令和5年度(2023年) 2級建築士設計製図試験
9月10日(日曜)に2級建築士設計製図試験がありました。受験された皆さん、お疲れ様でした。
今年のお題は
「専用住宅」(木造)
なんというざっくりしたタイトル。何が来るのか、当日まで全く不明でした。以前なら、「趣味室のある」とか「高齢者と暮らす」とかヒントがタイトルにあったのですが、ここのところ1級も2級も、対策しにくい、ざっくりタイトルが続いています。
他にも、何階建てなのかも書かれていません。(A2の用紙から、2階建てだろうとは思っていましたが。)
二世帯住宅 というヒントもなく、単世帯なのか二世帯なのか、ゾーニングタイプが来たら練習少ないぞとか、直前期は色々と心配していましたが、開けてみると、土間多目的室のある単世帯住居でした。昨年に引き続き、私たち講師からすると「サプライズのない」課題だったのですが、約100枚の復元図を拝見したところ、土間多目的室がなかなか曲者でした。また、専用住宅では初出題?となる北西2方向道路も、プランの分かれ目になるような課題でしたね。
(1)駐車スペースは南か北か1台ずつか?
ざっくり私が見たものについては、南駐車スペースが50%、北駐車スペースが40%、1台ずつが10%といったところでした。
総合資格はエスキス例は両方出していますが、作図例は北のみ。日建も北。TACが1台ずつとなっていました。
<南駐車スペースの注意点>
今年の課題は、南が公園で、設計条件②に「自然換気及び採光に配慮し、南側に広がる公園の良好な景観を眺望できる計画とする」という条件がついていました。
もしこの条件がなく南が隣地であれば、駐車スペースは南に置いて、建築物はなるべく北に寄せ、敷地の有効利用を図るべきだと思うのですが、この条件により、南を駐車スペースで一部塞ぐと、車を眺めることになってしまい、公園が見えにくい、という計画が出てきてしまいます。南に駐車スペースを設けても、東側に居室を持っていけば、問題はなく、広いテラスとガーデンニング用の庭が確保できるのですが、西側に多目的室や居間を持ってきてしまうと、ちょっと分が悪いかもしれませんね。
また、南駐車場の場合の注意点が他にもいくつかあります。
一つ目は、南アプローチにするので、西と北をアプローチに使わないので、ギリギリまで北西に寄せてしまうと、軒が隅切りから越境してしまう例が、わずかですが見られました。建物(屋根も建物です)の道路への越境は、一発不合格の可能性があります。ただ、2階建て部分であれば、軒の出が幾つなのかはどこにも記載がないので、北西部分は軒の出なし!と捉えてもらえれば、生き残る可能性はあります。(南立面図なので北側はわからないので)試験もとがどう判断するか、、、ですが。軒の越境は3%くらいだったと思います。
変形敷地の練習課題をやったように、隅切りも、建築可能範囲を出す時に、45度によけておかないと危険だな、と感じました。
もう一つは、南駐車で玄関を北に持って行ってしまったパターン。今回、多目的室の特記事項エに「外部と直接行き来できる出入り口を設けるとともに、駐車スペースからの荷物の搬入にも配慮する」とあります。なので、駐車スペースから多目的室へのアプローチは絶対に必要ですが、では、毎日使う玄関へは、一度道路に出て、北に回ってから玄関に行くというアプローチでいいのかどうか?これは意見の分かれるところですが、私は、まずいと思っています。やはり駐車スペースと玄関は近くないとならない。なので、南駐車にしたら、玄関は西か南でないとまずいのではないでしょうか?その辺も試験もとがどう判断するかですが、南駐車の人の半分近くがこれをやってしまっています。
<北駐車スペースの注意点>
敷地の有効利用を強く指導したためか、北駐車の人の50%が欠け型、セオリーの北突出は10%、残り40%が長方形プランでした。
欠け型の場合は、南駐車と同じく、建物本体が北によるので、軒先の越境が心配です。越境しなければ、建物を北に寄せられて、南を広いテラスと庭にでき、車を眺める心配もないので、良いプランにしやすいと思いました。多目的を東西に長い形で南に置いてしまうと、駐車スペースから多目的へのアプローチが遠くなるので、多目的を南北に長い形にして北側にアプローチをとった方がいいでしょう。
また、下屋が小さくなるので、立面図の屋根の高さは要注意です。立面図はかなり練習したのですが、本番になると、練習したものでもうっかりしてしまうことがありますよね。これも下屋の屋根勾配はどこにも書いてないので、不整合とも言い切れないのですが。試験もとがどう判断するかですね。
長方形の場合は、敷地の間口を目一杯使って総二階にすると、延床面積の上限アウトになりますので、注意が必要です。今年は昨年下限アウトが多かったということから、延面積のチェックはかなり厳しくいってあったので、上限アウトになる方はいませんでしたが、延面積の範囲が狭い、というのも、微妙にトラップだったかな、とは思いました。
また、長方形の場合は北側に広い空きスペースができてしまうので、敷地の有効利用という面では分が悪いかもしれませんね。
(2)多目的室の床高を幾つにするべきだったか?
