メーカーズシャツ鎌倉株式会社(MAKER'S SHIRT KAMAKURA)は日本のアパレル企業で、その製品は
“鎌倉シャツ”の名で親しまれています。
本社は、鎌倉市雪ノ下にあり、資本金1億円、売上33億円(2014.5月期)従業員120名、創業者:
貞末良雄、社長:貞末民子、創業1993年 という会社です。全国各地に店舗を展開しています。
この会社の経営方針について、例のH氏から配信された記事に紹介されていましたので、ここに
取り上げました。
ネットによれば、従来、衣料品メーカーで製造された商品は百貨店などで委託販売されるのが主流で
ありましたので、その場合多めに仕入れて売れ残りは返品するという商習慣が一般的でした。
これに対し、衣料品等の販売から製造(開発)までを単一の業者が行う業態のことをSPAといいます。
SPAというのは、本文中でも製造小売業と訳されていますが、そもそもは、アメリカ最大の衣料品
小売店“GAP”が、1986年に自ら定義した「speciality store retailer of private label apparel」
の略だそうです。 直訳すると、「独自のブランドをもちそれに特化した専門店を営む衣料品販売業」
となり、衣料品業界で販売から商品企画までを手がけるという手法です。 GAPの成功を見て、「SPA」、
あるいはその訳語である「製造小売業」という用語、業態が普及するようになったとあります。
*GAP:2008年時点で、世界に3100店を持ち、134,000人を雇用する巨大会社
日本では小売業が企画・製造に進出する場合のほか、衣料品メーカー(製造卸)が自らブランドを
確立し小売に進出する場合もSPAと呼ばれています。 また、商品企画・製造と小売とを結びつける
物流その他の機能は「製造小売」業者が自ら手がけなくても「SPA」であり、製造について外注と
しているSPAは少なくありません。
同社(鎌倉シャツ)のHPや通販ページなどを見ていると、どこか活気を感じ、楽しい雰囲気が
充満しているように思えました。 普通、会社概要などに出てくる会長や社長の堅い顔写真ではなく、
商品ページにさりげなく顔写真入りの会長や社長が好んで選ぶファッションやアイテムの数々を
紹介していたりして・・
確かに、物が不足していた時代から、販売ということを考えてみますと、既にモノが飽和状態に
なって来ている時代には、マイクロマーケティングといわれるように、個々に欲しているものを
如何に的確に消費者に届けるかという点から、製造者が直接販売するというのが理にかなっている
のですね。製造者と消費者が直接つながっている。
(鎌倉シャツHPより)
では、記事を紹介します。
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『鎌倉シャツ 魂のものづくり』 丸木 伊参 著
日本経済新聞出版社 2014/06 235p 1,500円(税別)
1.なぜ、このシャツを4,900円で作れるのか
2.100%リスクを取る
3.会社と社員に嘘はない
4.「言いたいことを言う」自由な風土
5.ビジネスモデルを支える「高い志」
6.究極のSPAはいかに生まれたか
【要旨】アパレルSPA(製造小売業)といえば、ユニクロを筆頭とする海外大量生産によるコスト
ダウンのビジネスモデルで知られるが、国産で徹底した高品質にこだわったうえでの廉価販売で、
近年多くのファンを集める企業がある。「メーカーズシャツ鎌倉(鎌倉シャツ)」である。同社で
製造販売するドレスシャツ(ワイシャツ)のメインの価格は4,900円。生地、縫製、仕上げ等すべてに
高級品と等しい技術や工夫がこらされているにもかかわらず、この安さを維持し、顧客に不公平感を
抱かせないために、値下げやセールは一切行わない。本書では、同社関係者たちへの取材により、
そのユニークなビジネスモデルの成功要因ともいえる、「嘘をつかない」真摯な姿勢の、使命感・志を
重視した経営哲学に迫っている。著者は元「商業界」代表取締役社長で、現在は「OFFICE MARUKI」
