今回はある国(や都市)の名前が他の国の言語で別な意味の普通の単語になってしまった例を考えてみます。おそらく皆さんも幾つかはご存知でしょう。野菜であるカボチャが元々は国名のカンボジアから来たように、「その国や都市から渡来した産物なので(あるいはそう誤解されたので)地名がその産物を指す名前になった」という例が最も普通です。具体的な「モノ」がその対象なので、そのほとんどが名詞です(が下で見る「japan(~に漆を塗る)」のような例外もあります)。これらは、特殊な変化を遂げた固有名詞と言えるかも知れません。今回の話題は、おしゃべりの材料にでもしてくださったら幸いです。
先ずは日本語に入って普通の名詞になった単語を考えてみましょう。上のカボチャと並んで野菜の名前ではジャガイモがありますが、これはどこでしょう。はい、そうです。これにはインドネシアの首都ジャカルタが一部入っています。このジャカルタは古くはジャカタラ(Jacatra)と呼ばれ、それが日本ではジャガタラと訛り、そこから渡来した芋(イモ)がジャガタラ芋となりました。次に「タラ」が落ちて「ジャガいも」となったものです。もっとも、ジャカルタから日本へ入ってきたのはイモだけではありません。「ジャガタラ縞」(ジャワ島産の縞織物で、木綿と絹の交ぜ織り)や、植物では「ジャガタラ水仙」、それから、涙なしでは読めない、ジャカルタに追放された日本人妻やその子らが祖国を偲んで書き送った「ジャガタラ文(ぶみ)」、その代表で「あら、日本恋しや ゆかしや みたや みたや みたや」と書いた「ジャガタラお春」と呼ばれた人までいます。このように、当初は「◯○(地名)から来た△△(物)」と言う風に物の名前も残ることが普通で、上に挙げたカボチャも他に唐茄子、南京と言われることもありましたが今ではほとんど死語になったと思われます。前の唐茄子はまさに「地名+物」ですし、後ろの南京は南京豆、南京錠、南京焼のように、中国渡来の物産はよく南京をつけて呼ばれたことを示しています。「南京瓜」から「瓜」が落ちて「南京」だけになったのならこの単語の歴史はカボチャとそっくりですね。
なお、カボチャを南京と呼んだのは主に関西地方でした。また、カボチャを漢字で書くと「南瓜」ですが、これは中国語(南瓜nánguā)からの借用語で「南方から来た瓜」を意味しています。南の方角を変えて西瓜にすると?はい、こちらは「スイカ」です。これも中国語の「西瓜(シークワ:xīguā)」で発音もよく似ていますね。ジャガタラ芋、ジャガタラ縞、ジャガタラ水仙、ジャガタラ文の内、現在までよく使われる単語として残ったのは、「◯○(地名)から来た△△(物)」のうち、◯○から「タラ」を失ったことと引き換えに△△の「芋」を固持した「ジャガ芋」だけだった訳です。
カボチャ、ジャガイモと来てその続きはラウ(またはラオ)でしょうか。漢字もあって、羅宇と書きます。「え、それ知らない」とおっしゃる方もいるかも知れません。私も初耳で、何かの本で読んだのをメモしておいただけなのですが、この羅宇は、愛煙家、つまりスモーカーの方々には大切な言葉です。ただし、キセルを使う人でないといけません。キセルとは刻み煙草を吸う時の道具で、竹の管の両端に金属製の雁首(がんくび)と吸い口があります。そしてその間の竹の管がラウなのです。ちなみに、キセルだってカンボジア語のkhsierから来た外来語です。途中のお金を払わないで不正乗車をすることをキセルといいますが、これもキセルの両端が金属であることと始めと終りだけお金を払うことを洒落て出来た言葉です。おっと肝心の国の名前を忘れていました。ラウ(ラオ)がそうなのです。では、ラウに似ている国の名前は?そうです。ラオスなんですね。羅宇に使われた竹に多く「ラオス産の竹」が使われたのがその理由です。ここでは「ス」が落ちて日本語になったようです。キセルのこの部分のすげ替えをするお店は羅宇屋(ラウヤ)と呼ばれました。ジャガイモ、ラオと続くと、単語の一部を落とすとかえって生き残れるチャンスが増えるのかな、と歴史の皮肉を思わないでもありません。
