発射される地対地ミサイル「ATACMS」(資料映像)。 ウクライナは数カ月前から、
この長距離ミサイルの供与をアメリカに強く求めていた
ジョー・バイデン米大統領は、ロシアの侵攻に対するウクライナの反転攻勢を支援するため、長距離射程の地対地ミサイル「ATACMS(陸軍戦術ミサイル・システム)」をウクライナに供与する方針だと、複数の米メディアが22日伝えた。
米NBCニュースと米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、複数の匿名米政府関係者の話として、バイデン大統領がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に、「少数」のATACMSを供与する方針を伝えたと報じた。 両大統領は21日、ホワイトハウスで会談している。
WSJは、ATACMSが数週間のうちにウクライナに送られると書いている。
ATACMSの最大射程は約300キロ。これをウクライナが入手すれば、前線のはるか後方までロシアの標的を攻撃できるようになる。
米紙ワシントン・ポストは複数の消息筋の話として、アメリカが提供するATACMSは単一弾頭のものではなく、クラスター弾を搭載する旧式のタイプだと伝えた。
アメリカとウクライナの両政府はどちらも、複数のアメリカ・メディア報道の内容を認めていない。
バイデン氏とゼレンスキー氏がホワイトハウスで会談後、アメリカ政府は3億2500万ドル(約481億円)の追加軍事支援を発表。高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」用の砲弾をはじめ、多数の砲弾・弾薬などを提供するという。
アントニー・ブリンケン米国務長官は声明で、ウクライナの反転攻勢を強化する追加支援の内容として「砲弾・弾薬や対戦車防衛力、クラスター弾」を挙げている。
さらに、アメリカが既に供与を決定していた主力戦車「M1エイブラムス」が来週にも、ウクライナに届けられる見通し。
ただし、両大統領はATACMSについては明言を避けている。
22日にカナダ・オタワを訪れたゼレンスキー氏は、ATACMSの供与が決まったという報道について記者団に質問され、「バイデン大統領と昨日話し合った大多数の内容について、合意できると思う」とした上でゼレンスキー氏は、「(これは)時間の問題だ。なんでもかんでもウクライナ次第というわけではない」とも述べた。
ウクライナは数カ月前から、南部での反転攻勢においてATACMSが必要だと力説していた。ATACMSの射程距離があれば、前線のはるか後方に控えるロシアの重要な補給線や司令拠点、補給ハブなどを攻撃できるようになると、ウクライナは主張。そうすればロシアはそうした重要拠点を後退させるしかなくなり、その結果、前線の部隊の補給が困難になると、ウクライナは説明してきた。
これによって、クリミアをはじめ、ロシアが占領するウクライナ南部において、ロシアは特に不利な状態に陥ると、ウクライナは主張している。
22日にはウクライナのミサイル攻撃が少なくとも1発、クリミア・セヴァストポリにあるロシア黒海艦隊の司令部を直撃した。
ウクライナ軍関係者はBBCに対して、このセヴァストポリ攻撃は、イギリスとフランスが供与した長距離巡航ミサイル「ストームシャドウ」を使用したものだと話し、西側が提供する武器の重要性を強調した。ストームシャドウの射程距離は250キロ以上。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が昨年2月にウクライナ侵攻を開始した当初、バイデン政権は最新兵器をウクライナに提供することをためらっていた。
しかし、昨年6月にはHIMARSの提供を決定し、昨年12月には地対空ミサイルシステム「パトリオット」の提供を決定。武器供与についての姿勢を、バイデン政権は劇的に変化させてきた。
それでもなお、バイデン大統領はロシアとアメリカという核保有国同士の直接対決につながりかねないという懸念から、ATACMSの提供には慎重な態度をとっていた。
(英語記事 Ukraine war: US to give Kyiv long-range ATACMS missiles - media reports)
BBC NEWS 2023.09.23より引用