
15日、世界平和サミットで演説するゼレンスキー氏=AP
【ビュルゲンシュトック(スイス中部)=田中孝幸】
ウクライナが提唱する和平案を話し合う「世界平和サミット」は16日、2日間の日程を終えて閉幕する。議長国のスイスの主導で、食料安全保障など3項目で構成する共同声明を採択する見通しだ。
会議はウクライナの侵略を続けるロシアへの国際的圧力を高めるのが狙いだったが、期待していた新興国の支持は思うように広がらなかった。有力な仲介国も不在で、和平への道筋は見いだせていない。
「今日は世界が公正な平和に近づき始める日だ」。ウクライナのゼレンスキー大統領は15日の会議で、集まった各国首脳に和平への第一歩としての今回のサミットの意義を強調した。
ウクライナは今回、参加国数を最重視してきた。議題も主に核を巡る安全保障や食料安保の強化、捕虜やロシアに連れ去られた子供の帰還に絞り、紛争に中立的な国も出席しやすい設定にした。
主催国のスイスの発表によると計100の国・機関が参加したが、首脳級を派遣したのは57カ国にとどまる。大半がすでにウクライナを支援している欧州の域外から首脳を送ったのは20カ国だった。

20カ国・地域(G20)の新興国で首脳を派遣したのはアルゼンチンだけで、大半が閣僚や特使レベルの代表団を送った。中国はロシアが招待されていないことを理由に不参加を決めた。
主要7カ国首脳会議(G7サミット)でイタリアを訪れたインドのモディ首相やトルコのエルドアン大統領はいずれも隣国スイスでの平和サミットへの出席は見送り、閣僚を派遣した。
参加国数が伸び悩んだ背景には、西側諸国と中ロの権威主義国家の対立に巻き込まれることへの警戒感が広がったことがある。会議準備に関与したG7の高官は「大半の新興国はロシアが不参加でウクライナ支持色が強い会議への関与をためらっていた」と明かす。
ウクライナがロシア軍の攻撃に劣勢を強いられていることも一因になっている。ロシアのプーチン大統領は14日、和平の条件として一方的に併合を宣言した4州からのウクライナ軍の撤退を要求。両国の立場の大きな隔たりを印象づけた。
サウジアラビアのファイサル外相は会議で、和平交渉にはロシアの参加が不可欠で「困難な妥協」が必要になると指摘した。トルコのフィダン外相もロシアの参加が求められるとの考えを示した。
インスブルック大(オーストリア)のゲルハルト・マンゴット教授(国際関係学)は「仲介役を担える有力な新興国が不参加の今回の会議には限界があった」と指摘した。「次の会議はロシアを巻き込み、サウジなどグローバルサウスの国で開催される可能性がある」と語る。
その布石とみられる動きも出ている。ゼレンスキー氏は12日、サウジを予告なしに訪れ、ムハンマド皇太子と会談。国営サウジ通信は、皇太子が紛争解決に向けた「全ての国際的取り組みに対する熱意と支持」を確認したと報じた。
2022年2月、ロシアがウクライナに侵略しました。戦況や世界各国の動きなど、関連する最新ニュースと解説をまとめました。
日経記事2024.06.16より引用