背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

チャーリー・パーカーに関する文献・資料(2)

2019年07月22日 15時11分56秒 | チャーリーパーカー
 ネット書店で注文したパーカーの本が先週2冊届いた。
 カール・ウォイデック著「チャーリー・パーカー モダン・ジャズを創った男」(2000年、水声社)と平岡正明著「チャーリー・パーカーの芸術」(2000年、毎日新聞社)。どちらも最近(と言っても20年近く前)出版された本だ。
 早速、両書とも第一章だけ読んでみた。平岡正明の本は、まあ何と言おうか、自己顕示欲むき出しの文章なので、好みに合わず、また資料性もゼロなので途中で放り投げようかと思っている。



 本書は、Carl Woideck "Charlie Parker His Music and Life"(1996)(チャーリー・パーカーの音楽と人生)の日本語版で、著者は米国の音楽家で大学講師である。パーカーの真面目な研究書なので、ためになりそうだと思って購入した。
 ところが、翻訳が最悪なのだ。前回「チャーリー・パーカーの伝説」と「バードは生きている」は翻訳書なので意味の分かりにくい箇所が多々あると書いたが、この本は意味不明の箇所だらけで、訳文も高校生に毛が生えたレベルなのだ。訳者の名前は伏せるが、上智大の外国学部を出た女性だという。私も昔、高校生に英語を教えていたこともあって、生徒がする誤訳や下手な訳には慣れているが、生徒の答案と公刊した本とでは責任の重大さが違うと思うのだ。それで、無性に腹が立って(この本、3,240円もした)、原文にあたってみた。
 アマゾンに原書の「なか見検索」というのがあって、一部だけネット上で読むことができる。で、第一章の3ページだけ英文を読んで、訳文と照らし合わせた。すると、明らかな誤訳が4箇所、不適切な訳語が8語もあるではないか。文法的な解釈の誤り、無知ないしパーカーに関する既刊書を読んでいないための勘違い、日本語の語彙力不足による訳語の選択ミス、などなど。
 
 許せない間違いを二つだけあげておこう。

Rebecca later said that Charlie would have dropped out of school except for her; indeed, when she graduated in 1935, Charlie dropped out, still a freshman.
(訳文)レベッカは後に、チャーリーは彼女以外の学校でのことは、全てドロップ・アウトしてしまったと語った。実際、彼女が1935年に卒業したときにチャーリーは退学したが、一年生のままだった。
 
 英文法を勉強しろよ! 仮定法過去完了ではないか。except for her = without her で、ここが仮定部。「もし自分がいなかったなら、チャーリーは退学していたでしょう」が正しい。drop out の訳語も「退学する」に統一しろよ!でないと、indeed(実際)の意味が生きないだろ。ちなみに、レベッカは、チャーリーのハイスクール時代の恋人で、最初の妻になった女性。チャーリー・パーカーは学校にレベッカがいるから、退学せずに通ってたわけ。といってもサボり魔で、成績も悪く、二度落第して、一年生を3年間やったのだ。

Bird wasn't doing anything, musically speaking, at that period.
(訳文)バードは何もできなかったし、当時は音楽で語れなかった。

 挿入句の musically speaking(音楽的に言えば)が分かっていないから、こんなバカな訳をするのだ! generally speaking(一般的に言えば)とか、strictly speaking(厳密に言えば)とかは、高校1年生だって知っている動名詞の熟語じゃないか。この訳者は、doing と speaking を並列だと思って、和訳している。語学力もないが、文章の理解力もひどいもんだ。「音楽的に言えば、バードはその当時、何も大したことをしていなかった」が正しい訳。実は、この部分は、ベーシストのジーン・ラミーの思い出話で、ライズナー著「チャーリー・パーカーの伝説」からの抜粋なのだ。そんなことは分かるのだから、この邦訳本も読んでみれば、自分の誤訳に気づくはず。怠慢というか、自分の語学力、理解力のなさを知らない馬鹿としか言いようがない。「チャーリー・パーカーの伝説」を訳した片岡義男も語学力があるとは言えないのだが、さすがにこんな低レベルの間違いはしない。「音楽的には、当時のバードは、注目に値することはまだなにもやっていなかった」とちゃんと訳している。

 一事が万事。こんな有様では、この本の中に誤訳が数百か所あるのではないかと思う。

 実は、この本、翻訳監修者(名前は伏せる)もいるのだが、この男、訳文をなんにもチェックしてないくせに、あとがきに偉そうなことを書いている。しかも、「力量不足による間違いもあるのではないかと思います。読者の方でお気づきの点があれば、ご教示をお願いする次第です」だって! ふざけんなと言いたい。訳者と監修者あてに、誤訳箇所を全部書いて、出版社へ送り付けてやろうかと思っている。


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