りとるぱいんわーるど

ミュージカル人形劇団“リトルパイン”の脚本の数々です。

“ゲルダ” ―全8場―

2012年09月03日 19時32分00秒 | 未発表脚本


    〈 主な登場人物 〉

    ゲルダ  ・・・  本編の主人公。

    カイ  ・・・ゲルダのボーイフレンド。

    フロル  ・・・  天使。

    トロル  ・・・  小鬼。

    天上界の女王。

    雪の女王。

    シスター。

    クラウス  ・・・  少年。

    老婆。


 ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪

   
         開演アナウンス。

    ――――― 第 1 場 ―――――

         音楽流れ、幕が上がる。
         中央スポットに手鏡を持った一人の小鬼
         (トロル)浮かび上がる。

  トロル「(嬉しそうに鏡を見て。)見てみろ、この美しい鏡・・・。こ
      れは今までにオイラが作ったものの中で、一番素敵で愉
      快な代物だ!(笑う。)」

         トロル、歌う。

         “こんな愉快なことはない!
         見てみろこの不思議な鏡
         普通そうだが普通でない
         恐ろしくワクワクするこの鏡
         これに映ると全てが悪に早変わり
         これを覗くと全部が悪そのもの
         良い心や優しい思いは
         丸で氷のようにカチンコチン
         役立たずや余計なことは
         ぐんとでっかく のさばり出すんだ
         綺麗な山並みの景色は
         丸で火山のクレーター
         こんな楽しいことはない!
         良い人間は悪い人間に
         正直者は嘘吐きに!!”

  トロル「さぁて、一体誰にこの鏡を見せてやろうか・・・。ワクワク
      するねぇ・・・。(鼻歌を歌う。)そうだ!!こいつを天使の
      奴らに見せたら如何なるかな。あいつらみーんなオイラ
      の手下だ!!(笑う。)」

         トロル、嬉しそうに下手へ行きかけると、
         下手より一人の天使(フロル)登場。
         トロル、フロルを認め立ち止まる。

  フロル「またそんな悪いことを考えてる・・・(呆れたように。)」
  トロル「げっ・・・おまえ何しに来たんだよ・・・。オイラは別に何も
      悪いことなんて・・・」
  フロル「じゃあ、その手に持ってる鏡は何だよ。さっきからベラベ
      ラ嬉しそうに、その鏡がどう言う鏡か話してたじゃないか。
      」
  トロル「それは・・・!(何か思いついたように、ニヤリと笑って。)
      ・・・おまえも見たいか?(鏡をフロルの方へ差し出す。)」
  フロル「(サッと避けて。)お生憎様!僕はそんなに簡単には引
      っ掛かんないよ!」
  トロル「映してみなよ!どうなるか!!」
  フロル「そんな危ない鏡、こっちに貸せよ!!(鏡を取ろうとする
      。)」
  トロル「いやだ!!オイラはこれから地上に行って・・・!!」
  フロル「そんなことをしたら・・・!!」

         トロル、フロル、鏡の奪い合いをする。

  トロル「取れるものなら取ってみな!!(鏡を後方へ放る。)」
  フロル「あっ!!やめ・・・!!」

         フロル、慌てて後方へ走り、下を覗き込むように。
         鏡が落下し、粉々に砕け散る音が響き渡る。
         トロル、後方へ。下を見る。

  トロル「あああ・・・粉々だ・・・」
  フロル「“あああ”じゃないだろ!!どうするんだよ!!あんな鏡
      の破片が人間の心臓に刺さったら、皆氷のように冷たい
      心になる・・・目に入ったら、皆悪いことしか見えなくなるん
      だ!!」
  トロル「仕方ないだろ?おまえが無理矢理取ろうとするから・・・」
  フロル「それにしても、よりによって地上に放り投げるなんて・・・
      !!天上界の女王様に見つかったら・・・」

         その時、上手より天上界の女王、登場。

  女王「今の音はどうしたことです・・・?」
  フロル「あ・・・女王様!」

         トロル、気まずい顔をする。

  フロル「それが・・・」
  女王「それが?」
  フロル「その・・・トロルが鏡を地上へ・・・粉々に・・・」
  トロル「それはおまえが・・・!!」
  女王「・・・なんですって・・・?」

         トロル、フロルの顔を見合わせて下を向く。

  女王「トロル・・・あなたはまた、くだらない悪戯を考えましたね?
     」
  トロル「オイラ別に・・・!」

         その時、静かに冷風が吹き荒ぶ。
         (女王の怒りのよう。)

