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長期滞米研究者ネットワーク

管理人たちの日記

ファカルティ募集

2008年07月07日 | ばみら日記
クイーンズランド大学のファカルティ募集です。詳細はこちらをご覧ください。

ここのデパートメントのボスはわたしのオーストラリア紀行の中でもちょっとでてきた(そしてこれからたっぷりでてくる予定の)ピータークープマンで、性決定因子Sryを発見した人です。

クイーンズランド大学はゴールドコーストに近く、温暖な気候とのびやかな風景、町の中心を流れる川を行き交うバス代わりの船、などなど、暮らすにはよいところです。なによりも日本と時差がないというのがすばらしい。分子生物科学研究所はキャンパスの中心にあり、最新のビルの中で多くの研究部門が協力し合って研究活動を進めています。



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新年を迎える話

2008年01月22日 | ばみら日記
今さらながらに謹賀新年である。関東では7日まで、関西では15日までが松の内である。ようするに、新年を迎えてからその日までの間に初めてあった人には「あけましておめでとう」と挨拶すべき日取りということである。その範囲であれば、年賀状用の葉書で返礼をしてもおかしくないという日取りでもある。2008年、民営化最初の新年を迎えた郵便局は年賀状用葉書の発売終了を1月18日としたので、その日まではあけましておめでとうと言ってかまわないという政府の御墨付きが得られたわけである、っと、もう政府ではないか。さらにそこから数日遅れての謹賀新年であるが、日米の時差とSEタイムの時差を合わせて誤差範囲ということでご了承願いたい。

さて、年末に2008年度の米国連邦政府予算案の情報が回ってきた。アメリカの財政年度は10月始まりなのであるが、予算案の決定承認が数カ月ずれ込むというのがここ数年のパターンとなっている。あまりにもずれ込みすぎると、政府関連機関は「予算がない」=「職員の給料が払えない」という日本では考えられない状況になって、=「開店休業ではなく、閉店」という状態になる。実際、1995年には全米の政府関連機関と世界中の大使館、領事館が閉店してしまい莫大数の在米外国人のビザの発給が一時的に不可能になったこともある。

で、その予算案であるが、当然気になるところは研究費予算の動向である。関連しそうなところを眺めて行くと、「NIHグラントは600本削減する」と書いてある。ここ数年厳しくなったグラントがさらに厳しくなるということである。そして数週間後に大統領府によって承認された最終予算案の情報が開示される。そこには、NIHグラントは800本削減するとあった。さらには、小中学校の教育予算など研究教育に関する削減事項が事細かにずらずらと並んでいる。その中に一項目だけ、減らす事は許されない、と記された項目があった。それは「イラクで使う戦費」。というわけで、在米の研究者はその国籍、人種、性別、信条、宗教、性的趣向を問わず、より厳しい新年を迎えたのであった。住みにくくなったのは日本だけではないというわけである。



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オーストラリアへ行く話しその24 えむあいえすとは

2006年04月08日 | ばみら日記
さて、今回こそ、性分化のミニレビューにけりをつけて、ワラビー牧場へ戻っていきたい。分量的には某日本語雑誌のミニレビュー以上のものを書いている気もしないでもない。ミニレビューと言うよりは業界裏話に終始しているという気も本気でしないでもない。で、そのえむあいえすである。ひとくちで言えば、変身増殖因子(TGF)ベータの仲間である。これが精巣のセルトリ細胞から分泌され、そばにあるミュラー管を消していくのである。消える仕組みは生物種によってすこし違うようであり、ワニなどではアポトーシスの誘導、ほ乳類では、管の上皮細胞の間充織への再分化の促進などといわれている。でも、なんでワニなんかを調べる気になったのだろうか。ミュラー管もウォルフ管も上皮が輪になっているから?

えむあいえすの遺伝子はボストンのベンチャーがクローニングし、その受容体は同じグループとオランダのグループがデッドヒートを展開し、同じ年に発表をしている。この競争ゆえ、候補のクローンは暗号名で呼ばれていた。当時の関係者のあいだでは、今でもデージーといえば、えむあいえす受容体遺伝子の事をさす。えむあいえすのトランスジェニックマウスは90年代初頭に作られ、予想通り、子宮のないメスが生まれてきた。ノックアウトマウスも作られ、今度は子宮を持ったオスが生まれてきた。この論文をアーノルドジョストへ捧げる、とくだんの論文のアクノレッジには書いてある。受容体のノックアウトマウスも作られ、えむあいえすのノックアウトと全く同じ表現になり、変身増殖因子ベータの仲間としては非常に珍しく、リガンドと受容体の特異性が非常に高いことが示された。これらのノックアウトマウスは精巣は正常なので、ホルモン的にもオスであるが、アンドロジェン経路を遮断してやると精巣の発生が押さえられるので、精巣を持たず、子宮を持ったXY個体が誕生する。こうして作ったマウスに女性ホルモンを投与し、子宮に受精卵を移植してやれば、妊娠オスマウスができるはずであるが、未だにそういうマウスができたという話しは聞かない。かわりにそういう映画がずいぶんまえに公開された。妊娠した主演男優はあーのるどのしゅわちゃんであった。

