鈴木慶一と言うアーティストがいます。私が良く話題にするムーンライダーズというバンドのボーカルです。
最初に知ったのは…大体私の情報源は漫画です。ムーンライダーズも漫画で、ララで描かれていたわかつきめぐみさん「SoWhat?」「グレイテストな私たち」の1/4スペースとか、巻末のイラストから知りました。
その頃、わかつきめぐみさんの漫画を熟読していて、その漫画の味わいの素はどうもこのような音楽にあるようだ、と思い出して、気にし出したのが1995年頃。
丁度その頃、ちょっと昔の音源をCDで廉価販売する「Q盤」という企画を複数のレコード会社が共同してやっていて、そこにムーンライダーズのアルバムが入ってました。
初めて聞いたのが「Don't trust over 30」というアルバム。その中の「9月の海はクラゲの海」の乾いたポップさも、「だるい人」「マニアの受難」の真剣にやる冗談も、「ボクハナク」「A Frozen Girl,A Boy In Love」の抒情性も、「なんだ?この、ユーウツは!!」の鬱屈も、どれも心に響いて…魅せられていったのです。
それ以降ずっと聴き続けて、20年間聞いてきました。
リアルタイムで初めて発売された「ムーンライダーズの夜」、仙台で見た「ダイア・モロンズ・トリビューン」の時のライブ、「Tokyo7」の元気さに圧倒された2009年、そして突然の活動休止の2011年、ドラムのかしぶち哲郎の他界にショックを受けた2013年…と思い出は尽きません。
「ダイア・モロンズ・トリビューン」ライブの時はキーボードの岡田徹さんが病欠。2011年は震災があったり(その頃秋田に住んでたのです。秋田は被害は少なかったけど、気分は晴れませんでした)、子供が生まれたり、引っ越しが決まったりでとても見に行くどころではありませんでした。2013年年末も、気付いたらコンサートが決まっていて、またもや引っ越しと重なって…と、ライブには縁がありませんでした。
ところがそんな中、バイオリンの武川雅寛さんが大動脈解離という大病を患ったというニュースを聞きます。嬉しいことに九死に一生を得られましたが、その時、次のライダーズのライブは何があっても行こう、と心に決めました。
そんな中、鈴木慶一さんの45周年のコンサートの話を聞きました。もう万難を排して12月20日に挑んだのです。その時点では武川さんが参加されるか不明でしたが、きっと大丈夫と祈っておりました。
鈴木慶一さん、と言う人はムーンライダーズの他にも様々な音楽を創ってこられた方です。日本ロック黎明期のバンド「はちみつぱい」、YMOの高橋幸宏とのユニット「ザ・ビートニクス」、ゲーム音楽「MOTHER」、他アイドルへの提供曲等々。コンサートがどのような形でやられるのか楽しみやら不安やら抱きつつ行きました。
最初は現在進行形のバンド「controversial spark」から。私はこれをまだ聞いたことがなかったのだけど、もう、かっこよかった。岩崎なおみさん、konoreさんの刺激的な声と、矢部浩志さんの疾走感と重層感を併せ持ったようなドラムに頭がどっかに飛ばされるような気分にさせられます。そしてそれに負けない堂々とした慶一さんの演奏ぶりがカッコ良かったです。背筋がピンとして、黒で固めた格好がとてもよく似合っておりました。
続いて最新ソロ作「records and memories」から。このアルバムが素っ頓狂な肌触りの聴けば聴くほど味が出るするめのようなアルバムですが、「愛される事減ってきたんじゃない?ない」と「無垢と莫漣、チンケとお洒落」をやってくれたのが嬉しかったです。とは言えまだ演奏に固さを感じて、もっとほぐれた演奏を聴けたら嬉しいなとも思いました。
その曲をやるときは、バックコーラスが何人か入るのですが、澤部渡さんかな?もう嬉しくてたまらないといった顔でされていました。きっと憧れの人と共演しているからだろうなぁ、と思って、そんな姿に自分を投影していました。
また、上野洋子さんも参加されていました。小さくて、白い服を着られて、アコーディオンを持って。昔ザバダックをよく聴いていた身としてはその声を生で聴けたことが感無量でした。深く響く声で、それを聴いたら一瞬高校の頃に戻っていきました。
続いてビートニクス。幸宏さんとの仲の良さをMCで垣間見ました。1曲目でやった「No Way Out」。もともとはテクノ=ニューウェーブの曲で、冷たさと硬さを持った打ち込み主体の曲ですが、今回はそれを生でやっていました。それが更に硬質で、なのに熱い演奏になっておりものすごくかっこよかったです。あとはポップでフォーキーなセカンドアルバムから2曲ほどやっていました。個人的には「common man」という曲を聴きたかったですが、そればっかりはないものねだりだなぁと思って我慢我慢。
ここでいったん休憩が10分入って(その休憩中controversial sparkのミニアルバム買って)、斉藤哲夫さんとやりつつムーンライダーズへ。
最初は武川さんがいなくて心配していましたが、途中から武川さんが参加して「スカーレットの誓い」と「BEATITUDE」聴けました。
14年ぶりに聞いた生ムーンライダーズは、何とも言えない不思議な音やグルーヴを出すバンドで、今回もやっぱり謎のバンドでした。いつまでもそうなのかも知れません…。今回はベースの博文さんが歌う場面が少なかったので、次があるならまた見に来たいと思いました。
武川さんはまだまだ声を出すのは辛そうでしたが、バイオリンとトランペットは十分できる様子で、ロックバンドにバイオリンがいるという不思議な体験を十分に味わうことが出来て良かったです。
最後ははちみつぱい。登場してくる方々がどの人も一癖あるような雰囲気で、45年の重みをずしりと感じました。演奏はサイケデリックで、トリップしそうな音の洪水でした。圧倒されましたー。最後の曲に自作の曲でなくギターの渡辺勝さんの曲「ぼくの幸せ」を選ぶ辺りが自己陶酔にならない慶一さんらしいというかなんというか…演奏中、渡辺さんが歌っているのを見る慶一さんの幸せそうな顔が、今回のコンサートで一番イイ顔だったかなぁという気がします。
アンコールはゲーム「MOTHER」のエイトメロディーズを参加者みんなで合唱。客席もみんなでハミング。
最後は武川さんと二人で「scum party」(「when this grateful war is ended」の後半部分)をして、武川さんと握手。無事でいてくれてありがとうという客の想いが慶一さんの姿に凝集されていたようでした。
行く前から、「今回の行動は自分にとってとても大きな意味を持つかもしれない」と思っていたイベントでした。そして参加して今、自分の中でとても大事な出来事になっています。生き続けることって悪くない。ああいう風になりたい。
そんなコンサートでした。