ガタゴトぷすぷす~外道教育学研究日誌

川口幸宏の鶴猫荘日記第2版改題

大衆小説作家ウージェーヌ・シューについて

2017年09月22日 | 研究余話
ウージェーヌ・シュー(1804-1857)はヴィクトル・ユゴー(1802-1880)とほぼ同じ世代の大衆小説作家である。社会ロマン派に属したこと、大衆に大変人気があったこと、第二共和政期に立法議会議員に選出されたこと、さらにはナポレオンIII世に疎んぜられ国外追放されたことなど、両者には共通するものが数多くある。障害者を作品のテーマにしたこともまた両者に共通している。これは身体障害者をテーマとしたユゴーがわずかに先んずるが(『ノートル=ダム・ドゥ・パリ』1831年刊)、後に紹介するように、シューはまず1832年に「イディオ1824」という短編で、続いて1842年から43年に新聞『ジュルナル・デ・デパ』紙に連載新聞小説『パリの秘密』を発表し、その作品の中で、重度知的精神障害者についてかなり詳しく描き出している。
 我が国におけるシューの認知度は、ユゴーに比べてはるかに低い。翻訳も多くは出されておらず、『パリの秘密』の部分訳、『さまよえるユダヤ人』が私の知るところである。認知度の温度差は、ご当地フランスにおいても同様のようである。確かに『パリの秘密』の原書を入手するのに何軒も古書店巡りをした。新刊本が出されていないからである。にもかかわらず、小倉孝誠『『パリの秘密』の社会史』(新曜社、2004年)によれば、ユゴーの『レ・ミゼラブル』は『パリの秘密』に触発されて上梓されたという。拾い読みでしかない私の読み方で言えば、例の「銀の燭台」はシューのオリジナルであって、ユゴーはそれを剽窃したのではないか、とさえ思われる。詳しくは小倉孝誠氏の力作名著に譲りたい。
 本ブログとシューとの関わりと言えば、なんといっても、『パリの秘密』で描写されたビセートルと精神病者の姿、そして「白痴学校」の情景描写にある。