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オーストラリアへ行く話しその23 めすのおとしご 

2006年04月04日 | ばみら日記
たつのおとしごはメスがオスに卵を産みつけ、卵が孵化するまでオスが面倒をみる。しかるに、たつのおとしごの場合はオスが「出産」するシーンを見る事になる。たつのおとしごならぬ、めすのおとしごである。オスが子宮のような器官をもっているためである。ほ乳動物では、単孔類には子宮はないが(だから卵を生むのであるが)、有袋類と真獣類はXX個体すなわちメスに子宮がある(とわざわざもったいぶっていうほどのことでもない)。オスらしさを代表する器官といえば、金色の卵、略して精巣だが、メスを代表する器官となると、対応する卵巣よりも子宮がなぜか挙げられる。経験的にも遺伝子発現パターンとしても、精巣はオスにとって第二の脳と言われているようだが、そうなると子宮はメスにとって第二の脳ということになるだろうか。まあ、あまりこういうことを言うとしかるべき筋から反発が来るんだろうな。

さてその大変象徴的な子宮であるが、これは前にのべた通りミュラー管から発生してくる。そして、オスにもミュラー管そのものは胎児期に存在するのである。ではなぜオスはたつのおとしごのように子宮を持って生まれてくることがないのであろうか。その謎に挑んだのが20世紀初頭の発生生殖学者あーのるどしゅわるつ、、じゃなくてあるふれっどじょすとであった。彼はオスとメスの胎児から精巣や卵巣を除去したり、交換移植をしたりして、XY個体でも精巣を除くと子宮が発生してくること、精巣を移植されたXX個体は(卵巣があってもなくても)子宮がなくなってしまうことを見つけ、これは精巣が子宮を消してしまうホルモンを出すためと考えた。ウーマンリブ華やかりし時代であれば袋だたきにされそうな学説であった。

この「ホルモン」は抗ミュラー管ホルモン(AMH)、あるいはミュラー管阻害因子(MIS)と名付けられている。ヨーロッパ、オセアニアではAMHと呼ぶグループがほとんどであるが、ばみらは個人的な理由も含めてMISとよぶことにしている。ばみらの書いた論文では「MISまたはAMH」と順番にこだわることにしている。えむあいえすと読むのが正しいが、みすと読む人が東北地方に少なくとも一人いる事を確認している。それではこのえむあいえすの正体とは?なかなかワラビー牧場に戻れない。

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オーストラリアへ行く話しその22 とんでとんでとんでまがってまがってまがってまがる

2006年03月04日 | ばみら日記
と、いきなりまどかひろしばりのタイトルである。壊れたレコードのような、と黒柳徹子が評したデビュー曲が大ヒットし、2曲目のいとしのキャリアガールが泣かず飛ばずで消えてしまった70年代後半の一発屋の一人である。性分化の話しに入る前に、SEさんからSryの機能について茶々が、いや質問が入ったので、横道のまた横道にそれることにする。SryはY染色体にその個体をオスへ性決定する力があるということで、染色体の転位などをフルに利用したフォワードジェネティクスから見つかった遺伝子であり、Sryトランスジェニックメスマウスがオスとして発生してくることから、性決定遺伝子としての機能が確認された遺伝子である。その19でも書いたように、このあたりはブリスベンにいるくーぷすがロンドンのロビンロベルバッジのところでやった仕事であり、どうだ、オスになったぞ、という写真がねーちゃの表紙を飾ったほどにいわゆるひとつのブレイクスルーであった。もちろん、マウスの写真である。ヒトではいかに科学商業誌と言えども表紙にははばかられるアングルである。(もっとも、ヒトのトランスジェネシス自体が大いにはばかられることであろうけどね。特にとなりの半島であんな騒ぎがあった昨今では。)ちなみにオスとして「発生してくる」のであって、オスとして「生涯を終える」わけではない。この違いがたっぷり味わえるようになれば、あなたはすでに発生科学者として熟達者である。

