本日、2015年8月9日、安倍首相は長崎原爆の日の記念式典で次のようにあいさつしました。
「今日の復興を成し遂げた長崎の街を見渡すとき、改めて平和の尊さを噛(か)みしめています。そして、世界で唯一の戦争被爆国として、非核三原則を堅持しつつ、「核兵器のない世界」の実現に向けて、国際社会の核軍縮の取り組みを主導していく決意を新たにいたしました。
特に本年は、被爆70年という節目の年です。核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議では、残念ながら最終合意には至りませんでしたが、我が国としては、核兵器国と非核兵器国、双方の協力を引き続き求めつつ、「核兵器のない世界」の実現に向けて、一層の努力を積み重ねていく決意です。この決意を表明するため、本年秋の国連総会に新たな核兵器廃絶決議案を提出いたします。」
このように、安倍首相は、まるで自分たちが真摯に核兵器廃絶のために国際社会で努力しているかのよう言います。
しかし、日本の多くの市民には知られず、また信じがたいことだと思いますが、「唯一の被爆国」として核兵器廃絶を主張しているはずの日本の政府は、核兵器廃絶禁止条約締結の足を引っ張り続けているのです。
2014年末に開かれた国連総会は12月2日、軍縮・国際安全保障問題を扱う第1委員会に付託された63本の決議を採択しました。このうち32本は無投票で採択され、残りが採決に付されました。核軍縮関連は21本で、そのうち主な決議の採決状況は冒頭の表の通りです。
驚くべきことに、「唯一の被爆国」を旗印にかかげ核兵器の廃絶を目指しているはずの日本が、アジアの核保有国である中国・北朝鮮・インド・パキスタンが賛成した核兵器使用禁止条約に棄権していることがわかります。
中国・北朝鮮が賛成している核兵器禁止条約に反対する日本に広島・長崎への訪問を呼び掛ける資格はない
NPT再検討会議2015
そればかりか、同じくこの4か国が賛成している国際司法裁判所の勧告的意見の後追いにも棄権しています。
この国際司法裁判所の勧告的意見とは、国際人道法の見地から見て核兵器による威嚇・核兵器の使用は一般的に見て国際法違反であるという内容の勧告です。
国際司法裁判所に核兵器の違法性について勧告的意見を求めた世界法廷運動についての個人的思い出
これら、非同盟諸国を中心に提出された「国際司法裁判所の勧告的意見の後追い」「核兵器使用禁止条約」「2013年国連総会核軍縮ハイレベル会合の後追い」の決議はいずれも、核兵器禁止条約の国際交渉開始を求めています。
この3つの決議に、核保有国の米英仏ロはそろって反対ないし棄権しました。
つまり、日本がこの3つの決議に棄権するということは、日本はアメリカに追随して、核兵器を禁止すべきではないという立場を取っていることを意味しています。
ちなみに、日本はこの国連総会でも毎年のように出している「核兵器の全面廃絶に向けた共同行動」決議を提案し、賛成多数で採択されましたが、同決議は核兵器をいずれ廃絶しようというだけで、核兵器禁止条約の交渉開始を求めていません。
これは日本国民の期待を裏切る恐るべき事態ではないでしょうか。
2015年4月から5月にかけて開かれていたNPT条約(核拡散防止条約)の再検討会議について、日本のマスコミは最終文書に日本政府が入れることを希望していた広島・長崎に各国首脳が訪れるように要望するという条項が、中国の反対で入らなかったということばかり報道していました。
しかし、最終文書素案には入っていたのに最終文書原案で削られてしまった最重要の項目は核兵器禁止条約の締結でした。
そして、それにはやはり日本も反対して削除に一役買っているのです。
そもそも、この核兵器禁止条約の締結への呼びかけは、2014年12月の核兵器の非人道性に関する第3回国際会議を受けて、核兵器の禁止に向けて行動することを呼びかける「オーストリアの誓約(プレッジ)」に基づくものです。
この提案には100か国以上が賛成しました。
ところが、再検討会議を翌月に控えた2015年3月18日の参議院予算委員会で、安倍首相は