さて、カンボジア、ジャカルタ、ラオスとアジアの国(と都市)が続きましたので、今度は東洋から西洋の言葉に入った言葉を眺めてみましょうか。先ず、英語のチャイナ(china)とジャパン(japan)が思い浮かびます。固有名詞でなく一般名詞ですから最初を小文字で書いた場合、チャイナは磁器、瀬戸物、またはそれで出来た皿、食器類のことですよね。一方、これもよく知られているように、ジャパンとは漆器のことですし、場合によっては「漆の、漆器の」という形容詞や「~に漆を塗る」という動詞にもなります。また、それを生業とする人たち、つまり「漆工」は「japanner」です。言うまでもなくそれぞれ主たる原産地・輸入先が両国だったからですが、面白いことにフランス語には「日本(Japon)」も「中国(Chine)」も一般名詞として入らず、漆器はlaque、陶器はpoterie, faïenceと言います。
ではフランス語は国や都市の名前を使って一般名詞を作らないのかと言えば、そんなことはありません。却って多いぐらいなのですが、形が変わっていたりして、語源の地名がもはや意識されないだけのことです。先ずフランス語のダーンド(une dinde)を考えてみましょう。ご存知のように、七面鳥のことですね。では、この言葉に地名の「インド」が含まれていることはお気づきでしたでしょうか。元々の単語はもっと長くて「インドの鶏(雄のCoqあるいは雌のPoule) d’Inde:コック(またはプル)・ダーンド)」だったのです。その前半、プル(やコック)が落ちてダーンドだけが残りました。前半が落ちてしまったのは、雄か雌かでいちいち言い分けるのが面倒に思われたからではないかと思われます。
さて、ここで気をつけなくてはいけないのは、ここの「インド」は南アジアの大国、インドではなく、そこから遠く離れたアメリカ大陸のことだということです。皆さんもご存知のように、15世紀末に、イタリア人探検家クリストファー・コロンブスがスペインの女王イザベル一世の命を受けて大西洋をインドに向けて出発、カリブ海と中南米に到着していわゆる「アメリカ大陸の発見」をした時に、この新大陸を、はるばる探し求めて航海してきたインドだと勘違いしてしまいました。新大陸がインドと呼ばれてしまったので、北米の先住民が「インディアン」、中南米では「インディオス」と呼ばれてしまうのです。旧大陸ヨーロッパの鶏に良く似た動物がこうして「インドの鶏」と呼ばれ、その後「鶏」が落ちて「インドの」だけが残ったというわけです。(d’Indeのアポストロフもいつしか消えてDindeとなりました)
七面鳥の呼び方で面白いのは、この同じ動物の原産が英語ではインド(実は北米)ではなく、トルコ(Turkey)から来たと思われていたことです。それが英語ではターキー(turkey)と呼ばれるようになりました。実はトルコは原産地でも中継地でもないのですが、欧州ではよくイスラム世界から伝来したものに「トルコの」とつけたようで、これは日本語に入った多くの「唐(から)~」と似ています。
インドから来たと思われたものがケベックのフランス語にはもう一つあります。七面鳥のような動物ではなく、こちらは植物、それも北米先住民が主食にしていた大切な穀物です。もうお分かりですね。それが「ブレダーンド(Blé d’Inde)」と呼ばれるトウモロコシで、原意は「インドの麦」です。なお、米国、カナダ、オーストラリアの英語ではコーン(corn)ですが、英国ではわざわざ「インド(=新大陸)のコーン(Indian corn)」と呼ばれるようです。七面鳥の場合とは違い、こちらはブレ(麦)が落ちずに残って、さらに後半と繋がって一語となったので、インドの大文字も小文字になりましたが、もはや地名の「インド」は意識されません。なお、北米ではブレダーンドですが、フランスでは「マイース(maïs)」と言います。Indian cornの他に英国の英語にはmaizeという言葉もありますが、明らかに仏語のmaïsと同源です。余談ですが、iの上にトレマ(二つの点)をつけないと「mais」となって、これは意味(「しかし」)も発音(「メ」)も品詞(これは接続詞)も全然別な単語です。
