【 Photo by Kentarou Noomaru 】
過去を歩いた
ボク以外のまわりの人には
現実だったかもしれないが
ボクには確かに過去だった
45年も前の街の
記憶のひとつひとつに点を打ち
思い出を結び地図を引く
あの日も灯っていた居酒屋の赤提灯には今が灯り
古ぼけたビルの跡には まぎれもない今が建っていた
それでもボクは過去を歩いた
あの店を探すために
もうないと知っていた
覚えている者だって
親父のつんざくような大声
女将のやさしげな微笑み
トラックの荷の上げ下ろしの音
心を揺さぶる鰻屋の匂い
ボクには充分だった
過去を歩いた
ボク以外のまわりの人には
今日だったかもしれないが
ボクには確かにあの日だった
45年前のあの時のまま
あの街は笑っていた
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