獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

石橋湛山の生涯(その47)

2024-08-13 01:34:04 | 石橋湛山

石橋湛山の政治思想に、私は賛同します。
湛山は日蓮宗の僧籍を持っていましたが、同じ日蓮仏法の信奉者として、そのリベラルな平和主義の背景に日蓮の教えが通底していたと思うと嬉しく思います。
公明党の議員も、おそらく政治思想的には共通点が多いと思うので、いっそのこと湛山議連に合流し、あらたな政治グループを作ったらいいのにと思ったりします。

湛山の人物に迫ってみたいと思います。

そこで、湛山の心の内面にまでつっこんだと思われるこの本を。

江宮隆之『政治的良心に従います__石橋湛山の生涯』(河出書房新社、1999.07)

□序 章
□第1章 オションボリ
□第2章 「ビー・ジェントルマン」
□第3章 プラグマティズム
□第4章 東洋経済新報
□第5章 小日本主義
■第6章 父と子
□第7章 政界
□第8章 悲劇の宰相
□終 章
□あとがき


第6章 父と子

(つづきです)

昭和12年(1937)7月、盧溝橋事件で日中両軍が再び衝突し、これが日中戦争の発端になった。12月には日本軍が南京を占領した。
「僕は軍部の無制限の大陸侵攻、つまりは日中戦争の全面化には反対なんだ。大事なことは戦争回避であって、だからこそ資源・国力をしっかり持っている国である米英に対しては門戸解放を要求するし、将来必ず米英とは衝突するであろう日本のアジア独占主義を徹底的に批判したいんだよ」湛山は、清沢にだけは止むを得ず『東洋経済新報』の「日支衝突の世界史的意味」で、列強の植民地独占と自由通商政策の放棄に対する日本の自己防衛としての日支事変を認めるような文章を書かざるを得なかった心情を吐露した。
「忸怩たるものがあるんだ。だが、新報社は今や60人以上の社員を抱えている。その家族まで入れれば数百人の運命を握っていると言ってもいい。論旨に若干の後退があるのを君は分かってくれるかな?」
「こういう時代ですから、よく分かります。あんまり気にしないほうがいいですよ」
湛山が時として気鬱の病いにかかることを、清沢は知っていた。
「今、石橋さんにどうかなられたら、日本の言論は本当に死んでしまいますから」
清沢の本音であった。
「ありがとう。十分に注意をするよ」
湛山から徐々に、花鳥風月やスキーを楽しむ余裕が失われつつあった。
そんな湛山を特高警察の警察官二人が訪問したのは、この年の5月のことであった。
「石橋さん。あなたの言論には気になることがたくさんあります。気をつけたほうがよろしいのでは、とご忠告に参ったわけです」
「……」
「確かに『東洋経済新報』は一般読者対象の雑誌ではありません。新聞でもありません。わが国でも有数な財界人の読むものですから、さほど思想的に問題ありとは言われないでしょう。しかし、これから我が国が大東亜共栄圏を掲げて前進するのに、おかしな理屈でその意図を邪魔されても困るのですよ」
「君ねえ、日本の言論は明治の御一新以来、保障されておるのですよ。公論ですよ。分かっているのですか?」
「もちろんです。ただ、特高警察にはそれなりの役割がありますから。大学の先生といえどもおかしい発言にはそれなりの注文をつけますよ。ご存じでしょう? 京大の滝川事件や美濃部達吉の天皇機関説事件は」
「知っていますよ。どちらも私の主張とは相容れない」
「いや、そういうことではなくてですな。我々は石橋さん、あなたもしっかりマークしていますよ、とお伝えしているんです。国家総動員法も成立しましたし……」
「恫喝ですか?」
「いや、忠告です」
障子の陰では妻の梅子が、はらはらしながら湛山と特高のやり取りを聞いていた。
「ご忠告ありがたく思います。どうぞお引き取りください」
二人が帰っていった後、湛山はどっと疲れが出た。梅子は、ほっとした表情でお茶をいれてきた。
「ああいう輩が横行する嫌な世の中になったもんだ。きっと新報の3月、4月の社説を読んで問題にしたのだろう」
それは〈武力の効用を偏信する軍人が、往々にして国を危くする〉とか〈力を以て言説を抑圧し、言説者を処罰する如きは、独裁政治を非としながら、自ら独裁の弊に陥るものだ。言論の自由無くして議会は成立しない。議会はここに滅びるのだ〉、また〈日蓮は曾て口だけで『法華経』を読む者は甚だ多い、心で読む者は必ずしも少なくない、しかしこれを身で読む者に至つては皆無である、と慨嘆した。記者は今日の挙国一致、国家総動員においてこの感が深い〉などの文章である。湛山は、これらの社説が特高警察の目に触れ、気に障ったに違いないと確信した。
これからはもっともっと検閲が強化されるに違いなかった。今日の特高の訪問がそれを示している。
だが、負けまいぞ。湛山は改めて自由主義の灯を消さない覚悟を固めた。

(つづく)


解説

これからはもっともっと検閲が強化されるに違いなかった。今日の特高の訪問がそれを示している。
だが、負けまいぞ。湛山は改めて自由主義の灯を消さない覚悟を固めた。

湛山にとって、苦難の時代が始まりました。


獅子風蓮