因みに、日本語のトウモロコシ(玉蜀黍)も由来の面白い言葉です。先ず後半の「もろこし」は「唐土」とか「唐」と書いて、それだけで「中国から来たもの」の意味がありました。唐土人(もろこしびと)、唐土船はそれぞれ「中国の人・中国の船」の意味です。さて、中国から既に伝わっていた植物が「中国から来たもの」という意味から「もろこし」と呼ばれていました。そこへ今度はそれと良く似た食べ物がポルトガルから入って来る様になったのです。すると「舶来の」の意味で「唐(とう)」が「もろこし」の前につけられて「唐もろこし」と呼ばれました。こうなると困るのは「とうもろこし」を漢字でどう書くかという問題です。「もろこし」は「唐黍」と書かれることがあったので、それに「唐」をつけると「唐唐黍」とダブってしまうからです。そこで「もろこし」の別の書き方である「蜀黍」と、黄金色の実が、まるで宝石(=玉)のように美しくならんでいる様子を表す「玉黍(たまきび)」を両方使って、「とうもろこし」は「玉色黍」と書かれるようになりました。私の出身地北海道ではトウモロコシのことをトウキビと呼んでいました。モロコシの漢字表記である「唐黍」が別な読み方をされたものと思います。
英仏語に入った地名起源の普通名詞に話を戻しましょう。服装関係の名詞に面白い例があります。英語でジーンズ(jeans)と言えば丈夫な綿布で作ったズボンのことですが、これはフランス語のGênesから来ており、それはイタリアの都市「ジェノヴァ」のことでした。ここが原産地だったのですね。また作業衣、作業ズボンなどの厚地の綿織物を英語でデニム(denim)と言いますが、これまたフランス語のデニーム(de Nîmes)が語源です。ニームはフランス南部の街の名前ですからジーンズと場合とよく似ていますし、「ニームの」の「の=de」がそのまま英語の「デニム」に残っているのは上で見た七面鳥「ダーンド」の場合と同じです。
最後にフランス語でネクタイを意味するクラヴァット(cravate)を挙げて今回の話題を締めくくりましょう。これも地名から来ています。ではクイズです。クラヴァットに似た地名はどこにあるでしょうか。何とクロアチアなのです。1991年に、それまで連邦を構成していたユーゴスラビアから独立しました。英語の発音では「クロエイシア」となってクラヴァットから遠ざかりますが、フランス語では「クロワット」で大変よく似ています。この共和国の騎兵隊が付けていたネクタイが洒落ていて、フランス語にそれまであった言葉を駆逐して使われ出したようです。(2014年9月)
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先ずは日本語に入って普通の名詞になった単語を考えてみましょう。上のカボチャと並んで野菜の名前ではジャガイモがありますが、これはどこでしょう。はい、そうです。これにはインドネシアの首都ジャカルタが一部入っています。このジャカルタは古くはジャカタラ(Jacatra)と呼ばれ、それが日本ではジャガタラと訛り、そこから渡来した芋(イモ)がジャガタラ芋となりました。次に「タラ」が落ちて「ジャガいも」となったものです。もっとも、ジャカルタから日本へ入ってきたのはイモだけではありません。「ジャガタラ縞」(ジャワ島産の縞織物で、木綿と絹の交ぜ織り)や、植物では「ジャガタラ水仙」、それから、涙なしでは読めない、ジャカルタに追放された日本人妻やその子らが祖国を偲んで書き送った「ジャガタラ文(ぶみ)」、その代表で「あら、日本恋しや ゆかしや みたや みたや みたや」と書いた「ジャガタラお春」と呼ばれた人までいます。このように、当初は「◯○(地名)から来た△△(物)」と言う風に物の名前も残ることが普通で、上に挙げたカボチャも他に唐茄子、南京と言われることもありましたが今ではほとんど死語になったと思われます。前の唐茄子はまさに「地名+物」ですし、後ろの南京は南京豆、南京錠、南京焼のように、中国渡来の物産はよく南京をつけて呼ばれたことを示しています。「南京瓜」から「瓜」が落ちて「南京」だけになったのならこの単語の歴史はカボチャとそっくりですね。
なお、カボチャを南京と呼んだのは主に関西地方でした。また、カボチャを漢字で書くと「南瓜」ですが、これは中国語(南瓜nánguā)からの借用語で「南方から来た瓜」を意味しています。南の方角を変えて西瓜にすると?はい、こちらは「スイカ」です。これも中国語の「西瓜(シークワ:xīguā)」で発音もよく似ていますね。ジャガタラ芋、ジャガタラ縞、ジャガタラ水仙、ジャガタラ文の内、現在までよく使われる単語として残ったのは、「◯○(地名)から来た△△(物)」のうち、◯○から「タラ」を失ったことと引き換えに△△の「芋」を固持した「ジャガ芋」だけだった訳です。
