先ごろ(1/8)、当ブログに『仕掛学』を取り上げましたが、今回は、『不便益』なん
です。 不・便益 ではなく、不便・益 なんです。Benefit of inconvenience つまり、
不便であることがある意味 益 をもたらすというのです。
不便益システム研究所代表の 川上浩司氏(京都大学デザイン学ユニット教授)が数年前
に提唱し、論文発表、書籍、ゼミなど幅広く活動されており、2017.6にはNHKあさイチで
特集『不便益』が放送されていました。 この番組を私は見ていませんが、ネットなどに
よるとかなり面白く取り上げられていたのではないかと思われます。
(ネット画像より)
川上氏は、これまで 『人工知能や進化論的計算手法をシステムデザインに応用してきた
が、現在では、人と人工物の関係を考え直し、「自動化」に代わるデザインの方向性を模索
中』とされ、『ビジネスや社会では、「便利」「最短」「効率」を追求する仕事の進め方や、
企画の考え方があふれています。しかし、便利=豊かな社会なのでしょうか。ビジネスに
不便益という発想を取り入れることで、これまでになかった新しいモノやサービスが生まれ
るかもしれません。』 と考え、『不便は手間ですが、けして悪者ではありません。便利す
ぎる現代に、大切なことを気づかせてくれるきっかけにもなるのです。』と言っています。
また、『便利すぎる時代にうっすら不安を感じているなら、不便益というモノサシを増や
すことをおすすめします。』とも。
私の記憶に、若いころ 夏には、山のグループでありこち山歩きをしているとき、たまの
休暇を取って、なんで重い荷物を担いで、汗を流し山に登るのか・・などがチラッとよぎる
ことがあったりしましたが、こんな時、山小屋に荷を運ぶヘリコプターに便乗すれば、あっ
という間に楽々2000数百mまで来れるのに・・。 しかし、これだと、山登りの醍醐味は
味わえないでしょう。 苦労して汗して 一歩一歩登るところに。一切を無にした、ただひた
すら自身を見つめる、そのプロセスを踏んで、目指す頂上を極める、あの達成感、そう快感
は味わえないのですね。 ヘリコプターは便利ですが、時間をかけて苦労して汗して稼いで
初めてあの充実感が味わえるのですね。
最近、ケイタイ(電話)では、相手の電話番号が記憶されていますから、大変便利ですが、
そのため相手の番号を憶えなくなりました。 パソコンでも、漢字変換機能に便利していま
すが、お陰様で正しい漢字が書けなくなったのがあります。 面倒でも、手紙や文章を手書
きしてみるとき、あらためて漢字の存在をキチっと見直すことがあります。
(ネット画像より)
不便益研究所で示されている中から、いくつか例示してみます。
『 電話やメールなど、情報通信の便利さを享受していますが、それらから離れた時、「いつ
でも好きなときに」連絡が取れないことで、人と連絡をとれることの大切さをなんとなく感
じることができています。』
『2016年に、レンズ付きフィルムの30周年復刻版版が限定販売されると、すぐに売り切れ
るという現象が起きた。我々世代のノスタルジーに駆られて買い求めたのかと思いきや、
購買層は生まれた時からデジタルの世代であったという。 フィルム式カメラで撮影した写
真の独自の味わいはインスタ映えするから、がその理由だとか。 デジタルカメラで自由に
何枚も撮るのではなく、枚数制限や現像などの時間がかかることによって、1枚のショットの
位置づけが密になり撮影時の認識が違うからだそうです。不便ゆえに旅の想い出が鮮明にな
る。』
『インダストリアルデザインの分野で、2017年の最優秀作品の一つに、「ReminDoor」と
いう、家の玄関ドアの鍵があった。玄関ドアの鍵穴が二つあって、一つはダミーで、任意に
入れ替わる。なので、運よく正しい鍵に当たれば1度で済むが、ダミーにあたると、もう一
度手間をかけることになる。これによって、鍵の意識がはっきりして、鍵をかけたかどうか
不安になることを避ける狙いがある。』
また、内容はわかりませんが、『手間をかけさせてくれるキッチン』が京都府知事賞を
受賞したとありました。
不便益の考え方は、『テクノロジーを否定し、昔の生活に戻ろうという内容でなく、ITや
AIなどの最新テクノロジーと不便を組み合わせた中から、新しい発想が生まれる』という
ことを指摘されているのだと思います。
寒空に咲く、黄梅