
読んでない本が大量にあって、時々めまいがしてくる私であるが、「窓ぎわのトットちゃん」もそのうちの一冊であったので、読んだ。
黒柳徹子はリトミックを日本に広めた小林宗作のトモエ学園の出身で、そこにいた頃のことを書いた本である。
よかったのは最初の「はじめての歌」と「スパイ」の章である。トットちゃんはスパイになりたかった。最初の学校を退学になったあたりでもうスパイ志望で、トモエに入ってからもそれを忘れてはおらず、小二の時、初恋の泰ちゃん(のちの物理学者、山内泰二)に理詰めで不可能性を説かれるまであきらめてはいなかったようなのだ。
黒柳徹子の何ともいえぬ切れ味は、どうも昔スパイ志望だったことと関係があるのではなかろうか。
それにしても、彼女はなぜスパイ志望だったのか。彼女が生まれてから小学校2年生あたりがゾルゲがスパイをやっていた期間にあたっている(たぶん)。ドイツから逃げてきたローゼンシュトックが指揮するN響のコンサートマスターの娘であるトットちゃんは、まあ、ちゃんと何が問題なのかわかっていたのであろう。
で、彼女にスパイをあきらめさせた山内君は、スパイの同時代的な危険性までちゃんとわかっていたのではなかろうか。トットちゃんより山内君の方が惚れていたのかもしれない。
「ありがとう。スパイはやめる。でも、泰ちゃんは、きっと偉い人になるわ」
この台詞はよかった。素晴らしいラブシーンであった。