カボチャ、ジャガイモと来てその続きはラウ(またはラオ)でしょうか。漢字もあって、羅宇と書きます。「え、それ知らない」とおっしゃる方もいるかも知れません。私も初耳で、何かの本で読んだのをメモしておいただけなのですが、この羅宇は、愛煙家、つまりスモーカーの方々には大切な言葉です。ただし、キセルを使う人でないといけません。キセルとは刻み煙草を吸う時の道具で、竹の管の両端に金属製の雁首(がんくび)と吸い口があります。そしてその間の竹の管がラウなのです。ちなみに、キセルだってカンボジア語のkhsierから来た外来語です。途中のお金を払わないで不正乗車をすることをキセルといいますが、これもキセルの両端が金属であることと始めと終りだけお金を払うことを洒落て出来た言葉です。おっと肝心の国の名前を忘れていました。ラウ(ラオ)がそうなのです。では、ラウに似ている国の名前は?そうです。ラオスなんですね。羅宇に使われた竹に多く「ラオス産の竹」が使われたのがその理由です。ここでは「ス」が落ちて日本語になったようです。キセルのこの部分のすげ替えをするお店は羅宇屋(ラウヤ)と呼ばれました。ジャガイモ、ラオと続くと、単語の一部を落とすとかえって生き残れるチャンスが増えるのかな、と歴史の皮肉を思わないでもありません。
さて、カンボジア、ジャカルタ、ラオスとアジアの国(と都市)が続きましたので、今度は東洋から西洋の言葉に入った言葉を眺めてみましょうか。先ず、英語のチャイナ(china)とジャパン(japan)が思い浮かびます。固有名詞でなく一般名詞ですから最初を小文字で書いた場合、チャイナは磁器、瀬戸物、またはそれで出来た皿、食器類のことですよね。一方、これもよく知られているように、ジャパンとは漆器のことですし、場合によっては「漆の、漆器の」という形容詞や「~に漆を塗る」という動詞にもなります。また、それを生業とする人たち、つまり「漆工」は「japanner」です。言うまでもなくそれぞれ主たる原産地・輸入先が両国だったからですが、面白いことにフランス語には「日本(Japon)」も「中国(Chine)」も一般名詞として入らず、漆器はlaque、陶器はpoterie, faïenceと言います。
ではフランス語は国や都市の名前を使って一般名詞を作らないのかと言えば、そんなことはありません。却って多いぐらいなのですが、形が変わっていたりして、語源の地名がもはや意識されないだけのことです。先ずフランス語のダーンド(une dinde)を考えてみましょう。ご存知のように、七面鳥のことですね。では、この言葉に地名の「インド」が含まれていることはお気づきでしたでしょうか。元々の単語はもっと長くて「インドの鶏(雄のCoqあるいは雌のPoule) d’Inde:コック(またはプル)・ダーンド)」だったのです。その前半、プル(やコック)が落ちてダーンドだけが残りました。前半が落ちてしまったのは、雄か雌かでいちいち言い分けるのが面倒に思われたからではないかと思われます。
さて、ここで気をつけなくてはいけないのは、ここの「インド」は南アジアの大国、インドではなく、そこから遠く離れたアメリカ大陸のことだということです。皆さんもご存知のように、15世紀末に、イタリア人探検家クリストファー・コロンブスがスペインの女王イザベル一世の命を受けて大西洋をインドに向けて出発、カリブ海と中南米に到着していわゆる「アメリカ大陸の発見」をした時に、この新大陸を、はるばる探し求めて航海してきたインドだと勘違いしてしまいました。新大陸がインドと呼ばれてしまったので、北米の先住民が「インディアン」、中南米では「インディオス」と呼ばれてしまうのです。旧大陸ヨーロッパの鶏に良く似た動物がこうして「インドの鶏」と呼ばれ、その後「鶏」が落ちて「インドの」だけが残ったというわけです。(d’Indeのアポストロフもいつしか消えてDindeとなりました)