さて、肝心のSryの機能である。生化学的な言い方をすれば、HMGボックスを持つDNA結合タンパク質である。ある特定のDNA配列に結合し、そこを中心にしてDNAダブルヘリックスをぐぐっと曲げる。これにより、Sry結合部異の前後に離れて結合していた蛋白群が空間的に近付き、転写開始複合体を作ることができるとまことしやかに言われている。お見合いのコーディネーターみたいなものである。というわけで、Sryによってお見合いする蛋白群はいったい誰なのか、そしてお見合いによって転写が活性化される(あるいは抑制される)遺伝子は何なのか、ということが、Sry発見後の業界の興味の中心の一つになったのであった。少なくともSox9はSryによって転写が活性化される遺伝子の一つと考えて間違いなさそうである。Sox9の発現がうまくいかないと、性決定/性分化に異常が起きる遺伝病も知られている。Sryが直接Sox9の発現を調節しているのかもしれないし、間にSox3が入って、SryはSox3を抑制し、Sox3はSox9を抑制するのだと主張するグループもいる。Sox9は、茶々が、あ、いや質問がなければ、次回の話題にと考えているミュラー管阻害因子の発現を活性化し、オスとしての性分化をうながす。

ついでながら、HMGはハイモビリティグループのことで、SDS-PAGEで実際の分子量から予測されるよりもより速く移動する蛋白群に対してつけられた名前である。最初に見つかったものはHMG1と名付けられたが、大抵の場合はみかけの分子量をくっつけてHMG14とかHMG17といわれている(が、この2つ以外に分子量で名付けられたHMGはあるのだろうか)。Soxはいまでは20を超えるメンバーが見つかっているが、こちらはSryボックスの略で、SryのHMGボックスと良く似たDNA結合ドメインを持つ。ともかく、最近の遺伝子の名前はなんちゃらおっくすというのがけっこうある。ひとつにはドメイン構造をなんちゃらボックスとよぶことが多いからであろう。元祖はゲーリングおじさんの発見したホメオボックス遺伝子、略してホックス遺伝子になるのだろう。




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皮を数える話し

2006年02月16日 | ばみら日記
2006年の年明けと同時にたくさんの論文原稿が押し寄せている。これは2005年の暮れに二つがアクセプトされている状態での2006年2月のある日の状況である。

月曜日にGに投稿したリバイス論文のアクセプトのメールが届く。2006年のアクセプト第一号である。

暮れにインプレスになっていたGの論文の別刷り請求が来る。G誌のサイトではまだ閲覧できないのにNCBIからは閲覧もダウンロードもできる。著者が知らないうちに世の中に出ている恐い時代になったものである。

ポスドク1がGへのリバトルレターとDへの論文本体をメールしてくる。どちらも半年かけての追加実験をしている。Gはメジャーリバイスだが、リバトルレター上に展開されたレビューアーのコメントを見返してみるとマイナーリビジョンのようにも読める。その道のエキスパート3名からのコメントを待って、リビジョンサブミットの予定。Dの方へ送る論文はあともう一つ図のパネルが必要だが、2週間くらいの内には完成できそうである。

日本のコラボレーターから、Nへ投稿終了と最終版が送られてくる。昨年、別のNへ投稿し、レビューアーと大バトルを展開した論文である。そのときのものに比べてデータも追加したし、本文も格段に読みやすくなっている。あ、タイプミス発見。

となりのラボのPIが著作権の用紙にサインを求めてくる。あ、じゃああれはCに通ったの?と聞いたらそうではなく、Gへ投稿するとのこと。p値に誤植があって、そのために有為差がないと誤判断されたとのこと。ほんまかいな。まー、それだけじゃないってことは分かっているのだが。

オーストラリアのコラボレーターからあともうちょっとで論文が完成すると連絡が入る。こちらの論文とJへコサブミットしましょうという話しになっている。同じマウスを使って異なる臓器の表現型を見ている。まあ、同じ雑誌でなくてもよいのではあるが、こちらの方は、作りました、こんなんでした、というストーリーなので、一緒のほうがあちらにとっては都合がよい。サンプルはぜんぶばみら自らが調整し、莫大量のドライアイスとともにG5の空き箱に積めて送ったという、あれである。あちらのほうは表現型がはっきりしているのであるが、こちらのほうは、作りました、(解析は)困難でした、なので、Jをクリアできるかどうか、それはこれから1週間のポスドク2のデータにかかっている。

