獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

村木厚子『私は負けない』第一部第3章 その5

2023-05-08 01:10:35 | 冤罪

このたび、村木厚子さんの著書『私は負けない-「郵便不正事件」はこうして作られた』を読み、検察のひどいやり方に激しい憤りを感じました。
是非、広く読んでほしい内容だと思い、著書の一部を紹介したいと思います。

(目次)
□はじめに
第一部
□第1章 まさかの逮捕と20日間の取り調べ
□第2章 164日間の勾留
■第3章 裁判で明らかにされた真相
□第4章 無罪判決、そして……
□終 章 信じられる司法制度を作るために
第二部
・第1章 支え合って進もう
  ◎夫・村木太郎インタビュー
・第2章 ウソの調書はこうして作られた
  ◎上村勉×村木厚子対談(進行…江川紹子)
・第3章 一人の無辜を罰するなかれ
  ◎周防正行監督インタビュー
・おわりに


はじめからすべて嘘だった

次の大きな山は、石井一参院議員の証人尋問でした。最初のうちは、多忙な国会議員の先生に、証人として来ていただくのは無理だろうと思っていました。検察側も、公判前整理手続の当初は、本気にしていませんでした。それでも、弘中弁護士が「動いてみないことには、無罪を証明する証拠なんて見つからないよ」と言って、とにかく石井議員に証人になってほしいとお願いしてみることにしたのです。
そして、弘中弁護士が石井事務所を訪ねた時に、とんでもないことが分かりました。検察側の主張では、凜の会の倉沢氏が石井議員の事務所を訪ねて口添えを頼んでいるはずの04年2月25日午後1時に、石井議員は事務所ではなく、ゴルフ場にいらしたのです。
石井議員は、神戸市の事務所に保管してある手帳の該当ページをわざわざFAXで送らせて、弘中弁護士に見せました。手帳には、石井議員が会った人はすべて記録されていました。問題の日に、倉沢氏の名前はなく、欄全体に斜線が引いてありました。ゴルフに行くつもりで、予定を入れないように、斜線を引いてあったのでした。ゴルフに一緒に行ったメンバー、スコア、ティー・オフの時間などが書かれていました。当時石井氏は衆議院の決算委員長でした。この日は、本予算を衆議院本会議に上げる直前で、全大臣と各省庁の主な幹部は全員が予算委員会にはりついている状態だったので、決算委員会はなく、千葉県成田市のゴルフ場まで出かけた、ということでした。
初公判の日に弘中弁護士からこの話を聞いて、私はとてもショックを受けました。検察の主張にしては珍しく、2月25日に関する主張については、裏付け証拠がありました。倉沢さんの手帳のこの日の欄に、「13時 石井」と書いてあったのです。それで、私は石井議員が倉沢さんに会ったのは事実だろう、と思っていました。けれども、口添えの依頼を引き受けなかったのか、引き受けたフリをしてそのまま放置していたのか、どちらかだろうと考えていたのです。ところが、倉沢さんが石井議員に会って頼んだことも、嘘でした。検察のストーリーは、出発点からすべて虚偽だったのです。
石井議員は、09年9月11日に検察側から事情聴取を受けています。私が起訴されてから2ヵ月以上も経ってからです。証拠開示でこの調書を入手し、この日付を見たときには心底がっかりしました。私は、塩田さん経由で石井議員の頼みを受けて違法な行為をしたとして逮捕されたのに、検察は、肝心の石井議員に何の話も聞かないまま、私を起訴したのでした。この9月11日に事情を聞いたのは、主任の前田恒彦検事でした。石井議員はこの事情聴取の時に、数年分の手帳を持参したが、机の上に並べた手帳に、前田検事はほとんど関心を示さず、手にとってぱらぱらとめくっただけだった、とのことでした。この時に、ちゃんと確かめていれば、この日に石井議員が倉沢さんに会っていないことは、分かったはずです。

 

崩壊する検察ストーリー

石井議員が証言をした第11回公判(3月4日)、傍聴席は満杯でした。その前で、石井議員は塩田さんへの口利き電話をしたという疑惑を、きっぱりと否定しました。
「絶対にありえません」
「絶対に」という言葉に、力がこもっていました。
証言によれば、問題の日、ゴルフを終え、入浴を済ませてゴルフ場を出たのは午後4時頃。その後、赤坂の料亭に直行し、議員や業界関係者の懇談会に出席したということでしたので、ゴルフの後に倉沢さんの要請を受けた、ということもありえません。
私は、石井議員の名前や顔は存じ上げていましたが、間近でお会いするのは、この法廷が初めてでした。石井議員は、塩田さんについても、「いろんな役人にいろんな所で会っているかもしれないので、会った事実はあるかもしれないが、覚えていない」と証言されました。もちろん、塩田さんに口添えの電話をしたことも、否定されました。
検察側の反対尋問には、前田検事が立ちました。それまで一度も発言することもなく、いつも後ろの座席からにらみをきかせているだけで、存在感がありました。ところが、石井証言を揺るがす事実を持っていないだけでなく、証言を突き崩そうとする気迫も感じられなかったのは意外でした。
一方、追加の反対尋問を行った白井検事は、何とか石井証言を突き崩そうと懸命になっていました。しかし、逆効果でした。たとえば、こんなやり取りがありました。