七面鳥の呼び方で面白いのは、この同じ動物の原産が英語ではインド(実は北米)ではなく、トルコ(Turkey)から来たと思われていたことです。それが英語ではターキー(turkey)と呼ばれるようになりました。実はトルコは原産地でも中継地でもないのですが、欧州ではよくイスラム世界から伝来したものに「トルコの」とつけたようで、これは日本語に入った多くの「唐(から)~」と似ています。
インドから来たと思われたものがケベックのフランス語にはもう一つあります。七面鳥のような動物ではなく、こちらは植物、それも北米先住民が主食にしていた大切な穀物です。もうお分かりですね。それが「ブレダーンド(Blé d’Inde)」と呼ばれるトウモロコシで、原意は「インドの麦」です。なお、米国、カナダ、オーストラリアの英語ではコーン(corn)ですが、英国ではわざわざ「インド(=新大陸)のコーン(Indian corn)」と呼ばれるようです。七面鳥の場合とは違い、こちらはブレ(麦)が落ちずに残って、さらに後半と繋がって一語となったので、インドの大文字も小文字になりましたが、もはや地名の「インド」は意識されません。なお、北米ではブレダーンドですが、フランスでは「マイース(maïs)」と言います。Indian cornの他に英国の英語にはmaizeという言葉もありますが、明らかに仏語のmaïsと同源です。余談ですが、iの上にトレマ(二つの点)をつけないと「mais」となって、これは意味(「しかし」)も発音(「メ」)も品詞(これは接続詞)も全然別な単語です。
因みに、日本語のトウモロコシ(玉蜀黍)も由来の面白い言葉です。先ず後半の「もろこし」は「唐土」とか「唐」と書いて、それだけで「中国から来たもの」の意味がありました。唐土人(もろこしびと)、唐土船はそれぞれ「中国の人・中国の船」の意味です。さて、中国から既に伝わっていた植物が「中国から来たもの」という意味から「もろこし」と呼ばれていました。そこへ今度はそれと良く似た食べ物がポルトガルから入って来る様になったのです。すると「舶来の」の意味で「唐(とう)」が「もろこし」の前につけられて「唐もろこし」と呼ばれました。こうなると困るのは「とうもろこし」を漢字でどう書くかという問題です。「もろこし」は「唐黍」と書かれることがあったので、それに「唐」をつけると「唐唐黍」とダブってしまうからです。そこで「もろこし」の別の書き方である「蜀黍」と、黄金色の実が、まるで宝石(=玉)のように美しくならんでいる様子を表す「玉黍(たまきび)」を両方使って、「とうもろこし」は「玉色黍」と書かれるようになりました。私の出身地北海道ではトウモロコシのことをトウキビと呼んでいました。モロコシの漢字表記である「唐黍」が別な読み方をされたものと思います。
英仏語に入った地名起源の普通名詞に話を戻しましょう。服装関係の名詞に面白い例があります。英語でジーンズ(jeans)と言えば丈夫な綿布で作ったズボンのことですが、これはフランス語のGênesから来ており、それはイタリアの都市「ジェノヴァ」のことでした。ここが原産地だったのですね。また作業衣、作業ズボンなどの厚地の綿織物を英語でデニム(denim)と言いますが、これまたフランス語のデニーム(de Nîmes)が語源です。ニームはフランス南部の街の名前ですからジーンズと場合とよく似ていますし、「ニームの」の「の=de」がそのまま英語の「デニム」に残っているのは上で見た七面鳥「ダーンド」の場合と同じです。
最後にフランス語でネクタイを意味するクラヴァット(cravate)を挙げて今回の話題を締めくくりましょう。これも地名から来ています。ではクイズです。クラヴァットに似た地名はどこにあるでしょうか。何とクロアチアなのです。1991年に、それまで連邦を構成していたユーゴスラビアから独立しました。英語の発音では「クロエイシア」となってクラヴァットから遠ざかりますが、フランス語では「クロワット」で大変よく似ています。この共和国の騎兵隊が付けていたネクタイが洒落ていて、フランス語にそれまであった言葉を駆逐して使われ出したようです。(2014年9月)
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