「いたずらに核保有国との関係に溝を作り、一歩も理想に近づくことにならないアプローチは取らない」
と述べて、この決議案に賛同しないという立場を明らかにしたのです。そして、これを受けて日本は今回のNPT再検討会議でも核兵器禁止条約に反対したのです。
にもかかわらず、日本政府が広島・長崎への訪問を世界に呼びかけても説得力がないのです。
NPT再検討会議が開かれている国連のあるニューヨークで核廃絶をアピールする被爆者と市民の方々。
真ん中は、式典であいさつなさった長崎の被爆者谷口稜曄(すみてる)さん。
この再検討会議で、広島、長崎両市長はそれぞれスピーチしました。
松井一実広島市長はその中で
「私は、核兵器のない世界の実現には核兵器禁止条約もしくは同様の目的を持った法的枠組みが必要であると確信しています。核不拡散条約(NPT)の第6条は、核兵器保有国だけでなく、全ての締約国に対し、誠実に核軍縮交渉を行うことを求めています。
しかし、NPT発効から45年経った今もまだ、核兵器の全面禁止には大きな法的隔たりがあります。今まさに、一刻も早く、NPT締約国がこの法的隔たりを埋めるための交渉、特に核兵器禁止条約に関する交渉を始めるべき時が来ているのです。」
として、核兵器禁止条約を締結するように求めました。
田上富久長崎市長は
「「核の傘」ではなく非核兵器地帯という「非核の傘」を拡大する必要があります。私たちが住む北東アジア地域でも、北朝鮮の核をめぐる緊張があります。
日本政府におかれましては、北東アジアの安定のためにも韓国や北朝鮮に働きかけ、「北東アジア非核兵器地帯」の創設に向け努力するよう求めます。」
と北東アジア非核地帯条約を作れと日本政府に迫りました。
広島市 松井一実市長 スピーチ全文 長崎市 田上富久市長 スピーチ全文
会議でスピーチする松井広島市長(左)と田上長崎市長
これに対して日本の外務省はアメリカの核の傘について、
「国際社会においては、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在している中で、日本の安全に万全を期すためには、核を含む米国の抑止力の提供が引き続き重要」
としており、アメリカの核兵器が必要だとしています。
しかし、先にも述べたように、驚くべきことに核兵器禁止条約には中国も北朝鮮も賛成しています。つまり、これら両国はアメリカに対する抑止力として保有していることがわかります。また、両国は世界に一万数千発残る核弾頭のうちあわせて数百発しか核を保有していません。
ですから、北東アジアで核兵器を禁止する条約が締結され、アメリカも核を手放すことになれば、核兵器を自らも手放すことに反対はしないという構えなのです。
したがって、日本は北東アジア非核地帯条約締結のために努力し、段階的にアメリカの核も含めて削減していけばいいのです。
ちなみに、外務省によると全世界で非核地帯条約が締結されており、地球の南半球では非核地帯になっていない地域がないのです。
その中でも、アジアではASEAN加盟全10か国が批准して発効している東南アジア非核地帯条約があり、
締約国による核兵器の開発・製造・取得・所有・管理・配置・運搬・実験、領域内(公海を含む)における放射性物質の投棄、大気中への放出を禁止するとともに、自国領域内において他国がこれらの行動(核兵器の運搬を除く)をとること
を許してはならないとしているのです。
日本も核保有国ではないのですから、同じ内容の北東アジア非核地帯条約ができればこれに越したことはないはずです。
核兵器廃絶条約に向けて、まず核兵器使用禁止条約を締結する。これには全世界を非核地帯条約で覆い尽くしていく段階を踏むなどの道筋も精密に提案されています。
「唯一の被爆国」(本当は戦争で被ばくした唯一の国と表現するのが正確)である日本は、核非保有国約180か国で核兵器禁止条約を先に締結し、あとから核保有国に加盟を呼び掛けていく先頭に立つこともできるはずなのです。
