ちっちゃい親父

…なにぃ？俺は精一杯頑張っている、だと？

「馬鹿じゃないの！？」
アタシは言ってやった。
「ヨータ（弟）もアタシも、いろいろあって、
母さんには沢山苦労かけたよ。
アンタだって多大なる迷惑かけたべ？
母さんのに比べたら、アタシらの苦労なんて
なんぼのもんでもないんだよ！
『自分だけが不幸だ』なんて口訊くんじゃないよ！
今、一生懸命お返ししてるのは、あたりまえ。
昔、アンタがした事を今母さんにつぐなってるんだから、」

ここでお気づきのことと思うが…
実の父を『アンタ』呼ばわりしている娘。
…ガラ悪いぞ～。

父は、自分自身が好きな男なのだ。
いつだって、『自分』『自分』。
自己愛が強過ぎて、若い頃に赤面症となり、
女性にまともに相対する事ができない時期があった。
母と見合いし、なんとか結婚したので、
それは克服したらしいけど。

今だって…
常に着るものに気を使い（安物の服だけど）、
人の目を気にし（特に女性）、下品な冗談しか言えず、
目先の事だけに気を病み、やりたい事は五万とあるくせに
「金と時間がないからできない」と言い訳する。
人からモノを頼まれると絶対断れない、史上最悪のお人好し。
引き受けてしまってからグチグチ言う。
「ストレスはたまるが、お金はたまらない」とかなんとか。
なんでもかんでも、金、金、金！権力にはヘラヘラし、
自分の不幸の根源は貧乏のせいだ、と言い放ち、
腹いせに、深酒して泥酔して暴れながら寝てしまう。
己の貧しさを恥じている。…そんな、ちっちゃな男なのだ。

馬鹿野郎！自分の人生を恥じるな！
自分の人生の軌跡は、自分がつけた足跡なんだ。
悲惨だろうと情けなくあろうと、その傷に責任持て！
そして、もっと胸はって、堂々としやがれ！
人の同情を欲しいなんて思うな！
…娘ではあるが、父親に喝をいれたい衝動にかられる。

金が無くたって、今は家族があるじゃない。
ご飯だって３食毎日食べられるし、
心配してくれる人たちだって友だちだって、
まわりにいるじゃない。
母の介護は、父がたった一人でやってるわけでもない。
デイサービスの方々が密に面倒見てくれる。
デキは悪いが、娘と息子がいるじゃないか。
これを不幸といえるのか？

何を踏みとどまっているのか。何をいじけているのか。
アンタに残された時間はあとどれくらいか知らんが、
もっと自由に生きてみろ！

幼い頃のアタシは、まだ父を大好きだった。
だが、思春期を迎え、父の嫌な面しか見えなくなってしまい、
成人してからもずっと、毛嫌いしていた。
…とは言え、ここ数年は、『嫌い』というより
なんて哀れな男なんだ、と同情心さえ湧いてくる。

次回に続く。