  フロル「(小声でトロルに。)女王様が怒りだしたぞ!!トロル!
      !今のうちに早いとこ謝れよ・・・!!」
  トロル「・・・いやだよ・・・!!」

         風、益々激しくなり、トロル、フロル立って
         いるのが危ういよう。

  フロル「(震える。)トロル・・・!!凍えるよ・・・!!」
  トロル「い・・・へっくしゅん!!(くしゃみをする。思わず。)わ・・・
      分かった!!分かったよ!!オイラが悪かったよ!!だ
      から女王様、ごめんなさい!!許して下さい!!」

         風、急に静かになる。トロル、フロル、ホッと
         したように。

  トロル「・・・おっかねぇなぁ・・・」
  女王「(優しく、だが厳しい口調で。)これは2人の責任です。直
     ぐに地上へ降りて、全ての鏡の破片を集めてくるのです。
     いいですか?全て探し出し元の鏡に戻すまで、ここへ帰っ
     て来ることは許しません。分かりましたね?」
  フロル、トロル「えーっ!!そんなー!!」
  女王「なにか問題でも・・・?」
  トロル「い・・・いや・・・」
  フロル「べつに・・・」
  女王「それでは直ぐに出掛けなさい。よろしいですね・・・?」

         女王、ゆっくり上手へ去る。

  トロル「(女王が去るのを見計らって。)おまえのせいだぞ!!」
  フロル「よく言うよ!!」
  トロル「おまえのせいで、とんでもねぇことになっちまったじゃね
      ぇか!!」
  フロル「それはこっちの台詞だ!!(溜め息を吐いて。)仕方な
      い・・・行こう・・・」
  トロル「(溜め息を吐いて。)・・・やれやれ・・・」

         音楽流れ、フロル、トロル、呼応するように
         歌う。

      フロル“鏡の破片を見つけるんだ
          人の心に刺さると大変だ”

      トロル“鏡の破片を見つけるんだ
          人の心に刺さると面白い”
  
      フロル“優しい心は全部なくなる
          思い遣りなんてとんでもない”

      トロル“早く探し出すんだ
          全ての心が凍る前に”

      フロル“心を氷に変えて
          何があろうと冷酷だ”

         フロル、中央から客席へ。トロル続く。
         フロル下手方へ。トロル、上手方へ行きかける。

  フロル「(トロルに気付いて。)こっちだよ!!」
  トロル「(溜め息を吐いて。)どっちだっていいじゃないか・・・。あ
      ああ・・・面倒くさい・・・。おい、待ってくれよ!!」

         フロル、下手へ去る。慌ててフロルの後を
         追うように、トロル下手へ去る。
         暗転。

    ――――― 第 2 場 ―――――

         フェード・インする。公園。
         中央にはベンチ(腰掛けるもの。)が一つ
         置いてある。
         音楽流れ、上手より幸せそうに手を取り合った
         恋人達(カイ、ゲルダ)登場。歌う。

  ゲルダ「寒くなったわね・・・。」

      カイ“僕が金持ちなら
         暖かなセーターを
         プレゼントするのに・・・”

  ゲルダ「そんなのいらないわ。」

      カイ“僕が裕福なら
         美味しい食事で
         君を持て成すのに・・・”
    
      ゲルダ“私はあなたがいればいい
           あなたの心は
           どんな暖炉より暖かよ・・・”

  カイ「だけど君の手はこんなに凍えてる・・・。」

      ゲルダ“あなたに包まれた
           私の手は冷たくても
           あなたの隣にいるだけで
           心は丸で春の日溜まりのように
           温もり溢れる・・・”

      2人“どんな毛布も
         あなたの腕の中には敵わない
         どんなストーブも
         私達の心の炎には勝てやしない”

         カイ、首に巻いていたマフラーを外し、
         ゲルダの首に掛ける。

  ゲルダ「(嬉しそうに微笑んで。)ありがとう・・・。」
  カイ「(微笑んで。)うん・・・。」

         その時、チラチラと小雪が舞い落ちる。

  ゲルダ「(上を見上げて。)雪・・・?」
  カイ「(上を見て。)本当だ・・・。いよいよ雪の女王が冬を連れて
     やって来るんだな。」
  ゲルダ「カイは、子どもの頃から“雪の女王”のお話しが好きね
       。」
  カイ「うん・・・。なんだか神秘的だと思わないかい?寒くて暗い
     冬も、雪の女王と共に現れるんだと思ったら、楽しみになっ
     てくるじゃないか。」
  ゲルダ「そうね・・・。でも私は少し怖いわ・・・。だって女王は冬
       の夜には町の通りを飛び回り、あっちこっちの窓から覗
       き込むと、奇妙なことに窓は凍りついて、花が咲いたよ
       うになる・・・なんて・・・。」
  カイ「大丈夫さ。雪の女王がゲルダに何かしようとしたなら、僕
     が命をかけて君を守る・・・。」
  ゲルダ「カイ・・・」