今回のテーマは多目的室だったわけですが、特記事項が7つもありました。先ほど紹介した、駐車スペースからのアクセスの他に、大きなポイントとなったのが、
「イ. 25㎡以上とし、床を土間コンクリート仕上げとする」(矩計図の切断指定が多目的室)
「ウ. 下足利用とし、必要に応じて段差処理を行う」
のところをどう読み取るのか、という点です。
まずここを見落として、矩計図をいつも通りの木の床組にして「フローリング」と書いてしまった人は、かなり大きな減点になると思います。
次に土間にしたものの、「段差処理」に過剰反応して高さを500にした人。これは学生で多かったです。学生では木床を含め30%の人が500にしていますが、社会人では木床含め9%です。そして500にしてしまうと矩計がかなり怪しいものになってしまいます。怪しい土間矩計は、一発アウトではないと思いますが、減点はあると思います。
47%の人は床高150にしていました。次に多かったのは350で、20%でした。学生は150が多く、社会人は350が多かったです。矩計は圧倒的に社会人の方がちゃんと描けている印象でした。学生の人も、150にした人はきちんと描けていた印象です。
(3)居間食事室台所の吹抜けはどこに設けるべきだったか?
社会人はほとんどの方が居間の上、あるいは居間食事室の上に設けていました。台所にかかってしまったのは13%でした。学生はDKの上が32%もいて、台所の上を吹抜けにしたら、換気扇どうするのかな?と思ってしまったりしましたが、そこは減点はないかもしれませんね。ただ、吹抜けが北側にいってしまった人は、減点があるかもしれません。
学生で1名、社会人で1名、何を勘違いしてしまったのか?多目的の上に吹き抜けを作っている人がいました。LDKにも吹抜けがあって、さらに多目的にもあるのならいいのですが、多目的にしかない場合は、大きな減点になるでしょう。
(4)多目的と台所の行き来
居間食事室台所の特記事項オに「台所は、多目的室と隣接させて直接行き来できるようにする」とあり、
多目的室の特記事項オにも「台所と隣接させて直接行き来できるようにする」とあります。なので、一旦廊下に出てからでないと行き来できない計画はNGとなります。
行き来はできるけど、DKであってKと言い切れない、というプランはかなりありました。これはまあ、減点はないかもしれません。ただ、居間と行き来、の人は減点だと思います。
これは、LDKを東西に長い長方形で南側に計画した場合は、台所と隣接させやすいのですが、南北に長い長方形にした人たちが苦しくなっています。LDKを南北に長く計画して通過動線として使うと廊下が節約できる、という練習を、予備校ではかなりやりました。そのクセが出て、LDKを縦おきした人は、どうしても南に居間、北にDKになるので、南に多目的がある場合、苦肉の策で、真ん中にアイランドキッチンを置いたりしていますが、ちょっと苦しいかもしれません。これは社会人の方に多く見られた傾向があります。この特記事項の条件から、多目的が縦おき、LDKが横置きだな、とピンとくるかどうかが、分かれ目だったかもしれませんね。
(5)便所(B)と倉庫
便所(B)と倉庫は特記事項アに「いずれも多目的室から利用できるようにする」とあり、一旦廊下に出ないといけない計画はNGです。ほとんどの方がクリアしているので、これができていないとちょっと痛いかもしれません。
(6)立体的なイメージができていたか?
今回の課題の特徴として、多目的室という25㎡の大きな室と、居間食事室台所という大きな室が2つ1階にあるのですが、どちらも、矩計図と吹き抜けという条件から、下屋にできない、ということが読み取れたかどうか?
何名かの方は、「最初30分くらいで1案できて、簡単だと思ったのだが、チェックをしていて、下屋にできないことに気づいて、エスキスをやり直したので、2案作ったことになり、意外とエスキスに時間がかかってしまった。」と言っていました。エスキスに時間がかかった方はこのパターンが多かったかもしれません。それでも作図が速ければ、目地まで描き切れたようです。
逆に、チェックが疎かだと、条件違反に気付けずに、そのまま作図に進んだので、密度はとても濃い、描き込みは多いけれど、重大な見落としがあるパターンもあるようです。
(7)計画の要点がちょっと1級化していた。
①多目的室の配置計画及び構造計画について工夫した点
②自然換気・採光及び眺望について建築計画上工夫した点
ということで、2つかと思いきや、配置計画、構造計画、換気・採光、眺望と4つに分かれていました。採光も眺望も窓関係なので、どう表現を分けるのか?ちょっと要点も1級化している印象ですね。多目的室の構造計画は、みなさん悩まれたようです。今後はもっと要点の練習もしていかないとならなそうですね。
社会人の方々へは、今年はかなりチェックの重要性をいっていたので、チェックでミスに気づけた、修正できた、という声があったのはよかったな、と思います。ただ、その分学生よりも作図密度がちょっと薄いな、という印象はあります。
2級の1級化ということを考えると、作図のプレゼンテーションよりも、いかにミスがないか、プランがいいか、が勝負になると思うのですが、果たして試験もとがどう判断するか、全国的な傾向との兼ね合いもあるので、12月までは何とも言えないですね。
ともかく、暑い暑い夏を、本当にみなさんよく頑張りましたね!この頑張りは、試験の結果に関係なく、みなさんの今後の人生に役立つ経験だったと思います。もちろん合格するに越したことはないですが。
みなさんの合格をこころよりお祈りいたします。