アオクジラ-Bluepain-

日々徒然に思ったことを書き記します。ワッショイ!

無色

2009年09月23日 11時58分48秒 | テキスト
冷たい風が頬をなでて
季節が変わったと気づいた

放たれたパイロットフィッシュは
いつの間にか瀬に打ち上げられて
孤独の青は限りなく透明に透き通っていく

遮断された踏切の前で
一切のリズムを乱すこともなく
カウントダウンのような音が鳴る
向こうと此処の距離はどれくらい開いてしまったか

過去の栄光 仮初めの幻影
未来への羨望 現在の保留

パラドクスで満たされたミラールーム
虚像で満たされたミラールーム
実像は消し飛んで僕の嘘が暴かれる
君の嘘も暴かれる

カウントダウンは鳴り止んで
パイロットフィッシュは最後の呼吸を静かに終える

週末のプール

2009年09月19日 13時10分20秒 | テキスト
プールサイドに独り
水着姿で彼女は座っていた。

膝を抱え込んで少し背を丸めて水面見つめている。

残念ながらそこには艶かしいボディラインもなければ
光を跳ね返す透き通る肌もなくて
季節に至っては夏ですらなかった。
正確にはこの世界に夏はもう来ないのだけれど…

それは少しの期待と諦めの入り混じった痛々しい風景。

終わりがあれば始まりもある
ポジティブをひけらかして誰かが言っていたけれど
ここには、これから先には「始まり」はない。
ただ、緩やかにおとずれる終わりが在るだけ。

彼女は相変わらず何処かを見つめている。
その光景を見かねた僕が
レモネードを携えて隣へやってくる事を知っているからだ。

それからの会話は決まっている。

「何が見えた?」
「何も見えない…」

明日も彼女はプールサイドに座るだろう。
明日も僕はそれを眺めるだろう。
明後日もそれから次の日も
二人でレモネードを飲むのだろう。

ストローを通って強めの酸味が喉を刺した。
その日が来るまでには
もう少し美味しいレモネードが作れるようになっているだろうか。

マスターキー

2009年06月25日 11時18分56秒 | テキスト
少しばかり埃っぽい暗い部屋に
低いファンの音ばかり鳴っていた。

ドアの隙間から差し込む光と一緒に
沢山の声が微かに届いていて
その向こうの世界を連想させた。

始めから鍵などかかってはいなかった。
ただそのドアを開けるのは
自分の手ではなくて
誰かの手であって欲しい…なんて

一握の期待。

それだけがあった。

それはいつまでもとざされたままで
ついに自らドアに手をかける。

開かれたドアの向こうには
ホラ、思った通りの世界があった…。

カチリ

何処で鍵のかかる音がした。

セッション

2008年12月21日 13時02分33秒 | テキスト
伝えたい事は幾つも無かった でも
伝えたい事は幾つかはあったんだ

伝わらない事も厭いはしなかった けれど
伝わらなかった事を哀しいとは思ったりして

それは何ですか? と問う
それは想いですとそれは言う

想いが重いに変わって
いつか胸が潰れるのか

自嘲気味に笑う

違いますよ

想いは軽いに変わって
アナタは少しだけ優しくなる

だったら良いなと頷く
そいつはもう何も答えない

笛吹き

2008年11月10日 04時40分12秒 | テキスト
賢い人は皆、余計な荷物を捨てていく
いつだって身軽に
自分の好きな場所で
自分の好きな歌を歌うんだ。

笛吹きは寂しそうな笑顔を作って言った。

つまりお兄さんは賢くないんだね。

少年は残酷に問いかける…

笛吹きはそれに応えるように知らない曲を吹いた。
寂しそうな笛吹きの吹く笛の音は寂しい音がした。

少年は自分も笛が吹きたいと言い
笛吹きは小さな笛を取り出すと
それをキミにあげようと言った。

笛吹きの後ろには小ぶりな荷車に
溢れそうな荷物が山のように積みあがっていた。
そこからはお菓子や玩具や本や
なんだか良くわからないものまで何でもあって
少年の目にそれは夢のビックリ箱のように映った。



それからの笛吹きの消息は知らない。

かつての少年は青年となった。
時折、その日の事を思い出しては
胸の底がかすかに暖かくなるのを彼は感じた。
そして、不意にあの日聴いた笛の音は
寂しい音だったのではなく優しい音だったのだと気づいた。

谷を抜ける風が笛のような音を鳴らした。
青年はそれに応えるように笛を咥えると歩きだす。
少しだけ重くなった荷物はまだまだあの笛吹きには及ばなかった。

先祖帰り

2008年11月02日 00時33分52秒 | テキスト
どうして私が犬なんかになったのか
不思議でならなかった。
普通、生まれ変わりは同級か上級なものとして
成就するのではなかったか。