そうこうするうちに北欧のコラボレーターから、Nに投稿した論文はメジャーリバイスになったとメールが入る。たしかにデータは少なめだったからしょうがないかな。中西部のコラボレーターと先月同じNに投稿した論文はレビューにまわったようである。

前後して、日本の別のコラボレーターからNへ投稿するという速報形式の原稿が届く。2年ほどやりとりしているプロジェクトで当初の予想をはるかに超えて興味深い結果が出ている。サプルの図の扱いに意義ありとメール。こちらも2週間程度で英語の校正も含めて完成稿ができるだろう。

中北部のコラボレーターからはDへ間もなく投稿するという原稿が届く。オーサーになるかどうか知らせてほしいという。メジャーな結論への寄与は多くはないので、謝辞でかまわないと返信。このあたりのさじかげんもそれぞれだろう。

かと思っていたら前のボスから、Dへ投稿した、というPDFが。しっかりコーオーサーになっている。ありがたやありがたや。でも、投稿する前にオーサーになるかどうか一人一人確認するのが研究者の倫理だと教えてくれたのはボス本人なのであるのだが。

あちこちからメールが殺到する中、ばみらはラボを離れたポスドク3のデータの発掘作業に追われていた。生理学的にけっこう面白いデータなので、これもなんとかまとめてDあたりに押し込みたいものである。東部のコラボレーターとの密接な共同作業である。神の手を持つ人間とは仲良くなっておくものである。

ラボの方では、ポスドク2とポスドク4がそれぞれの最初のファーストオーサーの論文を書いている、はずである。少なくともマテリアルメソッドは書いていることは確認してある。ポスドク5には今年中に論文4個分のネタをつくらせようと鞭を入れている。あめも与えている。この前はバッファローのステーキを食わせたし、そのまえは日本のビールをたっぷり飲ませている。タンドリーチキンも七面鳥も食わせた。ポスドク6は、え、なに、就職が決まったので、あと2週間で出ていく?しょうがない、めでたい話しということにしておこう。ポスドク7は、あれ、おーい、どこにいるんだ??

というわけで、どとうの一日が終わって、日本語メールをあけると、SEさんからのメールが。

「オーストラリアの原稿のつづきまだですか?」

戦士に休息はない。

(最後のパラグラフはフィクションである。)



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オーストラリアへ行く話その21 Y染色体の存在意義

2006年02月13日 | ばみら日記
今回こそは性分化の話にきりをつけてワラビー牧場へ話しを戻したいのであるが、書いているうちにまた話しが拡散しそうな気配が濃厚である。農耕民族の核酸を継承した性(さが)であろうか。と、まずはことえりの誤変換を利用しただじゃれなどでバイト数をかせぐ。定義めいたことを言えば、ほ乳類の場合で言えば、ある個体が受精時にY染色体を受け取ること、さらにいえばSry遺伝子を受け取ることが性の決定である。運命付けと同じような意味である。もっとも受精を持って個体の誕生とするわけであるから、上記の文章は厳密に書けば、未受精卵がY染色体を持った精子と受精したときに、そこから発生する個体はオスとして発生する事が運命付けられる、これを性の決定という、ということになる。ひるがえって、性の分化とは、運命付けられた個体がオスならオスとして発生、成長していくことをさす。いわゆる性ホルモンもこの段階で重要な役割を果たしている。まあそういうわけなので、オリンピックなどでやられているセックスチェックというのは、Y染色体の有無を調べているのであって、ホルモンの量を見ているわけではない(と思う、たぶんそうだと思う、ちがってたらごめんね)。SryをPCRジェノタイプするためのプライマーの配列は4年くらい前の研究留学ネットバイオテックフォーラムに誰かがポストしていたような気がする。それを見るのが面倒な方はコメントをつけていただければここに書いてもよい(別にもったいぶるようなものではないのだが)。

