金谷武洋の『日本語に主語はいらない』

英文法の安易な移植により生まれた日本語文法の「主語」信仰を論破する

第86回 『子供たち』と『友達ども』

2017-02-20 03:24:32 | 日本語ものがたり
今回は先ず「子供たち」という言葉を考えてみます。耳で聞いても、書いてある字(「こどもたち、子供達」)を見ても、一見全く普通の日本語の単語と思われますよね、でも、実はちょっと不思議な言葉なのです。英語のチャイルド(Child)、仏語のアンファン(Enfant)に当たる日本語は、元来は「こども」ではなく、その前半の「こ(子)」だけで十分でした。今でも「男の子」「女の子」「親子」「江戸っ子」「道産子」な . . . 本文を読む

第85回「居酒屋」は、「ISAKAYA」か「IZAKAYA」か

2016-02-12 09:13:29 | 日本語ものがたり
皆様、明けましておめでとうございます。2016年初頭の今回は、昨年暮れにはシリアからの難民受け入れが当地カナダでも大きな話題になりましたので、難民の母語と受け入れ国の公用語に関係のある話題を取り上げてみましょう。 移民が受け入れ国で話されている言葉を習得する際に、どうしても母語の影響を「お国訛り」として残してしまう傾向があります。これが「母語の干渉」と呼ばれるものです。一例を挙げましょう。「自 . . . 本文を読む

第84回「ひらがな革命と国風文化」

2015-10-27 08:50:27 | 日本語ものがたり
つい先日、インターネットで、NHKの人気番組「その時歴史が動いた」(NHK大阪放送局制作)の特集「ひらがな革命」を見て感動しました。この番組が放映されたのは2006年ですが、ほぼ十年後の今年(2015)、地球の裏側のカナダに住む私がそれをネットで見ることが出来たのですから、何ともいい時代になったものです。毎回よく調査された「歴史の決定的な瞬間」が、谷川賢作作の印象的なテーマ曲をバックに展開、解説 . . . 本文を読む

第83回「黒帯の教え子を持つと」

2015-07-04 11:19:44 | 日本語ものがたり
モントリオール大学東アジア研究所で日本語を25年教えた後、退職したのは2012年6月でしたから、早くもリタイヤ生活が三年目ということになります。四半世紀に及んだ教師生活には数々の忘れられない思い出がありますが、今回はその中でも極め付きの、警察官まで登場する羽目となった、誠に思い出深い出来事を思い切ってご紹介することにしましょう。今でも思い出すと胸の高鳴りを抑えることが出来ません。そこに至る背景ま . . . 本文を読む

第82回「消えたミスター・残ったミスター

2015-02-26 10:18:01 | 日本語ものがたり
前回は、日常生活でよく使われる言葉をいくつか挙げて、元を辿るとその言葉は人名、それもその言葉と深い関係のある人物の名前だったことを、シルエット氏(フランス人)、サンドイッチ氏(イギリス人)、レントゲン氏(ドイツ人)の三名を実例としてご紹介しました。何だ、そんな例なら他にも知ってるぞ、と思われた方もいるでしょう。そんな反応を予測して、今回もさらに例を並べてみたいと思います。次回からは別な話題へと移り . . . 本文を読む

第81回「シルエット、サンドイッチ、レントゲン:これら3語の共通点は?」

2014-11-24 19:22:09 | 日本語ものがたり
 「夕焼けの空に富士山のシルエットが美しい」という文の中の「シルエット」とは影絵のことで、輪郭だけの黒い実景のことを言います。また「サンドイッチ」は、ご存知の様に、薄く切った二枚のパンの間に肉や野菜、卵などを挟んだ軽食のことです。日本語では中に入れる具材を前に付けて「ハムサンド、カツサンド、ツナサンド、野菜サンド」などと呼ばれることもあります。また、和製英語で「サンドッチ・マン」は自分がサンドイッ . . . 本文を読む

第80回「場所から物の名前になった例」

2014-10-03 14:39:19 | 日本語ものがたり
 今回はある国(や都市)の名前が他の国の言語で別な意味の普通の単語になってしまった例を考えてみます。おそらく皆さんも幾つかはご存知でしょう。野菜であるカボチャが元々は国名のカンボジアから来たように、「その国や都市から渡来した産物なので(あるいはそう誤解されたので)地名がその産物を指す名前になった」という例が最も普通です。具体的な「モノ」がその対象なので、そのほとんどが名詞です(が下で見る「japa . . . 本文を読む