白井 「倉沢は、はっきり石井先生に口利きを頼んだと証言している。心当たりは?」
石井 「まったくない」
白井 「倉沢はなぜそういう証言をしていると思うか」
石井 「私は誰かに恨まれるようなことはしていない。彼も、私のことはある程度尊敬していたと思う。そういう証言をしているとすれば、『こういうことだから認めろ』と(検事に)言われて認めたんじゃないですか」

こんな場面もありました。白井検事が、質問の頭に「その日はインのスタートで……」と言いかけたところで、弘中弁護士がすかさず立ち上がり、異議を申し立てたのです。「その日にインとアウトのどちらでスタートしたのか、証拠に出ていません」尋問が終わった後、弘中弁護士は再び立ち上がって、こう言いました。
「インからスタートしたと分かっているのは、検察官はゴルフ場に照会をしているんですよね。その結果を開示してください」
弁護側は、あらかじめ石井議員の手帳を証拠申請していました。その立証趣旨の中に、当日はゴルフをしていた、という点が書かれていたので、検察は慌てて調べたようです。
弘中弁護士に指摘されて、白井検事はとたんにしどろもどろになって、「捜査中です」と言うだけ。さらに問い詰められると、「(問い合わせはしたが)現時点では証拠になっていない」と、照会したことを認めました。その二人のやりとりを横田裁判長が引き取って、静かにこう尋ねました。
「書面化して証拠開示するということですか?」
白井検事は、しぶしぶ「開示するにやぶさかではない」と述べました。
後日、開示された書面には、石井議員がご自身のカードで支払いをした証拠まで添付されていました。石井議員の手帳には書かれていないことが、白井検事の口から出たことに、弘中弁護士が気づいて追及をしたから明らかになったものの、そうでなければ、ずっと隠されていたでしょう。捜査機関が税金を使って集めた証拠なのに、それが被告人に有利なものだと、できるだけ隠しておこうという検察の姿勢がここにも表れ、怒りを覚えました。
検察側は、自分たちに不利な証拠を隠そうとしたばかりでなく、被告人に有利な証拠を封じようともしました。弁護側が石井議員の手帳を、尋問の最中に示したり、証拠提出することについて、猛烈に反対したのです。公判前整理手続の際に提出しなかったのだから、証拠採用すべきでない、というのが検察の主張でした。
確かに法律では、証拠は公判前整理手続の間に請求しなければならないことになっています。ただ、「やむを得ない事由によつて」公判前整理手続の期間内に請求できなかったものは、例外とされています。弁護側が、石井議員に実際に会って、手帳があることを知ったのは、公判前整理手続が終わってからでした。
弁護団は、そのことを述べて、これが「やむを得ない事由」にあたると主張しました。裁判所が、証拠採用すると決めた後にも、検察は異議を述べて抵抗しました。
このやり取りを聞いていて、検察というのは、「本当はどうだったのか」ということには何の関心もないのだな、と感じました。それより、自分たちの冒頭陳述を守ることに全力を傾ける。途中で新しいことが分かっても、自分たちのストーリーと違えば、一切無視して、自分たちの物語だけを守っていく。つまり、真実はどうあれ、裁判で勝つことだけが大事というのが 彼らの行動原理だと、 よく分かりました。
そして、公判でのこうした検察官の活動の中心になっていた白井検事も、このころすでに証拠改竄のことを知っていたことが、後になって分かっています。機会があったら、白井検事に、不正があったことを知りながら、いったいどういう気持ちで、公判活動をやっていたのか、聞いてみたいと思っています。ちなみに、このころ白井検事が居酒屋で「検事をやめたい」と愚痴っていた、という噂を後で聞きました。愚痴るだけでなく、本当の意味での検事の職業倫理にしたがって行動していてくれたらなあ、と思います。


解説
後日、開示された書面には、石井議員がご自身のカードで支払いをした証拠まで添付されていました。石井議員の手帳には書かれていないことが、白井検事の口から出たことに、弘中弁護士が気づいて追及をしたから明らかになったものの、そうでなければ、ずっと隠されていたでしょう。捜査機関が税金を使って集めた証拠なのに、それが被告人に有利なものだと、できるだけ隠しておこうという検察の姿勢がここにも表れ、怒りを覚えました。(中略)
このやり取りを聞いていて、検察というのは、「本当はどうだったのか」ということには何の関心もないのだな、と感じました。それより、自分たちの冒頭陳述を守ることに全力を傾ける。途中で新しいことが分かっても、自分たちのストーリーと違えば、一切無視して、自分たちの物語だけを守っていく。つまり、真実はどうあれ、裁判で勝つことだけが大事というのが 彼らの行動原理だと、 よく分かりました。

なるほど検察は、自分たちに不利な証拠を隠そうとするばかりでなく、被告人に有利な証拠を封じようともするのですね。
「真実はどうあれ、裁判で勝つことだけが大事」
これが、彼らの行動原理なのですね。あきれます。

 

獅子風蓮



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