【 Photo by Keiko Aoki 】
その日
唇は
恋を告げ
そして
確認するためにあった
またある時
唇は
次々と生まれる夢に
多くの命をあたえ
またある夜には
食卓の一皿を
やわらかな笑い声で包み
違う日には
人を傷つけながら
正義をふりまわし
光のとどかぬ村で
涙を流す人々のために
許しを唱えた
そのあとも
幾度となく
嘘といい訳と美辞麗句を
繰り返すうちに
唇のシワは深く刻みつけられ
思い出したように
恋心をつぶやこうとしても
さびついた切り札は
真下へ落ちるようになる
それでも唇は雄弁だ
ゆっくりと息をすいこんで
そして少しにごった息にのせ
これがわたしですと
水ぶくれの体をさらけ出していく
そしていつか
もう語ることはないと
硬くつぐんで終焉を告げる日
ようやくひとつの嘘が終わる
よろこびも 悲しみも
歓喜も 絶望も
出会いも 別離も
すべて同じ所からうまれ
すべて同じ言葉からうまれたのに
タイトルのひとつもつかないままに
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