
道すがら、ふいに声をかけられた。振り向くと昔、仕事を一緒にしていた弥生だった。何年ぶりのことだろうか。少し太ったように思えたが、弥生はすっかり中年の女になっていた。
ひさしぶりの再会だったので、近くの喫茶店でお茶でも、ということになった。
夕暮れの荻窪の町は通勤帰りの人で溢れていた。この頃は、日が落ちると、急に冷えるようになった。心なしか皆足ばやに歩いているよう見える。
喫茶店は昭和レトロの色濃い雰囲気の店だった。
二人は店の奥の二人用のテーブルに腰をおろすと、まずはお互いの健康を祝した。
「本当に久しぶりね。相変わらずお元気?」と弥生。
それに素子は「まあね」と少し屈託ありそうな表情で応えた。
素子は弥生の顔を見ると、懐かしいというか、少し苦い味の思い出がよみがえってきた。
と同時に、素子が会社を辞めてからのことを聞いて見くなった。
それはが、付き合っていた同僚の井川のことだった。
「ああ、井川さんね。素子、あの人とつきあっていたんだっけ。そんな噂聞いていてよ」
そう言うと、弥生はさも秘密めいた口調で井川のことを話し出した。
実は、素子は井川とは会社にいる頃、一度、あやまちを犯したことがあった。
が、それきり事情があって関係が切れて、そのあと素子は会社をやめた。
弥生によれば、井川はその後、博多へ転勤になり、それからまた数年もしないうちに名古屋、新潟と、転々としているという。
小さな貿易会社であったので営業マンは転勤が多いのだろう。最後に弥生は、「そんな風だから、井川さん、いまだ独身だそうよ」と付け加えた。
そんな井川の話を聞くと、素子は少し井川が不憫に思えた。そして、井川にもう一度逢ってみたいという気になった。
するとふいに昔のことが思い出された。甘く切なく、それでいてひりひりと心の痛む記憶が蘇った。
気持ちの底に澱のようにたまっていたものが動きはじめたようだった。
ある連休の晴れ渡った日に、素子は新幹線に乗って、晴れ晴れしい気持ちで新潟めざして旅立った。
ひさしぶりの再会だったので、近くの喫茶店でお茶でも、ということになった。
夕暮れの荻窪の町は通勤帰りの人で溢れていた。この頃は、日が落ちると、急に冷えるようになった。心なしか皆足ばやに歩いているよう見える。
喫茶店は昭和レトロの色濃い雰囲気の店だった。
二人は店の奥の二人用のテーブルに腰をおろすと、まずはお互いの健康を祝した。
「本当に久しぶりね。相変わらずお元気?」と弥生。
それに素子は「まあね」と少し屈託ありそうな表情で応えた。
素子は弥生の顔を見ると、懐かしいというか、少し苦い味の思い出がよみがえってきた。
と同時に、素子が会社を辞めてからのことを聞いて見くなった。
それはが、付き合っていた同僚の井川のことだった。
「ああ、井川さんね。素子、あの人とつきあっていたんだっけ。そんな噂聞いていてよ」
そう言うと、弥生はさも秘密めいた口調で井川のことを話し出した。
実は、素子は井川とは会社にいる頃、一度、あやまちを犯したことがあった。
が、それきり事情があって関係が切れて、そのあと素子は会社をやめた。
弥生によれば、井川はその後、博多へ転勤になり、それからまた数年もしないうちに名古屋、新潟と、転々としているという。
小さな貿易会社であったので営業マンは転勤が多いのだろう。最後に弥生は、「そんな風だから、井川さん、いまだ独身だそうよ」と付け加えた。
そんな井川の話を聞くと、素子は少し井川が不憫に思えた。そして、井川にもう一度逢ってみたいという気になった。
するとふいに昔のことが思い出された。甘く切なく、それでいてひりひりと心の痛む記憶が蘇った。
気持ちの底に澱のようにたまっていたものが動きはじめたようだった。
ある連休の晴れ渡った日に、素子は新幹線に乗って、晴れ晴れしい気持ちで新潟めざして旅立った。
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