【12/12 高円宮杯JFA U-18サッカー プレミアリーグ2021プレーオフ Dブロック決勝戦 V·ファーレン長崎U-18 0-2 前橋育英】
※選手の敬称は略させていただきます。
試合終了の笛を聴いたとき、この試合で引退する3年生以上に涙を隠さなかった16安部大晴の姿が印象的でした。
プリンスリーグ九州初優勝からこのプレミアリーグプレーオフという未知の領域に足を踏み入れたU-18の選手たちの昇格に賭ける想いたるや、いかなるものだったかを物語る気がします。
この舞台への初挑戦を見届けるべく、私もエディオンスタジアム広島にやって来ました。
全国の錚々たる高校やユースチームの名前が並ぶトーナメント表を見ると、誇らしさと緊張感が同時にやって来ます。
直前のAブロックの決勝戦ではプリンスリーグ関東3位の桐生第一(群馬県)がプリンスリーグ北信越1位の帝京長岡(新潟県)を1-3からひっくり返して逆転勝ち。
凄い試合を目の当たりにして、ボルテージが上がります。
スタメンとフォーメーション。
V·ファーレンは今年プリンスリーグの多くを戦ったメンバーが揃い、ほぼベストメンバー。前橋育英も名前を見る限りは、選手権県予選とも同じでベストではと思いました。
前半はV·ファーレン陣内でボールが動くことが多くなりました。V·ファーレンが後方からビルドアップする際に、前橋育英が高い位置からのプレッシングを選択したことで低い位置からのスタートになります。
V·ファーレンのビルドアップは4バックでボールを左右に動かしながらサイドハーフ(鍋島、大山)に、あるいは2トップ(中島、七牟禮)に縦につけることが前進になりますが、この縦へのパスのコースをかなり限定されていたように思います。
例えば図のように7長塚にボールが入ったときに、前橋育英は23小池が真ん中も外もどちらも切れるような位置取りをしています。目の前に立たれるのでFWには蹴りにくく、SHの11鍋島に上手く出せても前橋育英は17大竹がすぐに出てくる上に23小池もすぐさまプレスバックして挟まれて奪われます。これは右でも同じ。
FWに蹴っても足元へのボールも裏へのボールもスカウティングされていたらしく、しっかり対応されていました。前橋育英の片方のSBがプレスに出ていても反対側のSBがCBのサポート。さらにボランチも加わり数的優位も確保。
このあたりを前橋育英は献身的に行っていたこと。まずはそれが印象的です。
そんな時間が長かったように感じました。
V·ファーレンのビルドアップの構造的に仕方ない部分もあるのですが、もう少しSHや2トップに入ったときのサポートやボールの動かし方が早ければ、もう少し相手陣内に運べる回数も多かったのだろうかと思います。
ただ、DFラインで左右に速く動かしたり1つ飛ばすパスを入れる段階でボールが走りにくいピッチコンディションだった影響もあったのかもしれないとも。
また、そこまで全体を押し上げられなくても失点しなければ致し方なしという算段もベンチにあったかもしれず。プリンスリーグを失点の少なさで乗り切ったこともあり、そこは何とも言えません。
前半飲水タイム直前には6小西のインターセプトから13七牟禮が持ち込んで2トップだけでシュートまで持ち込んだだけに、我慢してそういう場面を増やす、そういう狙いがあってもおかしくないです。
ただ、その飲水タイム直後に失点しまった。結果的にこれが痛かったですね。
その前に前橋育英のボール保持の形を。両SBが押し上げ、2CBと頂点に7根津。脇または間に14徳永が落ちながらサポート。この形で、V·ファーレンの守備はセンターサークルの頂点付近からスタートするので、前橋育英は全体を押し上げて、相手陣内に選手を多くを配置出来る上、距離感も良いので高い位置でボールを持てます。
それでもV·ファーレンは松田浩仕込みのゾーンディフェンス。4-4ブロックの中にはボールを入れさせず、サイドでもSBとSHが挟み込めるので、個の力のある10笠柳にも仕事はさせないし、SBが攻撃参加してもいい形でクロスは上げさせていませんでした。
しかし、失点の場面。直前に左サイドでマイボールになるかというボールが相手に渡り、中途半端に前に出かかり右SHの14大山が釣り出されたところをその背後に展開され、10笠柳から追い越す6岩立に初めてではないかというくらい綺麗なクロスを上げられて中が後手に回った。そんなふうに見えました。
YouTube配信で松田監督も「飲水タイム後5分くらいは緩む場合があるから気を付けなくてはいけない」とおっしゃっていましたが、その言葉どおりになってしまいました。
前橋育英は得点してからプレスの強度が上がったように感じました。ただそれでもV·ファーレンは1失点で耐えて後半に持ち込めれば良かったのですが、前半ATにも失点。
エリア内でセルフジャッジしてしまったV·ファーレンとやり切った前橋育英。
こういう細かい差が勝敗を分けてしまうんですね。
後半、曇って気温が下がるのを感じました。
前橋育英は失点しないようにしながら追加点をというところで、V·ファーレンはまずは1点が欲しい。
前半と比べてやや重心を前に上げることが出来たように見えました。
ビルドアップのところで縦パスをボランチに入れたり、内に絞ったSHや顔を出すFWに入れるという選択肢を入れることで相手のプレスがやや遅れて前進。
14大山→9池田誉の交代で、10中島が右SHに。
これが直後に生きてチャンス。右の10中島がためを作り、6小西がオーバーラップしてクロスを13七牟禮。この試合で一番いい形でした。
ただ、そういう場面を作りつつも、やはり局面での前橋育英のスピードが上回るのが目立ってしまいます。一瞬一歩の状況判断が上。V·ファーレンは「合わないプレー」が多くなってしまう。見ていてそれがわかってしまうので、辛かったです。
プリンスは戦えても、この舞台では厳しいのか。
75分頃からは16安部が降り気味でCBを助けながらSBを押し上げて前進する形を取るも、なかなかシュートまでは至らず。
9池田、13七牟禮の期待の1年生2トップも何とかしようと走り続けましたが…。
チームは強くなり、プリンスリーグも獲りました。でもまだ上のレベルがある、そんな試合でした。
どうしても抽象的な話になってしまいますが、松田監督が言う「同じ絵を描く」、これを前橋育英は出来ており、V·ファーレンは足りなかった。前橋育英は「このときはこう」「相手がこう来たらこう」という状況に応じた引き出し·選択肢をチームとして持っていて、経験として蓄積されていました。チームでの場数でもあり、監督の場数でもあるのかもしれません。
V·ファーレンはそれを身につけることがこれからの目標になるでしょう。
しかしそれはこの舞台に来たからわかることであるわけで、ここまでのプロセスだって間違いだとは思わないです。それが重要。私もこの場に来れたから感じられたことがたくさんあったので、選手たちには感謝しかないです。
2017年から2019年までは「プリンスに残留出来て良かった」、そんなシーズンでした。それがここまで来た。このチームまだ成長していく余地があり、それをこれからも見たい。楽しみです。
卒業する3年生には大学で、2、1年にはまだ来年ここに戻って来れるように頑張ってほしいと思います。
この試合は配信で見ることが出来ます。