森の詞

元ゲームシナリオライター篠森京夜の小説、企画書、制作日記、コラム等

日々の生物(ナマモノ) 第18回

2008年11月26日 | 日々の生物(ナマモノ)

Q:「ネズミの尻尾には、どうして毛がないのですか?」
A:「とりあえず、リスの毛がなくなったものがネズミです」

 まず、生物にとって「毛がある⇔ない」というのは、かなり変化しやすいことなのです。たとえば、ペットの「犬」には毛が長い品種から短い品種まで様々なものがいます。そのほとんどは人間が品種改良したもので、短い歴史しかもっていません。
 更に身近な例で言えば、「体から毛がなくなったサル」が「人間」です。人類の祖先はそれまで住んでいた森林から平野に生活場所を変えた過程で毛がなくなったと考えられています。理由は不明ですが、とりあえず、毛がなくなったのは確かです。「更に毛がなくなった人間」をなんと呼ぶかは皆さんに任せます。

 ネズミは「げっ歯類」と呼ばれるグループに属します。物をかじっていないと前歯が伸び続ける特徴があり、ネズミのほかにはリスやモモンガ、ビーバーなどが属します。
 ここに属する生物は、体の大きさを除けば「尻尾の形」と「毛の長さ」以外はそれほど外見に差がありません。
 要するに「尻尾の毛が長いネズミ」がリスで、「尻尾の毛が長くて前足と後足の間に膜があって滑空できるネズミ」がモモンガです。

 モモンガの尻尾には飛行機の尾翼と同じく、木から木に滑空するときに方向を変える役割があるとされています。リスの尻尾も高いところから飛び降りる時に、パラシュートのように働く、との報告があるそうです(本当かなあ?)。ですから、森林に住むモモンガやリスにとっては尻尾の毛は必需品なようです。
 一方、ネズミは主に人間と共に住んでいますから、そのような機能は必要ありません。森に住んでいたサルが平野暮らしをするようになって毛がなくなったのが人類ですが、それと同じように毛がなくなったのがネズミと思われます。

 後、少々気持ち悪い話ですが、げっ歯類の尻尾には「皮がはがれやすい」という特徴があります。
 トカゲは敵に襲われると尻尾だけを切って、その隙に逃げますが、あれと同じでリスなどは敵に襲われると「尻尾の皮だけを残して」逃げます。あのデカイ尻尾はわざと敵の標的になるためで、敵が尻尾を攻撃したときに皮だけ残して逃げるのだそうです。ネズミもこの仕組みを持っています。
 ただ、森林に住んでいるリスにとっては囮に使える尻尾は有効ですが、平野に住んでいるネズミにとっては目立つ尻尾は邪魔でしかないでしょう。ネズミを駆除しようとする人間に対しても、尻尾の囮はあまり有効ではありません。
 ひょっとするとネズミの直接の祖先は尻尾の毛が長かったかもしれませんが、毛が長い個体が全て殺されて、たまたま尻尾に毛がなかった個体だけが平野で生き残り、それが今のネズミになったのかもしれません。