インターネット（以下、ネット）で新聞を読むという、以前は思いもよらなかったことがいつしか当たり前のことになってしまった。いい時代に生まれたものだと思う。しかも日本語で日本の新聞が無料で読めるのだ。無料？いや、サーバーと呼ばれる会社に月々決まった回線使用料は勿論払うのだ。だが、料金と言っても知れたものである。ハイテク技術にからきし弱い私のこと、ネットの目的はもっぱら新聞と電子メールだ。電子メールには切手も封筒も要らず、しかも世界各地と瞬時に交信出来るのだから、便利といってこれほど便利な文明の利器はなかろう。広告が出て来るのを厭わなければ無料のメールサービスもあり、教え子が書いて来るメールには大抵広告がついている。
さて、最近ネットで呼んだ新聞記事で面白かったのは赤ちゃん名前調査の結果である。明治生命の契約者の家庭に生まれた男の子3068人、女の子2853人を対象に実施された。その結果をご紹介して、最後に少し感想を述べたい。
因に、日本人の苗字は、山、川、田など自然物や稲作関係の語彙とその位置関係（山下／川上／田中）、つまり場所や地形が苗字の大半を占めている。日本人の姓名の多くは、姓で場所を言い、名で人を言うから、結果として存在文に似てくる。大江健三郎なら「大きな入り江の健やかな三男坊」、山下優子は「山の下の優しい女の子」などと読める。勿論、実は「大きな入り江（に住んだ人の子孫である）健やかな三男坊」であるけれども。苗字が地名／場所という傾向は中国や韓国とは異なる日本の大きな特徴である。僅かな例外を除けば、苗字の方は時代によって変わることがない。一方苗字に続く名前は、両親が生まれた子供にそうなって欲しいという願いを託した命名が多いから、こちらは世相を反映して変化が激しい。
さて、それでは現代日本の日本の親は、どんな願いを我が子の将来に託しているのか、それを昨年2003年に生まれた赤ちゃんの名前から伺ってみることにしよう。一番多かったのは、男の子が「大輝」君、女の子は「陽菜」ちゃんであった。「大輝」君は、午（うま）年の2002年こそ「駿」君に１位を譲ったものの、昨年は２年ぶりに首位に返り咲いた。「陽菜」ちゃんは2001年に29位、2002年に14位と順位を着実に上げ、昨年は初の１位となった。 また、男の子で「虎太郎」君が48位、他にも「優虎（ゆうき）」君、「丈虎」くんなどが見えたとあるのが如何にも2003年らしい。未（ひつじ）年であるのに虎がつく理由は一つしかない。阪神タイガースの優勝である。
先ずは女の子からベスト・テンを発表しよう。（ ）は読み方。１陽菜（ひな／はるな／はな）、２七海（ななみ）、 ３さくら、 ４凜（りん）、 ５美咲（みさき）、 ５葵（あおい）、 ７萌（もえ）、 ８美月（みづき）、８彩花（あやか／さやか）、１０真央（まお／まひろ）、１０菜月（なつき）
続いて男の子。１大輝（だいき／たいき） ２翔（しょう／かける） ３大翔（ひろと／だいと） ３翔太（しょうた） ５匠（たくみ） ６太陽（たいよう） ６拓海（たくみ） ８蓮（れん） ９悠斗（ゆうと） １０海斗（かいと） １０翼（つばさ）
男の子は雄大な自然の「スケール感」や「大空を羽ばたく力」をイメージした名前が、女の子は「美しさ」「かわいらしさ」を感じさせる自然の草花にちなんだ名前が目立った、と明治生命は分析しているが、誠に一目瞭然。その通りである。つまり、男の子には「この子には大きく世界を舞台に活躍して欲しい」という願いを込める。それはベストテンに２回以上頻出する漢字「翔・海・翼」の３字に明らかだ。「海をこえ、翼をひろげて飛翔し、太陽の様に大きく輝け」とわが息子を励ますのである。
女の子にかける願いはそれとは違う。両親は娘には飛び去ってほしくないのだ。ではどこにいて欲しいか、というとそれは地上である。ベストテンにも「菜」と「美」が２回ずつ使われているし、「花、さくら、萌、凛、咲」は地上の花とその咲き方である。遠くへ行かず、地上で美しく咲いていて欲しいと親は我が娘に願うのだ。男子の太陽に対してはこちらに月があるが、これもいわゆる「花鳥風月」の「愛でられる対象として」の月であろう。つまり、男と女の基本イメージは昔と少しも変わってはいないのだ。
