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デジタルプリディストーションの予備実験(その2)

2013-06-30 20:39:51 | ソフトウェアラジオ
1つ前のエントリでご紹介したように、最初の実験は思ったよりうまく行ったというのが正直な実感で、特に3次、5次等のIMDが大きく下がったことから「これは行けそうだ」と思いました。そこで、他の機器でも試してみようと考えたわけです。

私の部屋にはANANの他にもう1つ、USRP1とヤエス FT-450のPA部を組み合わせたものがあります。
USRPシリーズはGNURadioプロジェクトから生まれたハードウェアで、アマチュア無線用というよりは汎用のプラットフォームで学術機関等でも多く使われているようです。中身は64MHz/12bitのADC2つと128MHz/14bitのDACが2つとFPGAによるDUC(Digital Up Converter)・DDC(Digital Down Converter)で構成されています。

一方FT-450は安価なIF DSPトランシーバでお馴染みですが、これのパワーアンプはANANと同様、三菱のFETを使っています。具体的にはRD06HHF1→RD16HHF1x2→RD100HHF1x2という構成です。USRP1の出力は約0dBm弱で、これをFT450のプリドライバに入力すると大体レベル的に合うようです。
ちなみにANANの場合はPA部にRD06のプリドライバの部分は無く、代わりにHermesのボード側にOPA2674によるアンプが入っています。

今回も実験は3.5MHzを中心に行いました。まず先のエントリと同じようにPAの特性を取ったものを下の図に示します。

AM-AM characteristics of the FT-450's PA @3.5MHz(Max Pout=100W)


AM-AM characteristics of the FT-450's PA @3.5MHz(Max Pout=100W)


これを元に2-tone信号にプリディストーションをかけてIMDを測定したのが次の図になります。前回と同じように30W出力(DPD無し、有り)、100W出力(DPD無し、有り)の順になります。前回と違って各トーンは700Hzと1900Hzと狭くなっていますが、特に意味はありません。他の幅でも調べましたが結果に大きな差は無かったです。

IMD @ 3.5MHz/30W pep without predistortion


IMD @ 3.5MHz/30W pep with predistortion


IMD @ 3.5MHz/100W pep without predistortion


IMD @ 3.5MHz/100W pep with predistortion


1つ前のエントリでの結果と比べると、ぱっと見て変化が少ないですよね。よく見ると、3次の歪はむしろ増えている部分があって、5次より上に関しては若干減っているが、いいところでも5~10dBというところ。
周波数を変えて試しましたが、傾向としては同じです。今回グラフはありませんが、出力が10Wくらいのところでは、3次歪も含めて良くなるポイントがあったくらいです。
また、USRPを使ったことで何か見落としていることがあるかも知れないと思い、Hermesの出力をFT-450のPAに入れて前回と同じプログラムでやったりもしましたが、その結果も変わらず。
また、前回もそうですが、2-toneのFFTのグラフはエキサイタ(HermesやUSRP1)をfull-duplexで動作させて表示したものですが、他の受信機でもモニターして大きな差が無いことは確認しています。

ドライバ、ファイナルに関してデバイスとしては同じものを使っているので、似たような結果が出るかと思ったのですが、予想は裏切られました。もう少し実験を行いながら原因についても調べてみたいと思っています。

実際にはANANが来たのは最近で、準備はUSRP1+FT-450でやっていたわけで、こっちの結果だけ見てたらエントリも書かなかったかも知れません。
他のPAも試してみたいところですが、手元には他に無いのが残念です。
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デジタルプリディストーションの予備実験(その1)

2013-06-29 13:39:12 | ソフトウェアラジオ
以前このブログでもデジタルプリディストーション(DPD, digital predistortion)という技術を紹介したことがあります。デジタルプリディストーションはパワーアンプの直線性を改善する方法の1つで、携帯電話基地局等では広く使われている技術です。最近では、短波帯のSSB送信機においても製品化された例が報告されています。