しかし、日本はアメリカの核政策に追随して、北東アジア非核地帯条約にも努力せず、核兵器の使用にさえ反対しようとしていないのが現状です。
確かに、上の図にあるように中国・北朝鮮、そしてロシアの核兵器まである北東アジアの核兵器を廃絶するのは容易なことではありません。
しかし、中国と北朝鮮が核兵器禁止条約に賛成しているように、彼らの核兵器保有は主にアメリカに核攻撃されないためのものですから、アメリカに対してアジアに核兵器を持ち込ませず使用もしない交渉をして、米・露・中・朝が核を漸減していく交渉は可能です。
そのためには、いずれはこの地域の核をなくす中で、アメリカの核の傘で守られる必要はないと言わなければなりません。
この核廃絶について、安倍首相は2014年8月の広島、長崎での原爆犠牲者を慰霊する式典で
「人類史上唯一の戦争被爆国として核兵器の惨禍を体験したわが国には、確実に『核兵器のない世界』を実現していく責務がある」
と誓いましたが、日本政府はずっと国内では核廃絶を誓い、国際社会では核兵器禁止条約に反対するという二枚舌を使っているのです。
日本に住むすべての人がこのような現状を知り、アメリカに加担する戦争法制とは逆の、真に核兵器を廃絶する努力をするよう政府に求めていくべきだと思います。
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2015年8月9日11時45分 朝日新聞
昭和20年8月9日午前11時2分、一発の原子爆弾により、長崎の街は一瞬で廃墟(はいきょ)と化しました。
大量の放射線が人々の体をつらぬき、想像を絶する熱線と爆風が街を襲いました。24万人の市民のうち、7万4千人が亡くなり、7万5千人が傷つきました。70年は草木も生えない、といわれた廃墟の浦上の丘は今、こうして緑に囲まれています。しかし、放射線に体を蝕(むしば)まれ、後障害に苦しみ続けている被爆者は、あの日のことを1日たりとも忘れることはできません。
原子爆弾は戦争の中で生まれました。そして、戦争の中で使われました。
原子爆弾の凄(すさ)まじい破壊力を身をもって知った被爆者は、核兵器は存在してはならない、そして二度と戦争をしてはならないと深く、強く、心に刻みました。日本国憲法における平和の理念は、こうした辛く厳しい経験と戦争の反省の中から生まれ、戦後、我が国は平和国家としての道を歩んできました。長崎にとっても、日本にとっても、戦争をしないという平和の理念は永久に変えてはならない原点です。
今、戦後に生まれた世代が国民の多くを占めるようになり、戦争の記憶が私たちの社会から急速に失われつつあります。長崎や広島の被爆体験だけでなく、東京をはじめ多くの街を破壊した空襲、沖縄戦、そしてアジアの多くの人々を苦しめた悲惨な戦争の記憶を忘れてはなりません。
70年を経た今、私たちに必要なことは、その記憶を語り継いでいくことです。
原爆や戦争を体験した日本、そして世界の皆さん、記憶を風化させないためにも、その経験を語ってください。
若い世代の皆さん、過去の話だと切り捨てずに、未来のあなたの身に起こるかもしれない話だからこそ伝えようとする、平和への思いをしっかりと受け止めてください。「私だったらどうするだろう」と想像してみてください。そして、「平和のために、私にできることは何だろう」と考えてみてください。若い世代の皆さんは、国境を越えて新しい関係を築いていく力を持っています。
世界の皆さん、戦争と核兵器のない世界を実現するための最も大きな力は私たち一人ひとりの中にあります。戦争の話に耳を傾け、核兵器廃絶の署名に賛同し、原爆展に足を運ぶといった一人ひとりの活動も、集まれば大きな力になります。長崎では、被爆二世、三世をはじめ、次の世代が思いを受け継ぎ、動き始めています。
私たち一人ひとりの力こそが、戦争と核兵器のない世界を実現する最大の力です。市民社会の力は、政府を動かし、世界を動かす力なのです。
今年5月、核不拡散条約(NPT)再検討会議は、最終文書を採択できないまま閉幕しました。しかし、最終文書案には、核兵器を禁止しようとする国々の努力により、核軍縮について一歩踏み込んだ内容も盛り込むことができました。
