冷艶素香

現ES21がいろんな人達から愛されていたり、割れ顎の堅物侍を巡って、藤と金の人外魔境神未満ズが火花を散らしたりしてます。

『April shower (前編)─真“春”の“日”の夢─』の語釈

2007年05月10日 | もう一つの大奥(瀬那総受/読切り)
湯文字…
腰から膝の少し上にかけてまでを覆う、女性の和服用下着。腰巻とも
言う(アケムラの紫苑御方の服装と名称が被るので、今回は“湯文字”
を採用)。
下着まで女物ってどうなんだろうと悩みつつも、さすがに水町に褌一
丁で雪の御庭を駆け回らせる勇気は有りませんでした。香夜さんにも
未だ、失う事の出来ないものが有ったという事ですか(苦笑)。それに
湯文字ならトランクスやそれ型の海パンに見えなくもないし(パンツとガ
ードルを一緒にしたようなものとよく聞きますが、タイトの巻きスカートっ
ぽい気も……)、下半身の冷え防止にもなりますから。でも水町、中が
ブラブラして邪魔か……ゲフ、ゲフン!(慌)


三月朔日、白襲…
表裏とも白地を用いる“襲の色目としての”白襲は、四月一日からの
衣替えに使われていた(今回は旧暦を使っておりますので、三月と
書きました)。それを進典侍は更に重ね着している訳です。


真綿…
綿花ではなく、生糸に加工出来ない品質不良の繭を引き伸ばして綿
状に仕上げたもの。柔らかさ、軽さ、暖かさを兼ね備え、主として防寒
用衣類に用いられる。


羅紗…
毛織物の一種で羊毛から織られている。江戸時代は鎖国貿易からの
輸入品が殆ど。


打裂羽織…
乗馬や旅行などの野外活動を目的として武士が着用する羽織。背筋
の縫い目の下半分は縫い合わせず、裂けたままにしておく。


本天…ビロード。


野装束…
江戸時代の武士の旅行時などの装い。野袴(絹や縞模様の織物か
ら作る、裾にビロードの広い縁を付けた袴。作中、素材が羅紗であっ
たり、縁を細くしたりしてあるのは、香夜さんの趣味です)と打裂羽
織を着用。


梨打子烏帽子…
紗、羅紗、綾織物などを揉んで、柔らかく作った烏帽子に薄く漆を塗
ったもの。鎌倉時代の辺りから武士たちが使うようになったものらしく、
正式には兜の下に着用するらしいが、陣中(陣屋)ではこの烏帽子
だけで済ませていたようである。江戸時代以降はどちらかというと儀
式用? 現代に於いては雅楽師さんなどが被っていらっしゃるそうで
す。


丁銀、豆板銀…
共に江戸時代の銀貨。丁銀は“大黒”、“常是”、“宝”の文字と、偽
造防止及び品質証明のために大黒像の印が捺されており、ナマコ
のような形をしている。豆板銀は丁銀の補助的役割を担っていた豆
粒型の銀。必要に応じて丁銀を切り刻んで使わねばならない“切銀”
(きりぎん)の不便を避けるために使われていた。


軟玉…
一般に宝石の“翡翠”として有名な硬玉(翡翠輝石/jadeite[ジェダイ
ト])と混同されがちだが、それよりは産出量が遥かに多く、価格も懐
に優しい玉(ぎょく)、即ちnephrite(ネフライト)の事。値段の割に大ぶ
りで良質のものも多い上、硬玉より細工に適している。


準貴石…
美しくはあるが、宝石よりは産出量が多かったりするなど、価値が多
少下がる装飾品材料の事。鉱物が殆どと思われる。


お透見屏風…
簾を中に張り詰めて、外の様子が透けて見えるようにした屏風。本来
は夏の納涼用だが、季節を問わず貴人の行事見物の際など、その姿
を覆い隠す目的で使われたりもした。


懐かしき…
①傍にいたい、ついていてあげたい。
②優しく、心惹かれる感じ。
③可愛い、愛おしい。
④思い出されて慕わしい。


和時計…錘を動力とする日本独自の時計。


手套…手袋。


黄貂…
貂はイタチ科テン属の哺乳類の総称。体長はどの種類も大体40㎝前後。
日本の本州北部に住む黄貂の冬毛は四肢の先端部分(黒色)を除いて
は黄色い。最高級は欧州やアジアの北部、また北海道に生息する黒貂
の毛皮、セーブル(sable)。でもキッドさんがそれ着てると、ただでさえ下
が豪華なんで、派手過ぎて何か興醒めだなぁと思い、黄色の方にしまし
た。銀座の女帝じゃないんですから……(西部の女帝説は否定しません
が/笑)。それに黄・白・紫にしておけば、春の三色菫(パンジー)にもな
りますし。


