デグの決意

懇意にしている工務店の大工、S氏。
夫は親しみを込めて、彼の事を『デグ』と呼ぶ。
（大工→だいく→でぇく→でぐ→ デグ…笑）
10数年前、夫の家を建てて以来の付き合いだそうだ。
春先・梅雨時や台風のあとなど、
季節ごとに我が家を見回りにきて、メンテナンスしてくれる。

大手の住宅会社に押され、大工商売はいまひとつ。
最近のデグは、景気のいい顔では無かった。
しかしながら、腕（技術）はいい。
自分の仕事に誇りと責任感も充分ある。
神棚もデグ作。人に自慢したくなるような出来映えである。
嫁に来て、初めてこの神棚を見た時、
ほおおお～っと見とれてしまった程だ。

デグが余命幾ばくもない…という噂を訊いたのは
つい先週の事。
昨年、『健康診断でひっかかった』と
本人から訊いていたので気がかりであったが、
まさかそういうことになっていたとは…。
「早いよね。まだ50代なのに。」
「じゃあ、頼んでおいた雨どいの修理もダメだな？」
「今のうち、お見舞い行ったほうがいいんでない？」

そんな話をしていたら…玄関に誰かが来て声を掛けた。
「おーい！居だが？（居るか？）」
出てみると、なんと、デグ本人が立っていたのだ。
短く刈り上げた白髪頭、黒のサングラス、
黒革のベストにコーデュロイのジャケット。
マフラーを巻き、『ちょいワルオヤジ』風ファッション。
…イケてるオジ様になっちゃって～。
（もともとオシャレなオヤジではあったけどね。）
スッキリと痩せた身体、顔色もいい！！
前は、酒好き＆大食漢で、メタボなオヤジだったのに！

「オ～ウ。今回は心配かけでしまって。」
「大工さん、身体、大丈夫だが？」
「今日は外出許可もらって来たじゃ。」
春になったら小屋と雨どいの修理を頼んであったのを
デグは忘れずにいてくれたのだ。

「俺もよ、びっくりしてしまったじゃ…。
こればっかりは、なんともならねえ。
んだどもよ、少し希望はある、って医者が言うんだから。
今後はその治療方法で頑張ってみるべ、と思ってる。
…なんと、検査と病院食で15kgは痩せだじゃ。」
デグは全てを知って、一時は絶望もしたんだろう。
（奥さんもショックで身体を壊し、入院したそうだ。）

「でもよ。迷惑かげられねえから…
この際、スパッと休業する事にした。
お客さん方には事情説明して解ってもらったし、
仕事引き継いでもらう大工仲間にも…感謝だ。
チャンスをくれた医者にも、周りの皆さんにも、感謝だ。」

点滴を打たれ、息も絶え絶えで
ベッドに寝ている姿を想像していたが…
デグ、まだまだやれそうじゃん。

「俺、デグにパワー貰った気がするなあ。」
夫がボソっと言った。
ウン。わかる。
アタシも、同じこと考えてた。

※写真は…菜園の梅。
剪定をした枝を水に挿して
暖かい部屋に置いてたら、開花しました。
新聞紙に包んであるのはご愛嬌。笑