NPT加盟国の首脳に訴えます。
今回の再検討会議を決して無駄にしないでください。国連総会などあらゆる機会に、核兵器禁止条約など法的枠組みを議論する努力を続けてください。
また、会議では被爆地訪問の重要性が、多くの国々に共有されました。
改めて、長崎から呼びかけます。
オバマ大統領、核保有国をはじめ各国首脳の皆さん、世界中の皆さん、70年前、原子雲の下で何があったのか、長崎や広島を訪れて確かめてください。被爆者が、単なる被害者としてではなく、“人類の一員”として、今も懸命に伝えようとしていることを感じとってください。
日本政府に訴えます。
国の安全保障は、核抑止力に頼らない方法を検討してください。アメリカ、日本、韓国、中国など多くの国の研究者が提案しているように、北東アジア非核兵器地帯の設立によって、それは可能です。未来を見据え、“核の傘”から“非核の傘”への転換について、ぜひ検討してください。
この夏、長崎では世界の122の国や地域の子どもたちが、平和について考え、話し合う、「世界こども平和会議」を開きました。
11月には、長崎で初めての「パグウォッシュ会議世界大会」が開かれます。核兵器の恐ろしさを知ったアインシュタインの訴えから始まったこの会議には、世界の科学者が集まり、核兵器の問題を語り合い、平和のメッセージを長崎から世界に発信します。
「ピース・フロム・ナガサキ」。平和は長崎から。私たちはこの言葉を大切に守りながら、平和の種を蒔(ま)き続けます。
また、東日本大震災から4年が過ぎても、原発事故の影響で苦しんでいる福島の皆さんを、長崎はこれからも応援し続けます。
現在、国会では、国の安全保障のあり方を決める法案の審議が行われています。70年前に心に刻んだ誓いが、日本国憲法の平和の理念が、今揺らいでいるのではないかという不安と懸念が広がっています。政府と国会には、この不安と懸念の声に耳を傾け、英知を結集し、慎重で真摯(しんし)な審議を行うことを求めます。
被爆者の平均年齢は今年80歳を超えました。日本政府には、国の責任において、被爆者の実態に即した援護の充実と被爆体験者が生きているうちの被爆地域拡大を強く要望します。
原子爆弾により亡くなられた方々に追悼の意を捧げ、私たち長崎市民は広島とともに、核兵器のない世界と平和の実現に向けて、全力を尽くし続けることを、ここに宣言します。
2015年(平成27年)8月9日 長崎市長 田上富久
2015年08月09日 毎日新聞
本日ここに、被爆七十周年長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典が執り行われるに当たり、原子爆弾の犠牲となられた数多くの方々の御霊(みたま)に対し、謹んで、哀悼の誠を捧(ささ)げます。
そして、被爆による後遺症に、今なお苦しんでおられる方々に対し、衷心(ちゅうしん)よりお見舞いを申し上げます。
あの日投下された原子爆弾により、長崎の地が、草木もない焦土と化してから70年が経(た)ちました。当時、7万ともいわれる、あまたの貴い命が奪われました。惨禍の中、生き永らえた方々にも、筆舌に尽くしがたい苦難の生活をもたらしました。
しかし、苦境の中から力強く立ち上がられた市民の皆様によって、世界文化遺産と美しい自然に恵まれた国際文化都市が、見事に築き上げられました。
今日の復興を成し遂げた長崎の街を見渡すとき、改めて平和の尊さを噛(か)みしめています。そして、世界で唯一の戦争被爆国として、非核三原則を堅持しつつ、「核兵器のない世界」の実現に向けて、国際社会の核軍縮の取り組みを主導していく決意を新たにいたしました。
特に本年は、被爆70年という節目の年です。核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議では、残念ながら最終合意には至りませんでしたが、我が国としては、核兵器国と非核兵器国、双方の協力を引き続き求めつつ、「核兵器のない世界」の実現に向けて、一層の努力を積み重ねていく決意です。この決意を表明するため、本年秋の国連総会に新たな核兵器廃絶決議案を提出いたします。
