そして父はマイクを置いた

朝から大雪。
なんとなく胸騒ぎがして、実家に電話をした。
「ハイッ！○○です！」と
いつも張り切り気味に電話に出る父だが、
今日はなんだか、くぐもった重～い声をしている。

「ア、父さん？アタシだけど。変わりない？」
「う～んん…実はな、大変な事になってしまって…。」
げっ。母さんの身に何か起こったか？
去年の今頃は…
母、退院2日後に転倒骨折→救急車で搬送→再入院＆再手術。
（今、思い出しても、泣けてくる事件であった。）

「実はな、俺、帯状疱疹になってしまって。」
…うわあ～！アタシも患った事があるから、解る！
アレはコワイ。非常～～～にしんどい病である。
※『帯状疱疹（たいじょうほうしん）』
どんな病気かは、各自調べるように！

「ジクジクと酷くなってしまって。散々だった。」
「大丈夫？連絡くれればすぐそっち行ったのに。」
「いや、迷惑かけるし。だんだん良くなってきてるし。」
「そか。疲れが出たかな？」
「ウン。で、俺、新聞配達の仕事、辞めたよ。」
…おおおっ。とうとう辞めたか！！
生活費5万円捻出の為に、毎朝4時前に起き、
雨の日も風の日も雪の日も、せっせと勤めた。

言っちゃあなんだけど…『甲斐性無し男』の代表のような父。
老後の蓄えも備えも何もしてなかったツケがまわって、
76歳のご老体にムチ打ち働かねばならない状況に。
おまけに、頼みの綱の息子ヨータ（長男／ライチの弟）も
『甲斐性無し遺伝子』を受け継いでおり、
実家には殆どお金を入れていないらしい。
扶養する妻も子も居ないんだから、その分、少しは親を援助しろよ！
稼ぎが無いわけじゃないだろう？
…な～んて、言えないよな。
アタシは外に嫁いだ身だから、そんな口はきけない（涙）。

毎日毎日、気になっていた。実家方面の天気が。
父が新聞配達の仕事をするようになってからは、
時間ごとの天気予報を確認するのが
アタシの日課になっていた。
配達して廻る時間帯、明朝午前3時からの空模様は？
強風や雨、雪だとスゴく心配になった。
「吹いてると、雨合羽を着てても濡れる。」と言っていたから。

「金も必要だけど、母さんの介護や家事もあるし。
それから、檀家総代としての寺の仕事（事務）も大変だし。
俺もアレコレとやれなくなってきてるからな。」
今の父には背負うものが多すぎる。
今回の件で、体力＆能力に限界を感じ、引退を決意したのだ。
配達所の所長には「76？まだ、やれるべ？」と言われたらしいが。
ラストコンサート。ステージにマイクを置き、
惜しまれ芸能界を去った百恵ちゃんとは、全然違うけど。