ガタゴトぷすぷす~外道教育学研究日誌

川口幸宏の鶴猫荘日記第2版改題

翻案 パリ・コミューンと少年(2)

2018年09月12日 | 研究余話
1ー1 おおぃ、ピエロぉ!
 パパがすっくと立ちあがり、ぼくを認めた。両腕を広げた。ぼくは走りを続けた。パパの首に飛びついた。パパの手はずぶ濡れな上に、ぼくをきつく抱きしめてきた。ぼくの両足が地面には届かなくなるほどに、抱き上げた。
 パパが笑った。ぼくも笑った。ぼくは泣いた。パパも。両の目には涙がいっぱい溢れていた。軽くカールしたパパのひげが、ぼくの鼻、頬、耳を代わる代わるくすぐった。ぼくたちは会えない日々がとても多かった。いいや、パパと会うなんてことは考えてもいなかった。それほどこの時代の毎日毎日が騒がしく不安だった。
ぼくの心臓は、もうちょっとで変になってしまうほど、激しく動悸を打っていた。
 長い間ぼくはパパの首にぶら下がっていた。時間が時間でないなんてことは、多分、ぼくの生活のはじめてのことだ。:一秒が一時間でありえたし、一時間が一秒でありえた。ぼくは幸せだった。パパもそうだ。
 パパは石畳の上にぼくを降ろした。ぼくはようやく、もうさみしくないんだという意識を取り戻した。

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