8月末に広島で開催される包括的核実験禁止条約賢人グループ会合並びに国連軍縮会議に続き、11月には、パグウォッシュ会議がここ長崎で開催されます。更に来年には、G7外相会合が広島で開催されます。これらの国際会議を通じ、被爆地から我々の思いを、国際社会に力強く発信いたします。また、世界の指導者や若者が被爆の悲惨な現実に直(じか)に触れることを通じ、「核兵器のない世界」の実現に向けた取り組みを前に進めてまいります。
今年、被爆者の方々の平均年齢が、はじめて80歳を超えました。高齢化する被爆者の方々に支援を行うために制定された「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」も、施行から20年を迎えました。引き続き、保健、医療、福祉にわたる総合的な援護施策を、しっかりと進めてまいります。
特に、原爆症の認定につきましては、申請された方々の心情を思い、一日も早く認定がなされるよう、審査を急いでまいります。
結びに、亡くなられた方々のご冥福と、ご遺族並びに被爆者の皆様のご多幸をお祈り申し上げるとともに、参列者並びに長崎市民の皆様のご平安を祈念いたしまして、私のご挨拶(あいさつ)といたします。
平成27年8月9日
内閣総理大臣・安倍晋三
来月ニューヨークで開幕する核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向け、オーストリアが核兵器禁止を呼び掛け国連全加盟国に配布した文書について、日本政府が賛同を見送る方針を固めたことが12日、分かった。米国が「核の傘」への影響を理由に日本を含む同盟国などに不賛同を働き掛けていた。複数の日本政府当局者や外交筋が明らかにした。
オーストリアは昨年末の「核兵器の非人道性に関する国際会議」の議長国。同会議で文書を発表、再検討会議にも文書を提出し、核禁止の論議を本格化させる狙いがある。
政府は核の傘に頼る安全保障政策との整合性から、オーストリアの文書が「核兵器を禁止、廃絶する」条約の必要性を訴えている点を問題視、不賛同が適切と判断した。
日本は毎年、国連総会で核兵器廃絶決議案の採択を主導。しかし禁止条約については「交渉の機は熟していない」と否定的な立場だ。
米国務省当局者も文書に不支持を表明し「有望なのはNPT加盟国の総意を反映した、より現実的なアプローチだ」と語った。
日本は、文書を通じ核兵器禁止条約への態度表明を迫られた格好だったが、日米同盟を重視し「ノー」で応じる展開となった。再検討会議の場では広島や長崎の被爆者らが禁止条約制定を訴える予定で、反発と落胆が広がりそうだ。
オーストリアは1月中旬、文書への賛同を各国に要請した。日本は外務省が精査し「レッドライン(譲れない線)を越えている」と判断。賛同しない一方、再検討会議成功と核軍縮促進へ向け、協力していく考えを伝えることを検討している。
米政府高官が2月に訪日し不賛同を促していた。米国は核の非人道性をめぐる問題に熱心なノルウェーなど一部の北大西洋条約機構(NATO)加盟国にも同様の働き掛けをしている。
文書にはこれまで40~50カ国が賛同を表明。オーストリア外務省は「核保有国や、核の傘の下にある国からの賛同はない」としている。(ワシントン、ウィーン、東京共同)
2015年5月23日13時49分 朝日新聞
私たちが生きている間に核兵器廃絶はできないのか――。核不拡散条約(NPT)再検討会議が決裂した。核保有国の反対で「核兵器禁止条約」の文言などが削除された最終文書案さえも採択できず、被爆者に失望や憤りが広がった。
特集:核といのちを考える
参加国に核兵器廃絶の願いを届けようと渡米した広島県原爆被害者団体協議会(坪井直理事長)の箕牧智之(みまきとしゆき)副理事長(73)=同県北広島町=は「がっかりだ。この怒りをどこにぶつければいいのか」と憤った。