2003年というこの時代の子供の名前の、余りと言えば余りに伝統的な性差に、私は正直な所とても驚いた。男は飛翔し、女は地上にとどまるという原イメージ。ふと頭をよぎったのが「雄飛」と「雌伏」の２語である。海外に飛躍し各方面で活躍する日本女性がもっといたら、世界は今より平和になると私は思うのだけれど。（2004年2月）
応援のクリック、よろしくお願いいたします。
さて、最近ネットで呼んだ新聞記事で面白かったのは赤ちゃん名前調査の結果である。明治生命の契約者の家庭に生まれた男の子3068人、女の子2853人を対象に実施された。その結果をご紹介して、最後に少し感想を述べたい。
因に、日本人の苗字は、山、川、田など自然物や稲作関係の語彙とその位置関係（山下／川上／田中）、つまり場所や地形が苗字の大半を占めている。日本人の姓名の多くは、姓で場所を言い、名で人を言うから、結果として存在文に似てくる。大江健三郎なら「大きな入り江の健やかな三男坊」、山下優子は「山の下の優しい女の子」などと読める。勿論、実は「大きな入り江（に住んだ人の子孫である）健やかな三男坊」であるけれども。苗字が地名／場所という傾向は中国や韓国とは異なる日本の大きな特徴である。僅かな例外を除けば、苗字の方は時代によって変わることがない。一方苗字に続く名前は、両親が生まれた子供にそうなって欲しいという願いを託した命名が多いから、こちらは世相を反映して変化が激しい。
さて、それでは現代日本の日本の親は、どんな願いを我が子の将来に託しているのか、それを昨年2003年に生まれた赤ちゃんの名前から伺ってみることにしよう。一番多かったのは、男の子が「大輝」君、女の子は「陽菜」ちゃんであった。「大輝」君は、午（うま）年の2002年こそ「駿」君に１位を譲ったものの、昨年は２年ぶりに首位に返り咲いた。「陽菜」ちゃんは2001年に29位、2002年に14位と順位を着実に上げ、昨年は初の１位となった。 また、男の子で「虎太郎」君が48位、他にも「優虎（ゆうき）」君、「丈虎」くんなどが見えたとあるのが如何にも2003年らしい。未（ひつじ）年であるのに虎がつく理由は一つしかない。阪神タイガースの優勝である。
先ずは女の子からベスト・テンを発表しよう。（ ）は読み方。１陽菜（ひな／はるな／はな）、２七海（ななみ）、 ３さくら、 ４凜（りん）、 ５美咲（みさき）、 ５葵（あおい）、 ７萌（もえ）、 ８美月（みづき）、８彩花（あやか／さやか）、１０真央（まお／まひろ）、１０菜月（なつき）
続いて男の子。１大輝（だいき／たいき） ２翔（しょう／かける） ３大翔（ひろと／だいと） ３翔太（しょうた） ５匠（たくみ） ６太陽（たいよう） ６拓海（たくみ） ８蓮（れん） ９悠斗（ゆうと） １０海斗（かいと） １０翼（つばさ）
男の子は雄大な自然の「スケール感」や「大空を羽ばたく力」をイメージした名前が、女の子は「美しさ」「かわいらしさ」を感じさせる自然の草花にちなんだ名前が目立った、と明治生命は分析しているが、誠に一目瞭然。その通りである。つまり、男の子には「この子には大きく世界を舞台に活躍して欲しい」という願いを込める。それはベストテンに２回以上頻出する漢字「翔・海・翼」の３字に明らかだ。「海をこえ、翼をひろげて飛翔し、太陽の様に大きく輝け」とわが息子を励ますのである。
女の子にかける願いはそれとは違う。両親は娘には飛び去ってほしくないのだ。ではどこにいて欲しいか、というとそれは地上である。ベストテンにも「菜」と「美」が２回ずつ使われているし、「花、さくら、萌、凛、咲」は地上の花とその咲き方である。遠くへ行かず、地上で美しく咲いていて欲しいと親は我が娘に願うのだ。男子の太陽に対してはこちらに月があるが、これもいわゆる「花鳥風月」の「愛でられる対象として」の月であろう。つまり、男と女の基本イメージは昔と少しも変わってはいないのだ。
2003年というこの時代の子供の名前の、余りと言えば余りに伝統的な性差に、私は正直な所とても驚いた。男は飛翔し、女は地上にとどまるという原イメージ。ふと頭をよぎったのが「雄飛」と「雌伏」の２語である。海外に飛躍し各方面で活躍する日本女性がもっといたら、世界は今より平和になると私は思うのだけれど。（2004年2月）
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