さて、雌雄を分ける器官といえば生殖器官であるのだが、これはさらに生殖腺と日本語で何と言うのかは知らないが、英語でいうところのリブロダクティブトラクトとに大別される(英語じゃなくてカタカナじゃないかというつっこみは却下する)。生殖腺はメスでは卵巣、オスでは精巣になるが、発生上は全く同じ組織に由来する。マウスの場合は胎生11日目まではXX個体でもXY個体でも生殖腺は見分けがつかない。これが、Sry遺伝子が発現する11.5日になると、XY個体の生殖腺にはひだひだが表れるようになり、翌日にははっきりXX個体の生殖腺、すなわち卵巣と区別ができるようになる。性分化の第一歩である。そうなると生殖腺から分泌される性ホルモンやその他の因子が雌雄で異なるようになり、その違いがリプロダクティブトラクトの発生の違いに結びつく。生殖腺の場合には、両方向の発生能を持った未分化な組織がSryのあるなしによってどちらに分化するかをきめるのであるが、トラクトの場合には、最初からオス用、メス用2種類の組織が用意されており、生殖腺の選んだ分化の方向により、どちらかが発生を続け、他方が消えていくのである。オス用の組織はウォルフ管、メス用の組織はミュラー管とよばれてる。というわけで、これを読んでいるあなたがXX個体であるのならば、子宮、輸卵管、あっぱーばじゃいな(ちょっと日本語で書くには抵抗が。。)がミュラー管の末裔として、XY個体であるのならば、副睾丸、輸精管、精嚢がウォルフ管の末裔として、あなたの体内にあることになる。うーむ、あともう一回くらいはかかりそうである。



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オーストラリアへ行く話その20 XとYの関係

2006年02月04日 | ばみら日記
なぜかオーストラリアくんだりまできて、性決定と性分化の講議を始めてしまったばみらである。連載20話目に到達してまだまだ終わる気配のない南半球への旅である。さて、生物を大きく二つのグループに分けなさいと問われたら、はたしてあなたはどのように分けるだろう。もちろん正解は一つではない。動物と植物、原核と真核、いろいろな分け方が可能である。また、様々な生物をオスとメスとに縦割りに分けることも可能であろう。そのくらい、雌雄性、有性というのは普遍的な性質の一つである。のにもかかわらず、雌雄が決まるしくみ、「性決定」は生物種によって様々であるところがなんとも面白い。ショウジョウバエやマウスはオスへテロ型で、Y染色体を持つ個体がオスとなり、カイコガやニワトリはメスへテロ型でW染色体を持つ個体がメスになる、という記述は高校の生物の教科書にも見られる。ついでに言っておくと、バッタなどはY染色体が存在せず、X染色体が1本しかない個体がオスになる。同様にミノガ(ってどんな蛾だ?)にはW染色体が存在せず、Z染色体が1本しかない個体がメスになる。これだけ見ても、雌雄の決定の様式にはいろいろあって、生物を選択した受験生を悩ますことになる。昨今のゆとりの教育の影響で、このあたりの記述が高校の教科書にまだあるのかどうかは知る由もないが、一昔以上も前の教科書にはばみらの書いた、そして当時の文部省によって大幅に縮小修正された記述が載っていたものである。それを読んだ高校生諸君が性決定の様式の複雑さに翻弄されるのではなく興味を持ってくれたとしたら、そして今頃どこかで関連テーマに手を染めているのだとしたら、それは望外の幸せというやつであろう。

さて、有袋類も含めたほ乳類の場合はオスへテロ型であり、Y染色体を持つ個体がオスになるように運命付けられている。これは御存知Y染色体上にある遺伝子Sryのためである。Sryを発見したのはイギリスはロンドンのロビンロベルバッジであり、Sry遺伝子さえあればX染色体を2本持つ個体、すなわちメスとして発生するはずの個体がオスとしての形質を持つようになることを示したのが当時ロビンロベルバッジのラボにいたピータークープマンであった。彼はその後オーストラリアはブリスベンに戻り、Sry関連遺伝子の研究を続けている。オーストラリア風にラストネームを短縮してくーぷすと呼ばれている。余談ながら、同じくロンドンにいる後脳の分節構造の研究で知られるデービッドウィルキンソンもオーストラリア出身で、こちらはうぃるこうと呼ばれている。名前ついでに、ロビンというのは女性のファーストネームであることが多いのだが、ロベルバッジはいかにもイギリスの貴公子といった雰囲気の男性である。レインボー戦隊ロビンも男の子であった。日本で言えば「ひろみ」や「じゅん」に相当するのであろうか。ごうひろみは男の子、いわさきひろみは女の子、宇宙っ子ジュンは男の子、黛じゅんは女の子というわけである。後者はもはや知るものも少ないだろう。ところで、ショウジョウバエもXY染色体を持つオスへテロ型で、みかけはほ乳類と同じなのであるが、性決定の分子機構は全くちがっており、こちらは常染色体とX染色体の比率で性分化の運命が決まる。X染色体が2本あっても(Y染色体がなくても)、常染色体上のある遺伝子の量を増やしてやればオスになってしまうのである。こちらの分野では日系のミッチークロダの活躍が際立っている。最近(ずいぶん前か)ハーバードへ移ったようである。なかなか話しが進まない。性決定と性分化はどう違うのか。次号を待て。