現地で被爆体験を証言し、市民には思いが伝わったという感触はあった。だが、最終文書案から核兵器禁止条約の文言が削られるなどし、「核保有国との溝は予想以上だ」と感じていた。その文書案も米国などの反対で採択されず、「5年に1度の人類の生き残りをかけた会議のはずなのに。オバマ大統領がノーベル平和賞をもらった米国がどういうことなのか。私たち被爆者の命も残りわずか。生きている間に核兵器廃絶はできないのだろうか」と失望した。
日本政府が提案した「世界の政治指導者らの被爆地・広島長崎訪問」を弱めた、核兵器の被害者らとの交流を呼びかける文言も消え去った。「採択されず悲しいが、我々が粘り強く証言して訴えていきたい」と語った。
寝屋川市原爆被爆者の会(大阪府寝屋川市)の山川美英会長も「けしからんとしか言いようがない」と話した。4月末から4日間、寝屋川の会からも被爆者4人がニューヨークに行き、議論を見守ったという。
22日に同市内で開いた報告集会では、再検討会議で被爆地訪問や核兵器禁止条約などの文言が消えていく中、「それでもなんとか合意するのでは」と参加者らは望みを捨てていなかったという。山川さんは「これまでの議論を10年分は後退させるような結末。核保有国の横暴にどう向き合えばいいのか」と話した。
会議で「核兵器は絶対悪」と演説し、速やかに核兵器禁止条約の交渉を始めるよう求めた広島市の松井一実(かずみ)市長は「極めて残念だ」とコメントを出した。
一方、オーストリアが提出した核兵器禁止条約の制定をめざす宣言に100を超える国が賛同したとして、「核兵器禁止に向けた法的枠組みの必要性の認識が広がったことを評価したい」と述べた。今後も「市として被爆の実相を『守り、広め、伝える』取り組みを強化する」とし、国際世論に働きかけるという。
渡米して会議にも参加したNGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」国際運営委員の川崎哲さんは「NPTの信頼性が大きく傷つけられた。4週間圧倒的多数の国が核兵器廃絶に向けて取り組んだプロセスを一握りの核保有国がつぶした」と批判する。会議中盤から被爆地訪問を求める文言を最終文書案に盛り込むことに力を注いだ日本政府について、「被爆地訪問は大切なことだが、核兵器の法的禁止や非人道性が会議の本質だった。国際合意を得るための役割は日本政府は果たせていない」と指摘した。
「核兵器禁止」日本は賛同せず 被爆国なのにどうして?【NPT再検討会議】
生物兵器、化学兵器、地雷、クラスター爆弾、これら非人道兵器は、国際的に使用が禁止されている条約がある。しかし、核兵器を禁止する条約は、未だ存在しない――4月下旬からニューヨークの国連本部で開催された核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、核兵器の非人道性が中心議題の一つとなり、107の国々がオーストリアの提唱した核兵器禁止文書に賛同した。しかし、アメリカの「核の傘」の下にある日本は、アメリカに配慮して賛同せず、被爆国として核の恐ろしさを訴えながらも核を否定できないという「二面性」を見せた。
この文書は核兵器の廃絶・禁止に向けた法整備の必要性にも触れている。2月18日朝刊の中国新聞によると、外務省の関係者はこれまで、文書に賛同しない理由について「核の非人道性の議論が、核軍縮のプロセスを分断するものになってはならない」と説明したという。
外務省幹部の言う“核軍縮のプロセス”とは、「段階的なアプローチが唯一の現実的な選択肢」とするアメリカやイギリスなど核保有5大国のやり方を指す。これに対して、急速に核軍縮を目指す国も存在する。その一つがエジプトを中心とするアラブ諸国だ。
エジプトは1974年に「中東非核地帯構想」を提唱して以来国是としており、2010年には、「(中東の)いかなる国も、大量破壊兵器を保有することで安全が保障されることはない。安全保障は、公正で包括的な平和合意によってのみ確保される」と、自国の立場を明らかにした。