         カイ、ゲルダの手を取り見詰める。
         (その時、“キラキラ”と何かが空から
         舞い落ちる。)

  カイ「・・・痛・・・(胸を押さえる。)」
  ゲルダ「・・・どうしたの?(心配そうに。)」
  カイ「うん・・・今、チクッと・・・。なんでもない、大丈夫だよ。(微
     笑む。)」
  ゲルダ「そう、よかった。」
  カイ「あ・・・(目を押さえる。)目にゴミが・・・(目をパチパチさせ
     る。)」
  ゲルダ「大丈夫?」
  カイ「・・・平気さ・・・」
  ゲルダ「見てあげるわ。」
  カイ「・・・ありがとう・・・」
  ゲルダ「こっちへ来て座って。(ベンチの方へ、カイの手を取り導
       く。)」

         カイの様子が、忽ち無表情の心無い人形の
         ように変化していく。

  カイ「(ゲルダの手を振り解く。)・・・煩いな・・・平気だって言って
     るだろ・・・」
  ゲルダ「・・・カイ・・・?」
  カイ「僕、寒いんだ・・・。そのマフラー、早く返してくれよ・・・(ゲ
     ルダからマフラーを奪うように取り上げ、自分の首に巻く。)」
  ゲルダ「・・・どうしちゃったの・・・カイ?」
  カイ「・・・どうもしてやしないさ・・・」
  ゲルダ「でも・・・カイったら・・・さっきまでとは丸で別人みたいに
       ・・・」
  カイ「別人・・・?僕はいつもの僕さ・・・」
  ゲルダ「違うわよ・・・!!」
  カイ「なんて顔してるんだ、全く・・・(声を上げて笑う。)」
  ゲルダ「酷いわ、カイ・・・。私はあなたのことを心配して・・・」
  カイ「心配なんてご免だ!!放っといてくれ!!」
  ゲルダ「カイ!!(泣く。)」
  
         カイ、下手方へ行きかけると、下手より
         雪の女王、ゆっくり登場。カイを見詰め佇む。
         カイ、雪の女王を認め、呆然と立ち止まり
         見詰める。

  カイ「・・・雪の女王・・・」
  ゲルダ「・・・雪の女王・・・?」
  雪の女王「私と一緒に来る・・・?」
  カイ「(嬉しそうに微笑んで。)勿論!!僕はあなたに付いて行
     く・・・。」
  ゲルダ「・・・何を言ってるの、カイ・・・?(雪の女王は見えてい
       ないように。)誰と話しているの・・・?(不安そうに。)」

         カイ、ゲルダの声は全く耳に入っていない
         ように、雪の女王に引き寄せられ、2人
         寄り添うようにゲルダの横を通り、上手へ
         去る。

  ゲルダ「何処行くの、カイ!!」

         ゲルダ、慌ててカイを止めようとするが、
         何かに阻まれるように立ち止まる。

  ゲルダ「カイ!!待って、カイ!!行かないで!!(呆然と。)
      一体どうしたって言うの・・・」

         音楽流れ、ゲルダ涙を堪えるように歌う。

         “どうしたの・・・
         急にあなたは変わったわ・・・
         丸で氷に包まれた
         感情のない瞳で私を見詰める・・・
         さっきまで・・・
         誰よりも優しい・・・
         温かな瞳で私を包み込む
         あなただった筈なのに・・・
         何もかも夢だったの・・・?”

         ゲルダ、呆然とベンチに腰を下ろす。
         顔を覆って泣いているよう。
         その時、下手客席よりフロル、続いて
         トロル、話しながら登場。上手より舞台へ。

  トロル「(だるそうに背を丸くして。)おい!お次の破片は一体ど
      こにあるのさ!オイラもう疲れちまったぜ・・・」
  フロル「情けないなぁ・・・誰のせいで、こんなことやってると思っ
      てるのさ。元はと言えば君が・・・」
  トロル「(フロルの言葉を遮るように。)分かった、分かった!元
      はと言えば、何もかもオイラの作った鏡のせいさ!!もう
      いつまでも煩いんだよ。天使のくせに細かいことにウジウ
      ジと・・・。しかし、あの鏡の面白さが分からねぇようじゃ、
      天上界の女王もたいしたことねぇな。(笑う。)」

         その時、突風が吹き抜け、トロル、フロル
         一瞬よろめく。

  フロル「しっ!!何時でも何処でも女王様は、僕達のことを見て
      るんだ!!」
  トロル「ちぇっ・・・」

         フロル、ゲルダを認め、その様子に何かを
         感じたようにゆっくり近寄る。
         トロル、周りに破片が落ちていないか探し
         ている。

  フロル「(ゲルダの視界に入るように、前へ跪く。)こんにちは。(
      微笑む。)」








       ――――― “ゲルダ”2へつづく ―――――








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