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オーストラリアへ行く話その19 ワラビーをめぐる蘊蓄

2006年01月18日 | ばみら日記
さて、トラクターはカンガエリアを抜け、ワラビーエリアへと入っていく (写真 )。本日はアカデミー氏とそのグループのメンバーが施した手術の経過のチェックである。ワラビーもカンガルー同様に袋(パウチ)がある。パウチの中には冬から夏にかけて子供(ヤング)が一匹入っている。袋があるから有袋類なのであるが、袋のない有袋類もいる。オポッサムなどがそうである。モノデルフィスとかダイデルフィスと呼ばれている有袋類である。袋もないのに有袋類とはこれいかに、四角いのに丸ビルというがごとし、というわけである。ところで丸ビルはまだ存在するのであろうか。東京駅の近くである。大名古屋ビルヂングも健在なのであろうか。さて、このさいなので、分類学をちょっとおさらいしておくと、ほ乳類、正確にはほ乳動物綱は脊椎動物門のなかでも次世代に対してほ乳行為を行うということを一つの大きな特徴としてまとめられたグループであるが、それがさらに細かく3つのグループに分けられる。カモノハシを代表とする(というか他になにかいるのか良く分からない)単孔類(モノトリーム)、カンガルーをはじめとする実はけっこういろいろな種類がいる有袋類(マスーピオ)と、我々人間を含むそれ以外のほ乳類である。この、「それ以外のほ乳類」をなんというか知っている人は以外に少ない。ひどいケースだと、ほ乳類は単孔類、有袋類、ほ乳類からなる、なんて自己撞着を起こして平気な人もいたりする。正解は真獣類(ユーサリアン)である。あまりなじみのない言葉ではある。ATOKにもことえりにも登録されていない単語である。実は10年程前に総説を書くまでは、ばみらも知らない方の一人であったということは隠しておこう。

袋がなくても有袋類というくらいであるから、有袋類と真獣類の本質的な違いは別のところにある。それは胎盤の構造違いと、着床時、出産時の発生段階の違いによるのである。真獣類は胎児でいる期間が結構長いのであるが、別の言い方をすると、受精からちょっと経つとすぐ着床し、かなり成熟した状態まで発生が進んでから出生するのに対し、有袋類はだいぶ発生が進んでから着床し、かなり未熟な段階で出生してくるのである。胎盤にくっついているのがどうにもいかにもおまけという感じなのである。カンガルーやワラビーの場合、マウスでいえば20日の妊娠期間のうちの14日目くらいの感じのときに生まれてきてしまう。その状態でえっちらおっちら袋の中まで登ってくるのだからたいしたものである。その分、前肢は後肢に比べて異常なくらいに発達している。ともかく、未熟な段階で生まれてくるので何がうれしいかと言うと、性分化が全て出生後に起きるのである。これは実験上、多大なメリットになる、というわけで、アカデミー氏のグループは出生直後のワラビーを使って性分化の機構を調べているのであった。性なんて受精の瞬間に決まるのにと思ったあなた、次号を待て。



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オーストラリアへ行く話その18 カンガ得る人

2006年01月12日 | ばみら日記
ワラビー研究農場の一角には、おなじ有袋類ということでカンガルーも10頭ほど飼育されている(写真1) 。まずはトラクターでカンガルーエリアに踏み込む。先週サンプリングをしたとのことで、カンガルー達はかなり警戒していたようで、近付くとどんどんジャンプして逃げていく(写真2) 。確かに逃げ足は速いやつらである。動物のお医者さんではカンガルーはガルーと呼ばれていたが、オーストラリアではカンガと呼ばれているようである。土地が変われば略しかたも変わる。関東ではマック、関西ではマクド、関東では出る単、関西ではシケ単というが如としである。ちなみにばみらは実戦水準表の愛用者であり、出る単も豆単も使った事はない。単語だけ暗記しても本当の語彙力には結びつかないのである、受験生諸君。ついでにいうと、ヘリコプターは日本ではヘリだが、海外ではコプターといわれていると中学の頃に得英語の先生から聞いた事がある。が、いまだかつてそう表現するネイティブにお目にかかった事がない。チョッパーというのはよく聞くが。




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