中東非核地帯構想にアラブ諸国は賛同するが、NPTに参加せず、核兵器を事実上保有するイスラエルは、「まず、イランなどに対して適用したあとで、イスラエルに適用すべき」というような趣旨の、アラブ諸国とは異なる立場を取る。
核の存在によって、中東地域でイスラエルが覇権を握ることを警戒するエジプトなどアラブ諸国は、2010年に開かれたNPT再検討会議で、中東の非核化を協議する国際会議を2012年に開催することを勧告する内容を条約に盛り込むことを条件に、NPTの無期限延長を受け入れた。しかし、会議が開かれれば、イスラエルの核保有が問題視されるため、結局国際会議が開かれていない。
今回のNPT再検討会議でも、エジプトらは2016年に中東非核化国際会議を開催することをNPTに盛り込もうと提案。しかし、アメリカがイスラエルを擁護して反発し、国際会議を開催する時期について検討期間がないことや、中東各国が平等の立場で、開催合意に至るプロセスが明確化されていない点などをあげ、国際会議の開催を強引に進めるとしてエジプトを名指しで非難。会議は決裂した。
約4週間にわたって行われた再検討会議の実りのない結末に、広島1区選出の岸田文雄外務相は「大変残念」と発言。しかし、核兵器を保有する中国や北朝鮮が身近にあることもあり、外務省は核の傘について、「社会においては、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在している中で、日本の安全に万全を期すためには、核を含む米国の抑止力の提供が引き続き重要」としており、アメリカの核抑止力が必要だと説明している。
今回の日本政府の対応について国際NGOネットワークの核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、「核兵器の恐怖を経験しているにもかかわらず、日本は核軍縮に向けた現実的なビジョンを説明することに失敗した」と指摘した。
<社説>核禁止日本不賛同 二枚舌やめ、廃絶実現を
2015年3月14日 琉球新聞
オーストリアが核兵器禁止を呼び掛け、国連全加盟国に配布した文書について、日本政府が賛同を見送る方針を固めた。米国が「核の傘」への影響を理由に同盟国などに不賛同を働き掛けた動きに応じたようだ。世界唯一の被爆国の日本が核兵器禁止の呼び掛けに賛同しない姿勢は許し難い。
オーストリアは来月ニューヨークで開幕する核拡散防止条約(NPT)再検討会議で文書を提出し、核禁止の議論を本格化させる狙いがある。文書では「いかなる状況でも核兵器が二度と使用されないことが人類の利益」などと記されている。まさに正論ではないか。賛同しない理由は見当たらない。
日本政府は核の傘に頼る安全保障政策との整合性から日米同盟を重視し、文書に「ノー」で応じることにした。70年前の8月6日と9日、広島と長崎に原爆を投下したのは米国だ。それによって21万人余の国民の命が奪われた。日米同盟を優先して核兵器を「必要悪」と是認する政府は犠牲者にどう顔向けできるというのか。
安倍晋三首相は昨年8月の広島、長崎での原爆犠牲者を慰霊する式典で「人類史上唯一の戦争被爆国として核兵器の惨禍を体験したわが国には、確実に『核兵器のない世界』を実現していく責務がある」と誓った。不賛同を示した今回の政府の姿勢は、明らかに安倍首相の決意と相いれないものだ。二枚舌と批判されても仕方ない。
現在、世界には約1万6400発の核弾頭が残り、うち9割超は米国とロシアの2国が保有している。一方、非保有国が中心となって昨年開かれた「核兵器の非人道性に関する国際会議」には150カ国以上が参加した。核兵器禁止を求める声こそ世界の潮流だ。日本はこれらの国々と共に行動すべきだ。
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)などがまとめた報告書は、インドとパキスタンの核戦争が起きれば、世界の20億人超が飢餓に陥る地球規模の気候変動と食料危機が発生すると警鐘を鳴らした。
