ヒロヒコの "My Treasure Box"

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E.クイーン「フランス白粉の秘密(謎)」新訳 角川版と創元版

2013年09月03日 | ミステリー小説
 エラリー・クイーン作国名シリーズ2作目のこの作品を角川文庫版と創元推理文庫版の各新訳で読んだ。私にとってクイーンの国名シリーズは小学生の頃から親しみ、その後全て読破したと思っていたが、読み終えてこの作品は未読だったことに気がついた。その意味ではとても新鮮であった。

 最初に角川版を読んだ。前にも述べたがこちらは文字が大きく大変読みやすい。そして、翻訳もいかにも英文を日本語に置き換えましたという表現ではなく、日本語として違和感のない文体なのでとてもスムーズに物語を追うことができた。だからといって意訳に徹しているわけでないのは創元文庫版と見比べるとわかる。この辺は訳者の力量と言うことか。二人の訳者の名前が見られるのは、編集者も含めていろいろ吟味しているのかもしれない。

 この作品は、事件が発生した日一日の状況を中心に、最終章は2日後の朝という極めて短期間での様子が描かれている。「エジプト十字架」のように長い期間にわたる物語ではないので非常にテンポよく進行する。そして最後の一文で犯人が名指しされて終わるということでも有名だ。そこに至るまでいくつかエラリーが父親のクイーン警視と事件について話し合う場面があり、いわゆる推理小説としてのロジックを堪能できる部分も多い。特に最終場面の関係者を一堂に集めて事件を説明する定番シーンで、消去法で犯人を特定していく論理的説明にはぞくぞくするほどだ。ただ、ある重要な手がかりが見つかるがそれだけで犯人が特定できるのではと、ついつっこみを入れたくなる部分があったのも事実だ。即ちそれはタイトル「白粉」の意味にも関連するのだが、読了したから言えることではある。

 さて、創元推理文庫版の方は正確には流し読みである。以前も話題にしたが、両者の一番大きな和訳上の違いはクイーン親子間の会話である。エラリーが父親と対等の話し方をするのが角川版、上下を意識した話し方をするのが創元版。角川版「ローマ帽子」を最初に読んだ時はエラリーの口調に違和感を覚えたものだが、私は今は角川版の方が合っている気がする。日常的に格言を引用したり、外国語や比喩を使った話し方をするエラリーという若者は、私からすると高慢でちょっと気取ったイヤな奴という印象を持つ。そんな若者が親に対し丁寧な言葉遣いをするはずがないのではと感じる。このことについて解説のところで訳者がそのようにした理由について述べているので興味のある方はご覧いただきたい。(ちなみに、角川・創元の両者とも「解説」がとても面白い。)

 創元版の方もよくこなれた日本語なので読みやすい。クイーンが描いたというデパート全体図以外の部屋の見取り図が、角川は立体図、創元は平面図と違っていたり、細かい訳文の違いも確かにあるが、そんなことをとおして作品をさらに理解することになるのだろう。

 犯人が指摘される場面で終わるこの作品、登場人物達のその後がどうなったのか気になって仕方がない。特に、冒頭にとってもイヤな人物として紹介される新警察署長の様子がとても気がかりだ。そんなことも含めて思いつくままにこの小説について述べてみたが、一言でまとめるなら、「面白かった。」となる。次は「オランダ」を飛ばして「ギリシャ棺の秘密」(角川版)に進んでみよう。


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