随縁記

つれづれなるままに、ものの歴史や、社会に対して思いつくことどもを記す

和紙の歴史  貝多羅(ばいたら)

2006-06-12 10:12:02 | 紙の話し
貝多羅(ばいたら)
   
インドでは古くから、ターラという樹の葉を書写材料に用いていた。
ターラは棕櫚(しゅろ)の葉に似たパルミランヤシ、コリハヤシの若い扇子状の葉を、幅七~八㎝、長さ六〇㎝ほどの長方形に整え、束ねて乾燥させる。乾燥したターラに、墨壺と糸を用いて五本の線を付け、先のとがった筆で葉の両面に文字を彫りつける。
 そこに油にすすを混ぜたインキを流し込み、熱した砂でふき取ると、文字の部分だけが黒く染まる。その各片をパットラといい、サンスクリットでは葉を意味し、漢訳では「貝多羅」「貝葉」とした。
貝葉は、一つの穴を開けて、紐を通してまとめられる。二つの穴を設けて、ノートのようにめくれるようになっているものあった。

玄奘三蔵(602~664)が、はるかな天竺へ行ったのは、中国で紙が発明されてから五百年以上もたってからであったが、インドから持ち帰った経文は、貝多羅を重ねて、両端を版木で挟み縄で結んだものであった。
玄奘三蔵がもたらした経典は五百二〇夾(きょう)であったと記されているが、「夾」とは、はさむという意で、貝葉の束を意味する。
むろん、その頃にはインドにも、紙は商品として渡っていたはずだが、まだ製紙法は伝えられておらず、高価で一般的ではなかったようだ。
或いは、聖なる仏典は、昔ながらのターラに書くべきだという、保守的な考え方が強かったのかも知れない。


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