核兵器は地球規模の脅威であり続けている。唯一の被爆国日本は戦後70年を機に「核の傘」という核兵器に頼りながら核兵器廃絶を叫ぶ二枚舌政策をやめるべきだ。「核兵器なき世界」を掲げるオバマ米大統領を説得してでも、真の核兵器廃絶の道を歩む必要がある。
核兵器禁止条約求める声強まる
国連総会決議や国際会議
第69回国連総会は今月初め、非同盟諸国などが提案した核兵器禁止条約の交渉開始を求める決議を圧倒的な賛成多数で採択しました。9月26日には、初めての「核兵器全面廃絶国際デー」の記念式典が国連本部で開催。「核兵器の人道的影響に関する国際会議」は昨年のノルウェーに続き、メキシコとオーストリアで開かれ、核兵器禁止条約の国際交渉の速やかな開始を求める声が世界の主流であることを改めて示しました。
日本は棄権
国連総会は12月2日、軍縮・国際安全保障問題を扱う第1委員会に付託された63本の決議を採択しました。このうち32本は無投票で採択され、残りが採決に付されました。核軍縮関連は21本で、そのうち主な決議の採決状況は別表の通りです。
非同盟諸国を中心に提出された「国際司法裁判所の勧告的意見の後追い」「核兵器使用禁止条約」「2013年国連総会核軍縮ハイレベル会合の後追い」の決議はいずれも、核兵器禁止条約の国際交渉開始を求めています。
これらの決議に、核保有国の米英仏ロはそろって反対ないし棄権しました。
一方日本は、核兵器禁止条約の交渉開始を求める内容の決議に、昨年に続いて棄権。今年も提出した「核兵器の全面廃絶に向けた共同行動」決議は賛成多数で採択されましたが、同決議は核兵器禁止条約の交渉開始を求めていません。
昨年の国連総会で非同盟諸国が提案して採択された決議に盛り込まれた「核兵器全面廃絶国際デー」の記念行事が今年初めて各地で行われました。
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は同デーについてのメッセージ(9月25日)で核兵器を包括的に禁止する国際条約の交渉を始めるよう世界各国に呼び掛けました。
国連本部での式典では、非同盟諸国を代表して発言したイランのザリフ外相が「核兵器の使用は国連憲章違反であり、人類に対する犯罪だ」と指摘。「包括的な核兵器禁止条約の交渉の即時開始」を訴えました。
「核兵器の人道上の影響に関する国際会議」は2月にメキシコ、12月にオーストリアで開かれました。いずれの会議も議長総括で、核兵器禁止の実現が重要であることを強調しています。
でも、テレビのインタビューで今日が何の日か解らなかった50~60代のおじ様達に愕然としました。
ここからか~。
いや、日付を忘れても何が起きたのかを知っていれば良い事なのですが。
被害状況を深く知れば、子供でも何故このようなことが起きてしまったのか、回避するには何が必用だったのかを考えるようになるのではないでしょうか。
しかし、一万歩譲って核の傘が必要だと考えてのことだしても、どう考えても7000ものは傘は要らないですよね。経済的にも国が弱体しますし、本末転倒とはこのこと。
大嫌いなはずの日本に何故大量の中国人観光客や留学生が来るのでしょう?毎日のように遭遇しますが、彼等に悪感情は見出せません。
中国政府の教育が行き届いていないのか、そもそも宇治金時さんの妄想なのか。
日本が毎年原爆被害者の慰霊行事を行うことやテレビで戦争のドキュメンタリーやドラマを放映することは反米なのか。さて?
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そもそも血と殺戮に明け暮れ変質的殺人快楽におぼれた当時の日本人がそのことにどうこう文句を言う資格はないのです。
あの投下は不毛な戦いを終わらせるやむをえない処置でした。
僕はむしろ核保有国同士の睨み合いが無用な国家総力戦を回避させいたずらに大戦の発生を抑止したと評価したいです。
だから日本はアメリカに感謝すべきかと。
世界で唯一の被爆国云々は置いておく問題として、こういう問題は各国が責任を持って考えなくてはいけないというのに、いくら同盟国に言われたからといって反対に回るのはすでに一国家としての権限を失っていると思われても仕方ない。