郊外のこぢんまりしたアパートの一部屋を借りて、和夫と明美は暮らしている。二人はいずれも三十代の共働き夫婦であるが、和夫は職場に長く居つかずに転職を繰り返していた。そんな和夫のことを明美は特にとがめもせずに見守っていた。妻が汗水垂らして働いているのに、夫は頼りにならない存在だった。
そんな妻の明美にすまないという思いがあればまだしも、いつしかそんな男勝りの妻に鬱陶しさを感じ始め、ついには妻を嫌悪するようになった。
仕事のない時には家にいて、遊び半分で出会い系サイトをのぞいたりして暇を潰していた。そんな時ひとりの若い女の子が目に止まった。
「最近出会い系を始めたばかりで、使い方が分からず困っていたところ、知人から、女性から男性に連絡した方が出会いにつながることが多いと聞きましたので、僭越ながら連絡させて頂きました」とメールには書かれてあった。
さらに、「私は若い頃、それなりに遊んでいた方なので、あなたを愉しくさせる自信があります。お互いに日常を忘れられる、そんな時間を共有できたらいいなと思っています。もし、少しでもわたしに興味を持って頂けたようでしたら嬉しいです」と添えられてあった。
和夫はすぐ夢中になった。やがて二人は会うことになった。
ある日の昼下がり、いそいそと和夫は家を出た。和夫の心に浮気心が燃え上がったのはいうまでもない。
会って見ると、相手の女性は妻の明美とはまったく違ったタイプの女性で、それが和夫には新鮮だった。これから何かとてつもない可能性が花開くような気がしてわくわくした。そして、いつしか、もう妻を捨てて、この女とずっと一緒にいたいと思うようになっていった。
ある日、和夫は思い切って妻に言い放った。「お前なんかともう一緒にいたくない」と啖呵を切り、「もう二度と会わないよ」と捨て台詞を吐いて家を出て行こうとした。
その時である。明美が不意に言った。「あなたが家を出て行くことはないわ。ここはあなたの家なんだから、わたしが出て行くわ」と言って、妻の明美がさっさと家を出ていった。毅然とした別れの態度だった。
後に残された和夫は、何か割り切れない気分にとらわれていた。自分がひとりぼっちになったのを感じた。部屋の中が急に寒々として来た。ふいに寂しさが押し寄せてきた。と同時に、自分が妻に何をしたかが明瞭に浮かび上がって来た。
妻のいなくなったあとの虚しさは計り知れなかった。「えらいことになった」と和夫は思った。和夫はふいに立ち上がって、外に飛び出した。よたよたと夕暮れの渋谷の町を、人波をかき分けながら、明美の後を追った。
月が皓々と照っていた。
そんな妻の明美にすまないという思いがあればまだしも、いつしかそんな男勝りの妻に鬱陶しさを感じ始め、ついには妻を嫌悪するようになった。
仕事のない時には家にいて、遊び半分で出会い系サイトをのぞいたりして暇を潰していた。そんな時ひとりの若い女の子が目に止まった。
「最近出会い系を始めたばかりで、使い方が分からず困っていたところ、知人から、女性から男性に連絡した方が出会いにつながることが多いと聞きましたので、僭越ながら連絡させて頂きました」とメールには書かれてあった。
さらに、「私は若い頃、それなりに遊んでいた方なので、あなたを愉しくさせる自信があります。お互いに日常を忘れられる、そんな時間を共有できたらいいなと思っています。もし、少しでもわたしに興味を持って頂けたようでしたら嬉しいです」と添えられてあった。
和夫はすぐ夢中になった。やがて二人は会うことになった。
ある日の昼下がり、いそいそと和夫は家を出た。和夫の心に浮気心が燃え上がったのはいうまでもない。
会って見ると、相手の女性は妻の明美とはまったく違ったタイプの女性で、それが和夫には新鮮だった。これから何かとてつもない可能性が花開くような気がしてわくわくした。そして、いつしか、もう妻を捨てて、この女とずっと一緒にいたいと思うようになっていった。
ある日、和夫は思い切って妻に言い放った。「お前なんかともう一緒にいたくない」と啖呵を切り、「もう二度と会わないよ」と捨て台詞を吐いて家を出て行こうとした。
その時である。明美が不意に言った。「あなたが家を出て行くことはないわ。ここはあなたの家なんだから、わたしが出て行くわ」と言って、妻の明美がさっさと家を出ていった。毅然とした別れの態度だった。
後に残された和夫は、何か割り切れない気分にとらわれていた。自分がひとりぼっちになったのを感じた。部屋の中が急に寒々として来た。ふいに寂しさが押し寄せてきた。と同時に、自分が妻に何をしたかが明瞭に浮かび上がって来た。
妻のいなくなったあとの虚しさは計り知れなかった。「えらいことになった」と和夫は思った。和夫はふいに立ち上がって、外に飛び出した。よたよたと夕暮れの渋谷の町を、人波をかき分けながら、明美の後を追った。
月が皓々と照っていた。