代表として執筆・講演活動を行っている。
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●仕入先を顧客ととらえ、その利益や立場を考える
鎌倉シャツのシャツは、税抜きで4,900円。商品はすべて国産で、類いまれな高品質。それが4,900円。
まさに「安い」のだ。価格は1993年の創業以来、変えていない。値下げやバーゲンセールは一切せず、
今日に至っている。
鎌倉シャツの品質は折り紙つきだ。しなやかで着心地のよい高級綿素材生地を使用し、ていねいな
縫製による仕上がりは、市価12,000円から15,000円の商品に匹敵するクオリティを誇る。素材入手は、
商社や問屋に任せず自ら中国奥地まで踏み込み、最適素材を確保する独自のルートを築いている。
鎌倉シャツには品質統一会議というのがある。初回は13年3月に実施。年間3回から4回を予定して
いる。出席者は縫製工場をはじめ鎌倉シャツとSMR(鎌倉シャツの生産、管理を担当する別会社)の
役員、スタッフの総勢40名ほどである。意図するところは縫製工場がそれぞれのノウハウ(得意技)を
開示しつつ、縫製工場同士の横の連携を強化することで品質統一と向上を目指す。一専門店が縫製工場と
定期的に会議を開くのは、極めてめずらしいケースといえる。会議には取引先20社のオーナーや役員、
幹部が出席、細部にわたり品質基準が検討される。また、工場間の技術の格差をなくし、全体のレベルを
向上させることが、この会議の大きな狙いである。
なぜ、良品廉価のマーチャンダイジング(MD、※製品やサービスを適切な場所や時期、価格、
数量で市場に提供するための計画と管理)が可能になったのか。最大の要因を一つ挙げるとすれば、
リスクを自らに課す確固たる経営と取引姿勢にある。仕入れは、すべて現金。返品も一切なしである。
しかも支払いは仕入れの翌月にきちんと果たす。リスクは他に転嫁せず、完全に自社で負うMDを、
創業以来一貫して実践してきている。
創業者であり、会長の貞末良雄は、語る。「仕入先がなければ、われわれの商売は成立しません。
仕入先は重要な顧客です。常に相手の利益や立場を考え、必要以上の価格(値引き)交渉はしない。
それがよい関係づくりにつながり、よい商品を早く、しかも安く回してもらえるようになるのです」
鎌倉シャツは「買い手有利な取引を戒める」(貞末)としている。取引は、あくまでも平等、公正を
もってよしとする考え方である。貞末は、仕入れ担当者に「(取引)交渉には、電卓を持っていくな」
と言っている。「取引交渉で大切なのは、相手の考えや事情をよく聞くことです。それをせず、
すぐ電卓を取り出し、セカセカと叩いたのでは、よい関係は築けない」
低価格のさらなる要因は、流通ルートが縫製工場直結であることだ。鎌倉シャツの流通ルートは、
短くシンプルである。生地メーカーと縫製工場を含めた各流通段階の情報共有とコミュニケーションの
よさが臨機応変なMDを可能にし、ロス減少にもつながっている。さらに、主力取引先は生地メーカーで
2社、縫製工場は3社から4社に絞られていて、大量発注による、上質廉価MDの仕組みがつくられている。
鎌倉シャツの原価率は59%と、飛び抜けて高い。アパレルメーカーの原価率は20%以下、平均すれば
17%から18%とも言われる。鎌倉シャツがこの原価率でも経営可能なのは、高い商品回転率にある。
回転率はメンズが0.8回転、レディスが1.2回転と高く、消化率は何と99%という高さ。ほぼ全品を
売り切ってしまう計算になる。
高効率の要因は、短サイクルのMDにある。MDは週単位がベース。アイテムごとに、いつ、何を、
どの店に、何枚投入するかを決める。MDの基本は「売る数と作る数がイコールであることです」
(メンズ商品企画担当の佐野貴宏)
●嘘をつかず、真摯につくり真摯に売る
鎌倉シャツにはどのような販売マニュアルがあり、いかなる教育をしているのか。それを問うた
ところ、「マニュアルはなく、教育研修も取り立ててやっているわけではない」という。マニュアルが