第79回 「書かれた通りに発音すればいいんですね」

2014-04-05 15:56:30 | 日本語ものがたり
  24年間日本語を教えたモントリオール大学を2012年6月に退官した際、ちょうどいい潮時かと思って「日本語ものがたり」を連載77回目で終わらせて頂きました。ところが先月故小畑精和明治大学教授のお悔やみ記事を書きましたら、「日本語ものがたり」の再開を友人数人から強く勧められてしまいました。退職以来、以前より時間の余裕が出来ましたので、「それでは忘れた頃に時々…ということで」、という条件でお引き受け . . . 本文を読む

第78回「故小畑精和先生を偲んで」

2014-04-05 15:50:13 | 日本語ものがたり
昨年11月23日のことです。「悲しいお知らせです」という表題のメールが突然舞い込みました。 差出人は飯笹佐代子先生(東北文化学園大学准教授)。飯笹先生とは、その2ヶ月前に、モントリオール、オタワ、 さらにケベック市と三都市八日間に及ぶ研究旅行に(私は通訳として)ご一緒したばかりです。そして その「悲しいお知らせ」とは小畑精和先生(明治大学政治経済学部教授)の訃報だったのです。死因は下咽頭癌。享年6 . . . 本文を読む

第77回「和子は、どうして「かずこ」と読むのか」

2012-06-18 09:44:09 | 日本語ものがたり
今回の話題は「和子・和夫(和男)」という名前についてです。あるとき「和子・和夫(和男)という名前の人はみんな長女・長男だよ」と主張する人がいて、それが全く初耳だった私はとても驚きました。ましてや、その直後にバンクーバーで会社を経営されている上田(こうだ)和男さんとお会いする機会があり、そのことをお話したら「確かに、私は長男です。それに妻の名前は和子で、やはり長女です」とおっしゃるのではありませんか . . . 本文を読む

第76回 「百人一首の謎」

2012-05-16 20:41:13 | 日本語ものがたり
 前回、モントリオール大学の日本語3年生と日本人が対戦した弥生歌留多大会の様子を書きました。すると「北海道の木の板の取り札が懐かしい」とか、「作戦があったにしても日本人が負けたなんて信じられない」などの声が聞こえてきました。読者の皆さんのコメント、ありがとうございます。こうした反応に気を良くして、今回もさらに百人一首にまつわる話を続けたいと思います。実は、学生が「百人一首」に大いに関心を示したのは . . . 本文を読む

第75回 「咲くやこの花冬ごもり」

2012-04-24 08:59:52 | 日本語ものがたり
 今学期は久しぶりに日本語の最上級である三年生を担当したのですが、思い立ってクラスの学生七名に百人一首の短歌を教えてみたら驚くほど喜ばれました。その反応に気をよくしてさらに万葉集、いろは歌へと古語の森をさらに逍遥し、学期末まで大いに盛り上がりましたが、私自身、大昔に故郷の北海道北見市で百人一首を家族や友達と楽しんだ遠い記憶が蘇ってきて楽しめました。上級クラスですから、難解かつ長文のテキスト分析も勿 . . . 本文を読む

第74回 「早く宿題やって遊ぶべ」

2012-02-19 11:24:30 | 日本語ものがたり
 ご周知の通り、現代日本語の母音は『あ・い・う・え・お』の5つです。とは言っても、その使われ方は一様ではなく、「え」は他の4つと比べて使われる頻度がかなり少ないのです。先ず、国語学者大野晋の「日本語の文法を考える」(岩波新書:1978)に挙げられているデータをご紹介しましょう。それは、万葉集の5,14,15,17,18,19,20合計7巻に使用された万葉仮名の総数を音節ごとに集計したもので、音節の . . . 本文を読む

第73回 「嫌いな食べ物」

2011-11-20 22:06:32 | 日本語ものがたり
 このブログを読んでくださっている方からのアドバイスで、今回から「です・ます」調で書くことにしました。これまでの記事を書き換えることはしませんが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。  日本語を教えるという仕事していると、「あれ、どうして?」と思うことがしばしばですが、今回の表題、「嫌いな食べ物」もそんな一例です。この日本語のどこが「あれ?」なのでしょう。ありふれた日本語だと、どなたも思われ . . . 本文を読む