【 Photo by Yoshinobu Tashiro 】
まだ少しだけ
時間があるようだ
朝の苦いお茶
窓辺に干されたTシャツ
いつまでも固い股関節
すっきりしない夢の残り
梅雨の雲に押されて
顔を出さない朝日
久しぶりの寝坊で
起きてこないキミ
水が足りないのか あげすぎか
元気のないハーブたち
全然へらない体重
上がったり下がったりの血圧
いつもと同じ音楽
日本のいなくなったワールドカップ
二杯目になると
とたんに不味くなるお茶
仏壇からの線香の香り
またひとつ増えたお願い
深夜のメール
誕生日なんだねおめでとう
点けなくなったテレビ
ニュースの中の人を見たくないんです
一喜一憂しても
人生はそうは変わらない
でもまだボクにだって
時間はありそうだ
何かしなくっちゃ
何か考えなくっちゃ
そう思っているうちに
朝は日常へと変わってゆく
朝
ふつうの朝
当たり前の朝
今日だけの朝の中で
夢のようには進まない一日が
断片 断片で
はじまってゆく
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【 Photo by Jun Hiraoka 】
突然の雨で
道の色が変わった
今まで歩いていた道は
突然川のようになった
もうボクは
この道をもどれなくなった
誰かにお願いすれば
良かったのかもしれないが
その時 思い浮かぶ神さまは
ボクにはいなかった
まだ雨は半透明のカーテンのように
降り続いたままで
晴れる気配も
虹が出る気配もなかった
それでもボクは
虹を待っていた
だって道がもうなかったけれど
行く場所を探さないといけなかったから
それでもボクは
青い鳥を探していた
空の飛び方は知らないけれど
今日のやり過ごし方は知っていたから
ひとつ山を越えると
いいことが待っていた
もうひとつ山を越えると
久しぶりの笑顔が待っていた
この空の色は
空が笑ってる時の色だった
やあこんちは 機嫌がいいね
ボクかい？ ボクはまあまあさ
でも明日は
もう少し良くなるから
そうきっと良くなるよ
だから笑ってて
どうかそのままで
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【 Photo by Kenji Oouchi 】
アナタが死んだら
きっとワタシの80％は
一緒に死ぬの
そしてあとの20％で
残りを生きていく
でも20でも
カスじゃない
アナタ以外の
ワタシってこと
アナタは
ワタシがおばさんになるのを
ずっと見てて
ワタシは
アナタが老化するのを
じっと見てて
そして
それも思い出にしながら
いっぱい笑って
どんどん
古くなって
だんだん
壊れていって
そして
どっちかが
先にいなくなるまで
続いていって
そして一人になったなら
残りの20を
楽しく生きてゆく
ワタシは
80がとっても満足だから
20を楽しくやっていける
アナタは
ワタシが死んだら
どれだけ残る？
100はやめてね
あとの部分で
少しは楽しんで欲しいんだ
でもきっと楽しいよ
だって静かにお互いを
思い出せるんだから
ピカピカしてた日も
どよんとしてた日も
忘れたかった日も
棄てたはずの日も
みんな思い出せば
楽しいよ
だって
今が
楽しいんだから
だって
今だって
キラキラしてるから
どっちが先かな？
ズルはだめだよ
一緒だったら イイけどね
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【 Photo by Yoshinobu Tashiro 】
蒸し暑い部屋で
うたたねをしていた
何か大きなものが
通り過ぎた
そんな気がした日暮れ時だった
外は静かに雨が降っていた
身体のにおいがするけれど
自分のなのかは分からない
悩みって
過ぎちゃえば
何てことない ことばかりだよね
とキミは笑ってる
そうひとつ過ぎたんだ
またひとつ人生を覚えたんだ
窓の外はディティールのあるグレーで
梅雨ってこんなだと誰もが思う空だった
この空がもの凄く高くなったら
もう次の悩みが来てるはずさ
その時今日のことを覚えていれば
今日はとても大切な日なんだろう
昼寝とは思えないキミの寝息が
今の安堵を語っている
良かったね
まだ生きてたよ
良かったね
もうすぐ一日が終わるよ
とても辛かった
一週間の最後の一日が
不思議だね
汗と湿気でベトベトの
この二の腕が
何か気持ちいいんだ
梅雨のこのジメジメが
はじめて気持ちいいよ
この腕の感触を
いつか思い出したら
今日はきっと
良い日なんだろう
絶対忘れない
そう念じる訳じゃないけれど
覚えてたら嬉しい日って たまにあるんだよ
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【 Photo by Keiko Aoki 】
歩いています
あなたに逢うために 歩いています
頭皮が焦げるくらいの陽射し中
もの凄く汗をかいて
真っすぐ歩けないくらいの
目眩に襲われながら
一口飲んでも終わることのない
全身の渇きに脅かされながら
ただ歩いているのです
同じ父と呼ばれる人なのに
子供の頃と同じにいて欲しい寂しさと
子供の頃は考えてもみなかった哀しさと
同じ母と呼んだ人なのに
置いてけぼりを喰った孤独と
まだあなたを探してしまう寂寥と
永遠はなかったことに気づいた空しさと
本当の孤独があることに気づいた恐さと
そんなすべてが熱量に変わって
木も雲も空もキミも熱気で歪んでいるのに
それでもボクは歩くのです
こうして炎天下を歩くのは
ボクが背負った罪がそうさせるのでしょうか？
こうして歩けば 解放されるのでしょうか？
始まってもいない夏に脅されながら
あなたに逢うために歩いています
あなたはボクを棄てないのに
ボクはあなたを棄てようしています
生きるって
家族って
こういうことかもしれません
あまりの暑さが
今年始めて聴いた
蝉の声が
そう考えさせるのでしょうか？
そろそろ夏がやってきます
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