香炉峰~…
ご存知の方も多い筈、『枕草子』中のエピソードより(段忘れました)。唐
中期の詩人・白居易(白楽天)の七言律詩;
『香爐峰下新卜山居 草堂初成偶題東壁』
(香炉峰の下 新たに山居を卜し 草堂初めて成り 偶々東壁に題す)の
中の第四句;
「香爐峰雪撥簾看」(香炉峰の雪は簾を撥[かか]げて看[み]る)
に関して、平安中期の一条天皇の最初の中宮・藤原定子と、その女房で
あった清少納言の間で交わされた知的な遣り取り。進典侍は瀬那に『論
語』などの漢学(漢文学)の他、国学(国文学)も教えているという設定に
してあります。


黒別珍…
黒い綿ビロード。絹100%である本天(本ビロード、所謂“ビロード”)に対し、
綿糸との交ぜ織、または綿糸だけを用いてそれらしく織った織物を指す。


白鯨~…
モビィディック・アンカー(Moby-dick anchor/笑)。“Moby-Dick”(モビー
・ディック)はHerman Melvilleの、映画化もされた有名な小説『白鯨』に出
てくる鯨の名前なんだそうです。


貝紫…
アッキガイ(悪鬼貝)科の巻貝の、内臓の中にあるパープル腺という腺を
取り出し、磨り潰し、日光に晒して染料としたもの。日光に晒すと初めは
黄色、または白色だったものが、徐々に赤みを帯びた独特の紫色になっ
てゆく。1gの染料を得るためには2,000個以上の貝が必要とされ、古代ギ
リシャや古代ローマに於いては“帝王紫”と呼ばれて大変に珍重されてい
たが、乱獲により15世紀中頃には貝がほぼ絶滅。幻の染料となってしま
った。
日本でも弥生時代に僅かに使われていたらしいのですが(国内のどこか
の遺跡から出土品が見つかっているそうな)、それ以降の日本では植物
染料が一般的になっていった筈ですから、まあ今回も捏造という事で一つ
<(^^;
現代日本でもイボニシガイやレイシガイといった貝を使えば、紫の色は出
るようですが、赤みはあまり出ないみたいです(紫苑の方のお着物には
その方が良いと香夜さんは思っています。赤紫は赤御台系の色ですから)。
それに海洋生態系にも良くない影響を与えるでしょうしね(--;A
キッドさんは瀬那から許可を得て天領か、海が近くにある藩にでも人を遣
って、貝を採ってこさせたんじゃないでしょうか。まあ、あまり深くは突っ込
まないでやって下さい(苦笑)。


腰紐…
着物(女物)の丈を整える目的で腰に結ぶ紐。


天也~…
『荘子』養生篇のどこかにあった言葉(うろ覚え/オイ)。


綿帽子…
真綿で作られた被り物。現在でも白無垢の花嫁は角隠しを使うか、これ
を被る。もともとは男女兼用の防寒用具で、至ってシンプルなものだった。


君子は~…
『易経』(革卦)の“君子豹変、其文蔚也”(すみません、私これ訓読出来
ません……orz)。“君子というものは自分が間違っていたならば潔くその
事を認め、隠したりしようなどとはせず、さながら豹の毛皮が秋、冬毛へ
と一気に変わる鮮明さにも似て、誰の目にも明らかなように、その間違い
を堂々と直すものである”というのが元来の意味。しかし時の経過と共に、
“利害関係などによって、それまでの考え方や態度をガラリと一変させる”
という、非難の意味を含んだ言葉としても使われるようになってしまった。
同書の“小人革面”、また『論語』(衛霊公)の“過ちを改めざる、これを過
ちという”と、(子張)の“過ちを文(かざ)る”を知っていると尚Good。進典
侍と紫苑御方の知的水準は同じくらいなので(無器用さの事さえ無けれ
ば、武士の対応には武家出身者をという事で、瀬那の看護士は進典侍
が務めていてもおかしくなかったんです/苦笑)、作中に進典侍の“発言”
としては出てこなかったこれら三つの言葉も、紫苑の方の方ではしっかり
“感じ取って”います。
思想書(?)や古典というのは、時代や人によって解釈が異なりますし、
そもそも最初にその考え方や言葉を口にした人、或いは作者が、どのよ
うな意図を持っていたのかという事は、現在では確認の仕様が有りませ
ん。ですので当然の事ながら、香夜さんの説明をすべて本気に受け取っ
たりはなさらないで下さいね。それこそ必要と場合に応じて、都合良く解
釈している事が殆どですから゜・゜*・(゜O゜(☆○=(`◇´*)o)


黒鍬~…
黒鍬は江戸城内の雑役夫。御庭番はこのお話の中に於いては、時代劇
や歴史小説でよく知られている隠密ではなく、御庭の番人を兼ねた庭師、
植木屋さんのようなものとお考え下さい。大奥の雪合戦の後には彼らが
御広敷役人たちの指揮の下、本格的な除雪作業を行います。


柳色…水色。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« April shower (前編)─真“春... | トップ | April shower (後編)─夢に... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

もう一つの大奥(瀬那総受/読切り)」カテゴリの最新記事