ない理由は、普通の人間が普通にやれば、誰でもできる、だからあえてつくる必要はないというのである。
鎌倉シャツの正社員の定期採用はほぼ大卒(四年制)のみで、この人材が販売力の鍵となる。
良質な人材を採用し、良質な販売を目指すところに同社の強さがある。しかし、良質な販売のベースに
なるのは、スキル(技術)よりもマインド(心)だという。スキルも大切だが、その前に仕事に
取り組む姿勢や心を優先させる。
佐野貴宏(35歳)は大学卒業後、鎌倉シャツに入社して13年。当初は付属品の手配や検品を担当、
やがて企画、製造にたずさわるようになる。「正義と正しい商いの道を心がけ、これがメイド・
イン・ジャパンだという品質を追求していきたい」と語る。
「わが社の経営に嘘はない。皆、嘘をつかないということです。真摯につくり、真摯に売っている。
セール(バーゲン)は一切なし、というのも正義だと考えてます。昨日1,000円で売っていたものを
今日は500円。これでは昨日のお客さまに説明がつきません。正しいことを積み上げていけば、必ず
お客さまに伝わります。それが売る側の自信になり、誇りになっていくのだと思います」
●「本物を提供する」という使命を利益より優先
鎌倉シャツの商いの特徴は、あるべき姿を求め続ける姿勢が高いレベルで維持されている点である。
同店は1枚のシャツを売ることから始まった。「メンズウェアのワードローブ(衣装計画)で重要なの
は、まずシャツとネクタイ。シャツを手がける以上、本物を提供するのが使命です。目先の利益は
考えていなかった」(貞末)。利益よりも果たすべき使命は何かを考えたのだ。
以下は、貞末が考える、そのキーワードである。
○日本のビジネスマン(ウーマン)を1枚のシャツから支え、変えていく。
○日本人のルール(服装)とファッションセンスの向上に貢献する。
○服装を海外に出ても、恥ずかしくないレベルに引き上げる。
○日本の縫製業を支え、メイド・イン・ジャパンの良さを発信させていく。
貞末によると「ウェアはビジネスマン(ウーマン)にとって武器であり、自己表現のメディアなのに、
日本人はその意識が低過ぎる」という。
貞末の自筆コピーによる「会社経営」の見解に鎌倉シャツのコンセプトの大前提ともいうべき文言が
記されている。「会社とは、経営者のみならず、働く人達の心の中にある。良く成るように考え
なければ、よい会社は生れない。先ず良いTOPに成らなければならない。会社が腐敗するのは、魚と同じ
様に、頭から腐るものである」「商売の基本は顧客満足の充足である。顧客から過分な利益を獲得
すれば、やがて顧客満足の継続的な仕組を逸脱する。働く総ての人達の一挙手一投足が顧客満足に
貢献していると意識すれば、会社の方向は常に同じ方向に向かい、ロスの無い運営が実現する」
先般、オーダーすべく鎌倉シャツ本店を訪れた。「首が細いのでオーダーを」と頼むと、接客に
当たった女性販売員が私を一見、「これを着てみてください」と既製品のサンプルを持参した。
着用するとネックは、ほぼフィットし、違和感はない。「大丈夫ですね」と販売員は笑顔を返した。
そこで質問した。「オーダーの方が売り上げになり、いいんじゃないの」。販売員の答えは、
「オーダーですと高いですし、(出来上がるまで)1ヶ月かかります。お客さまにご負担がないように
するのが(店の)方針ですし、私もそう心掛けています」
コメント: 鎌倉シャツの類いまれなビジネスモデルは、「正義」と「信頼」に支えられていると
いってよいだろう。徹底した性善説が貫かれている。ただし、こうした正義、信頼、性善説ほど
リスキーなものはないことは確かだ。 もちろん同社の経営はそのリスクを承知し、覚悟のうえで
なされている。その覚悟こそが、鎌倉シャツの最大の強みであり、他社に真似できないことなのでは
ないかと思う。これから鎌倉シャツが、どのようにリスクと闘い、正義を貫いていくのか。それに
注目することで、新しい時代の「共生」を重視する経営のあり方が見えてくるのではないだろうか。
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