とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

THAにおける大腿骨引き下げはどのくらいまで安全か?

2020-04-26 14:31:34 | 整形外科・手術
人工股関節全置換術(THA)において、特に骨頭が脱臼位にある場合には引き下げが必須ですが、どの程度引き下げて(延長して)良いのかについては迷うことも多いです。当施設でも神経刺激器などを用いて慎重に引き下げているのですが、なんとなく「30 mmくらいの延長は大丈夫ちゃうか?」というようなエビデンスのない基準を設けております(間違ってたらごめん)。
さてトルコのIstanbul大学から発表されたこの論文では、術中神経モニタリング(intraoperative neuro-monitoring, IONM)を用いてMEPおよびSEPを測定して、どの程度安全に引き下げが可能かを検討しています。モニターした神経は深腓骨神経(前脛骨筋)、脛骨神経(腓腹筋)、大腿神経(大腿四頭筋)のMEP、そして後脛骨神経のSEPです。アプローチはmodified Hardinge approachを用いています。骨頭摘出後、牽引装置を用いて下肢を牽引し、SEPあるいはMEP amplitudeの50%低下あるいはSEP latencyの10%以上の増加を神経障害と定義し、透視を用いて引き下げ(延長)量を測定しました。
(結果)16例のTHA症例(51.7±11.4歳, 25-66歳)を対象としました。身長は平均162.2 cm、体重は72.4 kgです。牽引によって最初に電位の変化が見られたのも、初めに危険域に達したのも深腓骨神経でした。深腓骨神経がリミットに達した際の脛骨神経の電位低下は27.4%±9.9%(11-46%)、大腿神経は12.6%±10.5%(0-35%)でした。脛骨神経のSEPに変化はありませんでした。最初にneurapraxiaの兆候を示したのは14.9±6.2 mm(大腿骨全長の3%、ASIS-MM距離[SMD]の1.7%)、危険域に達した延長量は22.4±5.6 mm(同5%, 2.6%)でした。延長量のリミットは大腿骨長およびASIS-MM距離と相関していました。
この結果を見ての感想は「えらい少ないなー!」でした。上述したように、なんとなくリミットは30 mm程度かと考えていましたが、やはり安全を期するためには20 mm以内に収めておいた方が良いのでしょうか。とはいえ日本の場合には臼蓋形成不全症例が多く、高位脱臼例では中々延長20 mm以内という訳にはいかないことも多いのですが。それにしても16例でJBJS Amというのはうらやましい感じがします。
Batram et al., "Critical Limit of Lower-Extremity Lengthening in Total Hip Arthroplasty: An Intraoperative Neuromonitorization Study."
J Bone Joint Surg Am. 2020 Apr 15;102(8):664-673.


最新の画像もっと見る

コメントを投稿