千秋小梅日記

コミティア参加サークル「千秋小梅うめしゃち支店」を運営する小津端うめからの連絡、雑感、感想などです。

マクロスFに関連して思ったことその2・ゲド戦記のことも含めて

2011年05月06日 00時52分52秒 | アニメ
 前回の内容で、「光の内容が大切なのではないか」と言ったことをもう少し話しておきたい。ちょっとお付き合いください。
 ジブリ作品について以下書きます。「アリエッティ」好きな人は飛ばしてください。
 さて、そういう話題になると思い出すのが映画「ゲド戦記」です。もう忘れてる人が多いでしょう。とにかく酷評だった。ネットの中では酷評を超えてまるで魔女狩りの民衆もかくやと思えるほどの大きな熱狂になってました。
 そんな映画を僕は生まれて始めて2回映画館に行って見ました。酷評するためでなく、面白かったから。お金を払った量によって発言権があるなら僕にはその資格があると思う(笑)。だから、話題にします。
 何がそんなに面白かったのかというと、作り手の熱い思いがむんむんと伝わってくるところです。父親を刺したいほどの訳の分からない衝動はどうしたらいいのか。それから逃げたい気持ちと、何とかそれを光の差す場所に引っ張り出すんだという気持ちのせめぎ合い。テーマを全うさせるためには国に帰って父親にその衝動を告白するところまでやるべきだったと思いますが、そこまでお子様に過酷な現実を見せられなかったんじゃないかな。
 テーマは、飾り気のないストーリー展開、とことんシンプルで見慣れた絵、削りまくった登場人物、これ、という特徴がはっきりとしないキャラクターによってさらにくっきりとされます。

 私見では、酷評の内容にはこれを反転していたものが多くありました。いわく、「ストーリーが単調」「世界が狭い」「絵が下手、変、古い」「人間関係が狭すぎ」「キャラが可愛くない」「キャラが怖い」等等。
 そこに「ジブリなのに」という枕詞が付くことも多かった。
 2回も見ると確かにそれは欠点だった(笑)。さすがにもう少し話にふくよかな面も欲しかったし、もう少し絵が上手ければと思う点も多々あった。
 
 それからしばらくして、「ポニョ」の製作風景を記録したTVの中で、宮崎駿が「ゲド」を見て言った言葉「気持ちで映画を作っちゃいけない」を聞いて、最初はよく意味が分かりませんでしたけど、時間が経つにつれて、「上手く言い表してるなぁ」と納得しました。
 丸谷才一氏が小説を批評する時に、「ストーリー、キャラクター、文体」に分けてする、と言っているんです。それを援用すれば、映画は「ストーリー、キャラクター、演出」で評価すればいいのかなと考えた時に納得しました。
 気持ちをストーリーに込めた、でもそれだけじゃ映画としての評価に値しない…と言ったのだと納得したのです。うん。そういう目で見ると「ゲド」は駄目駄目だな(笑)。
 しかしね、他が駄目駄目な分、ストーリーが光ったわけです。そりゃハヤオさんなら全て出来るでしょうが、自分の才能がどんなものだか未だ分からない新米監督は一点集中でやって、そこだけ強烈な光を放つように創ってもいいんじゃないかなぁとも思ったのでした。

 それを思ったのは「アリエッティ」を見たとき。正直に言って、熱が伝わってこなかった。個人的には、上記の3つがどれも無難な創りだったのがそういう感想を抱いた原因だった。焦点が合わないのだ。どれも「これでなくては!私はこれでいくんだ!」という熱を感じなかった。全てが淡い光で照らされているようだった。
 「ゲド」でぼろぼろだった演出はよくなっていた。けれどその演出はジブリの枠をきちんと辿って不快さは排除され、見た人が「あぁジブリだね安心だ」と思えるような配慮がされてんじゃないかと思うくらいだった。僕がそういう感想を持ったのは明らかに「ゲド」の時の「ジブリのくせに」が頭にあった。そう、外見はジブリらしい、実にジブリらしい作品だった。勿論、そこから「千と千尋」の豚や「ハウル」の敵の泥兵士や「ポニョ」の奇怪な両親のような影の要素は上手に除外されている。
 そして「アリエッティ」は吃驚するくらい好意的な批評をされ、無事公開を終えた。その過程において、僕はひねくれた答えを得ました。「つまり、皆がジブリに一番望むのは、自然保護とか心理世界とか戦争と平和とかというストーリーじゃなくて、実は「ジブリらしいトトロのような」演出なんだ」とね。
 
 でもねぇ、世間の評価はそうであっても、僕はやっぱり影がなくってのっぺりした光より、影があるからぎらっと輝くお話がいいよ。
 
 光の内容について書く前に、光の内容を入れる枠の話になってしまった。でも、この2つを混合して話をすると、まとまらなくなるので、まずこちらから。それに、大体光の内容に腹を立てる人は、それ自体をなじるんじゃなくて、枠のことをなじるもの。だって、枠の方がまだ言葉にしやすいからね。
 次回、続き。「ゲド」の酷評には「父親を刺す訳が分からない」とかあった話から影を見ることについて。