ヒロヒコの "My Treasure Box"

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東州斎写楽の謎「写楽 閉じた国の幻」島田荘司・著

2013年04月17日 | 
 この小説は2011年版「このミステリーがすごい!」の第2位に選ばれ、その時写楽の謎というテーマに非常に興味を持ったのだが、このたび新潮文庫として刊行された機会に読んでみた。島田荘司氏に関しては、「斜め屋敷の犯罪」という、私がかつて住んでいたオホーツク海沿いを舞台にした作品を読んだことがあった。これは文芸春秋編「東西ミステリーベスト100」にも国内第21位として選ばれており、タイトルがすでにトリックを暗示しているという驚きの作品であった。本作品はそれとは全く雰囲気が異なる。いわゆる殺人事件は登場しない。メインは写楽の謎を解くということで、それは即ち「写楽は写楽という名の絵師であったという説明では納得できない多くの謎があり、だれか別人が写楽と名乗ったのだ、ではその別人とは誰か。」という問に対する答えを導き出すというものだ。
 その多くの謎とは、次のとおり。
・わずか10ヶ月しか存在しなかった。
・140点余りの大首絵(版画による今で言うブロマイド)をその10ヶ月の間にのみ描き上げた。
・それまでと全く視点の違う作風である、歌舞伎役者が喜ばないシワも遠慮なく描き、売れるはずのない無名の下っ端の役者の姿も描いた。
・なぜか作品上に荒々しい線と繊細な線が同居している。
・無名のこの作家の作品を板元の蔦屋(つたや)重三郎が異例の待遇で世に出した(即座に、大量に、歌麿・北斎クラスの高級な摺り方で)。
・後に実は自分が写楽だったと言った人物が皆無。
・蔦屋はじめ出版の関係者や当時の浮世絵師など関係者が誰一人写楽の正体について沈黙したまま。…
 つまり、「風のごとく現れ、それまでとは全く違う作風で作品を描き、出版元の異例のバックアップを受けリリースし、その後わずか10ヶ月で姿を消し、それが何者であったかだれもしゃべらない」というのが写楽の謎なのである。
 それに対する作者の最終的な答えは、「もし○○が○○の時に○○したのだとすると、すべての謎を説明することができる。」というもの。そして、それが史実と照らし合わせ矛盾が生じないことも示し、自説の根拠としている。他の説をよく知らない自分としては、東州斎写楽という名の意味の解釈も含めて非常に納得できる結論であった。素直に面白いと思ったし、上下2巻をあっという間に読み終えてしまった。
 なお、物語性を加味するための主人公によるサイド・ストーリーにより本作品は進行する。主人公の回りに登場する美しい女性教授の存在が最終的に写楽の正体とリンクすることは少し作りすぎかなと感じたが、江戸編に登場する人物達の「べらんめぃ調」は北海道に住む自分にとってはとても新鮮だった。
 作者は後書きで、全てを説明しきれなかった、心残りであると述べている。そして本作品続編の執筆を示唆しているのだが、もしそうなれば、今度は即読みたいと思う。それほど楽しめた小説である。


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