国民経済計算において、固定資本、具体的には支出面に出てくる「固定資本形成」、分配面に出てくる「固定資本減耗」はなかなかやっかいですっきり理解することが難しいトピックです。
ここを説明してほしいという依頼がありましたので、そのQ&Aをここに記しておきます。
個人・企業・政府の損益計算書を合体すると国内総生産になるか、というテーマでの質問です。
Q1)企業(生産活動の主体)の売上から中間投入物を引いたものがGDPという理解でいいでしょうか。
A1) そのとおりです。
Q2)設備を売った方としては単に売上ですが、買った方にとっては、「固定資本形成」というBS項目になっています。で、本来これはBS項目なので、このGDPのPLには入らないはずだと思います。
一方で、固定資本減耗(減価償却)というのは、PLであるわけですが、これはどう考えればよいのでしょうか。そもそも「固定資本形成」が表に出ていないのであれば、これが突然降ってわいたような印象を受けます。
そのへんの整理ができず悩んでいます。
NDPにおいて、これは本来省かてこそ適切なものであり、GDPにおける余計なものとしてとらえておけば良いのでしょうか。
A2) ここが一番わかりにくいところです。固定資産は売った方はすぐに売り上げがたち、支出面では「固定資本形成」として認識されます。本当はここでおしまい。会計は発生主義、国民所得計算は現金主義(もしくは生産主義)のちがいで、単年度で考えれば画が出るけれど、複数年で考えれば同じと割り切った方が楽です。
問題は分配面に「固定資本減耗」が出てくることです。所有者の費用負担となりますが、生産と消費の時間差のためにおこるもので、発生主義の会計では費用認識しますが、現金主義の国民所得計算では現金支出を伴わないので所有者への「分配」とみなしています。
会計用語でいえば、キャッシュフロー増減=利益ー資本的支出+減価償却費となります。これを国民経済計算では、資本的支出を固定資本形成として支出面(キャッシュフローのマイナス)に、減価償却費を固定資本減耗として分配面(キャッシュフローのプラス)として計上します。
→固定資本の問題は理解しづらく、私もすっきりしないところです。「生産」を測定しようとしているのに、売上・費用を測定する会計で使用する減価償却費的な考え方をとりいれたために混乱しがちです。
いい機会なので、国民経済計算を公開している内閣府のサイトから問合せしてみましたが、いまだに返事がきません。統計の問題ではなく、理論の問題なので自分で考えろということかもしれません(笑)。
Q3) そういえば貯蓄Sというのも、銀行にあずけるだけなので、BS項目ですね。
たまたま、企業が借り入れて、その分と同じくらいをIに充てていると考えればよいのでしょうか。IとSがバランスがとれているという場合。
A3) はい。一般的に 家計が収入>支出、企業・政府が収入<支出と考えれば、家計で余った現金を起業・政府が借入れ、支出するので、債権=債務となります。
また、投資=固定資本の増加=将来において利用(消費)できる資本=貯蓄となります。
→ここも固定資本が絡むと話がややこしくなります。
Q4) しかしここで、一番右端の枠で、賃金収入のうち、一部を消費に、残りを貯蓄Sとしていますが、本来はSは考えるべきではないのでしょうか。ケインズの消費関数において均衡の点では、貯蓄がマイナスから始まってゼロになることろで均衡となっていますし。
A4) 収入>支出であれば貯蓄をし、収入<支出であれば借入をするので、当然貯蓄=借入となります。国民経済計算では、それぞれの主体の収入・支出のギャップを埋めるものが債権債務となりますので、ここにあまり大きな意味はないと思います。
Q5) このへんのことについて適切なレベルでわかるようなおすすめの書籍などあれば教えていただければありがたいです。
A5) 企業会計と国民所得計算をリンクさせて考える論点での書籍はあまりないような気がします。ただ、この二つがどうつながっているかは当然気になる論点です。
個人的には 内閣府のホームページに掲載されている数字と、作成方法・定義・見方等の資料がいちばんいい情報ではないかと思います。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html
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詳しくはこちらをご参照ください。
https://blog.goo.ne.jp/scm123/e/745ef0930cfd8347f772a1f10c02a565
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