この技術の説明をここで簡単に繰り返すと「PAに歪みがあるならば、それと逆方向にあらかじめ歪ませたものをPAに入力することによって歪みをキャンセルする」ということになります。

アマチュア無線の世界でもその可能性について何度か言及されてはいましたが、実際に行なっている例はなかなか出て来ませんでした。私自身もずっとその実験をしようと思いながら、果たせずにいました。
ところが最近、OpenHPSDRプロジェクト関連の情報を調べていたら、実装して試しているという人たち(NR0V, Pratt氏ら)がいることを知りました。そのような刺激を受けたこともあって、ここのところ少しずつ始めていて、以下はその報告です。

実験にはDUC/DDC方式のSDRトランシーバANAN-100(OpenHPSDR Hermesと三菱 RD100HHF1プッシュプルが終段のPAで構成され最大出力100W)を用いています。ANAN-100自体については改めて紹介したいと思いますが、今回の実験のために内部の接続を一部変更しています。
また、実験にはGNURadioのツールを利用し、Hermesを制御するブロックの部分はN5EG, McDermott氏の実装によります。

DPDでまず必要なことは、対象とするPA(パワーアンプ)の特性を知ることです。具体的には、入力の振幅に対するゲインの変化(AM-AM)特性と位相の変化(AM-PM)です。理想的な直線増幅器では、これらは一定であるはずですが、実際のアンプでは振幅によって変化が起こります。ゲインの変化についてはみなさんも通常経験されているとおもいます。

今回実際に測定したPAの特性の例を示します。PAの特性と書きましたが、実際にはDACからファイナルまでのアンプ、受信用のADCまでを含めた総合特性になります。周波数は3.5MHzです。入力データの振幅(電圧)は最大値を1として100分割して0.01ステップで与えています。グラフは横軸が入力の振幅の相対値で対数を取ってdB表示にしています。右端、最大入力の時に出力100Wが得られます。縦軸はそれぞれゲインと位相の変化です。

AM-AM characteristics of the ANAN-100's PA @3.5MHz(Max Pout=100W)


AM-PM characteristics of the ANAN-100's PA @3.5MHz(Max Pout=100W)


DPDには色々な方式があるようですが、私が試しているのは単純なルックアップテーブル(LUT, LookUp Table)を用いる方法です。
あらかじめ調べた特性を元に、振幅に対するゲイン、位相のずれの情報をテーブルに保持しておきます。送信時には入力される信号のデータ(サンプル)の振幅をインデクスとしてテーブルを引き、得られた情報を元にサンプルの振幅と位相を補正し、補正されたデータを用いて送信します。

果たしてその結果はどうなるのか。今のところ得られている2トーンテストの結果を示します。変調信号は700Hzと3.2kHzと広くとっていますが、単純に見やすさのためで適当な値です。
グラフは順に30W(プリディストーション無し、有り)、100W(プリディストーション無し、有り)です。最初に掲載していたグラフが14MHzのデータだったことに気付いたので3.5MHzのデータに差し替えました。14MHzの方が効果は大きかったようです。後のエントリで再掲したいと思います。

IMD @ 3.5MHz/30W pep without predistortion
">

IMD @ 3.5MHz/30W pep with predistortion


IMD @ 3.5MHz/100W pep without predistortion


IMD @ 3.5MHz/100W pep with predistortion


これを見ると3次、5次等の低次の歪は10~20dB下がっています。逆に高次の歪は増えているようです。また、左右非対称になっている部分も見受けられます。14MHz、21MHzにおいても実験を行いましたが同様の結果が得られました。
最初の実験としては、期待の持てる結果だと感じています。まずはもう少し色々データを取り、その次に実際のSSBの送信に使えるようにpredistorterをソフトウェアに組み込みたいと考えています。

今回の報告も詳細は端折っていますが、追々補足エントリを書ければと思います。

と、ここまでは内心「思ったよりうまく行ったなあ」と思っていたのですが…多分続く



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