタンスを原則に客席の配置をしなければいけない場所もあったらしい。完売の出なかった大阪フェスティバルホールや香川レグザムホールなどはもしかしたらそうだったのかもしれない。
一気に以前の形に戻そうとして突っ走った結果、また"お上"からまかりならんと中止や延期の口実にされてはたまらない。
2年負け続けて戦略を見直した吉川晃司は、少々"らしくなく"慎重だった。それは同時にこの2年間の敗北でどれだけのダメージを被ってきたかということだ。
それでも──
ツアーの終盤、いつからかはわからないが私が参戦した名古屋公演。ライブ後半の盛り上がる曲の時という限定的な場面ではあったが、『声出し』が許された。

私は"まるでもうコロナ禍が終焉したかのように錯覚させるような世間の空気"にはとても懐疑的で、周囲がマスクも外し始めるのだとしたら逆に当分マスクはしたままでいようと思っている人間だし、ライブでの『声出し』も諸手を挙げて賛成とは言えない。それでも、"Don't Stop my Love"と歌っているうちにああこうだった、こうやって喉が枯れるまで歌っていたのだった、それが当たり前だったのだと思い出して涙を堪えることが出来なかった。

ファイナル武道館では、2023年の"Guys and Dolls"が発表された。
当たり前のように「次のライブ」の約束があることがこれほど嬉しいものだったのだと、あらためて気づく。
2024年2月1日には吉川晃司はデビュー40周年を迎える。きっとそのアニバーサリーツアーもあるはずだ。
たいした不安もなく歓声を上げ、大声で歌うことが出来る日が、もう近づいているのだろうか。
「少しずつ少しずつ、戻していこう」

ツアータイトルにもなったアルバムタイトル『OVER THE 9』に込めた意味について、吉川はこう語っている。

『OVER THE 9』とは、“不十分な状況を超えていく”という意味を込めたタイトルです。
目の前に壁があるならば、乗り越えればいい。乗り越えられない壁ならば、壁を壊して進めばいい。そんな突破力が今までの自分の歌の核になっていました。
しかし、コロナ禍、戦争、物価高、相次ぐ自然災害、そして音楽に限定するならば、ツアーの中止やライブでの声出し禁止。正面突破では乗り越えられない、行動を制限されて挑戦すらできない状況では、精神を消耗するだけになってしまうことが少なくありません。

それでもなお、己に問い続けて答えを求めなければならない、現実と折り合いを付けながらサバイブして進んでいかなければならない、という意志を示した言葉が『OVER THE 9』です。


それでも前に進むことは決してやめない。
それが39周年を迎えた吉川晃司の反撃の狼煙なのだ。



---吉川晃司と私 buck number---
【1】(1984~85)~出会う前~
【2】(1986)~鮮烈すぎる出会い~
【3】(1986~1988)~解体への…~
【4】(1989~1990)~COMPLEX~
【5】(1991)~LUNATIC LUNACY~
【6】(1992)~Shyness Overdrive~
【7】(1993)~10th Anniversary~
【8】(1994)~My Dear Cloudy Heart~
【9】(1995)~FOREVER ROAD~
【10】(1996)~BEAT∞SPEED~
【11】(1996~97)~0015→HEROIC Rendezvous~
【12】(1999)~HOT ROD~
【13】(2000)~HOT ROD MAN RETURNS~
【14】(2001)~SOLID SOUL~
【15】(2002)~PANDORA~
【16】(2003)~Jellyfish&Chips~
【17】(2004)~20th Anniversary~
【18】(2005)~エンジェルチャイムが鳴る夜に~
【19】(2006)~Savannah Night~
【20】(2007)~TARZAN~
【21】(2008)~SEMPO,and・・・~
【22】(2009)~25周年、両刃の剣を携え~
【23】(2010)~夏と冬のGROOVE~
【24】(2011)~日本一心~
【25】(2012)~愚~
【26】(2013)~SAMURAI ROCK~
【27】(2014)~反発の30年~
【28】(2015)~骨折してもシンバルキック~
【29】(2016)~WILD LIPS~
【30】(2017)~ライブこそ人生~
【31】(2018)~武道館で、笑顔の再会を~
【32】(2019)~吉川晃司、起動。~
【33】(2020)~空に放つ矢のように~
【34】(2021)~BELLING CAT~
【35】(2022)~OVER THE 9~
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