新しく見える世界は地面に近く天はやたらと高い。
意に反してブンブンと忙しなく動く尾が
疎ましくてならなかった。

ほら、またひとり人間が近づいてきた。

人はほとんど皆無と言って良いほど他人に興味がない。
否、そんな事はないというのなら言い換えよう。
人は自分に興味、或いは好意を持ってくれる人には興味を示す。

だから、一日何百、何千人という見知らぬ人とすれ違っても
その人の顔さえはっきりと認識はしていないし
常識であることのように他人のことには見てみぬ振りをする。

にも拘らず、犬や猫には驚くほど無防備に興味を示し近づいてくる。
それは何故か、それは我々が言葉を持たないからだろう。
言葉を持たない我々には言葉は伝わらない前提で接することができる。
だから伝わらないことに傷つくこともない。

なんて臆病で不器用な生き物なのだろう。
私はそんな彼らを憐れに感じて好意を示してみせる。

ああ、私は今ようやく気がついた。
我々が言葉を持たないのは
「持てない」のではなくて「必要としない」からだったのか。

つまり生まれ変わりは正しく行われていたということだ。

キンモクセイ

2008年10月20日 08時07分51秒 | テキスト
一刻も早く家に帰ってタバコが吸いたかった。

柄にもなく立ち上がって自転車を漕いだ
汗かき息切らせて
行き交う人が皆振り返ろうと知ったこっちゃなかった。

キンモクセイ
流石に漢字では書けない。

花の名前なんかに興味のないアタシが
柄にもなく知っている花の名前。

いつもなら避けて通るその道を
うっかり通ってしまったアタシが悪い。


不意に甘い香りが鼻を衝いた。


それは秋を知らせると同時に
アイツを思い出させる忌まわしい香り。

終わった恋が立体を成して立ち上がってくる。
アタシはそれを振り払うように必死になってペダルを回す。


ドアを閉めて急いでバッグからタバコを取り出した。
着火速度、若干10秒!ギネス申請してやろうか。

肺に張りついた匂いをタバコのそれで追い払う。
椅子に腰掛けて思いっきり天井に煙を吐き出す。
キツめのメンソールが花の匂いをかき消して充満したのを確認して
アタシはやっと胸を撫で下ろした。

この甘い香りは金木犀って言うんだなんて
大好きだったアイツが教えてくれた大嫌いな花の名前

花言葉は「初恋」

なんで花言葉まで知ってんだアタシはっ
ひとりで身震いして二本目に火をつける。

旋律とノイズ

2008年10月10日 01時18分31秒 | テキスト
どうということはない
独りで善がっているだけだ
悲劇の主人公になろうと思ったってさ
巨大な世界のヒストリーの中では
他愛なく何の影響もないノイズに過ぎない

ストーリーテラーは恙無く物語を紡いでいくだけだ

だからさ、オマエラが「1」であろうが「0」であろうが
誰も気にしちゃいないんだ

人が誰かを必要とするのは
そうやって独りで善がりたくないからなのかもな

つくづく、自らの根底に横たわっているのは
破滅的な本質なんだってわかったんだ
否定のしようがない、否定する気もない

生まれいずる者は片っ端から葬ってしまえばいい
築きあげた物は何もかもぶっ壊してしまえばいい
美しいものは汚らわしいし、眩いものは煩わしい

オレの存在に意味が無いのなら
オレが愛する君の存在もまた同様に意味はない

歯車は軋みをあげながら絶対回ることを止めない
小さなノイズは圧し潰されて旋律は響きを増す

逸脱

2008年10月02日 03時18分31秒 | テキスト
毎日毎日、鉄板の上で焼かれたそいつがさ

代わり映えしない毎日から抜け出そうと飛び出したって
オヤジはそれを止めようとはしない

毎日毎日、鉄板の上でそいつを焼くオヤジには
そいつの気持ちは誰よりもわかるのだから

例え、海に飛び込んだところで泳ぐことさえできない
あんこ詰めのまがい物が瞬く間に沈んでしまったとしても

ループから抜け出したという事実は
決してバッドエンドなどではないのだと

モモイロサンゴが思ったかどうかは定かじゃないが…

花火

2008年08月23日 15時30分51秒 | テキスト
打ち上がった花火は
夜空に一瞬またたいて闇に吸い込まれていく。

それはとても儚く、故に美しく、琴線に触れた。

隣でそれを見上げるその人の笑顔も一際美しくて
同様に儚いもののように感じた。

近くで聞く祭囃子はとても賑やかなのに
遠くで聞くそれはすごく寂しい気持ちになるのは
どうしてなんだろう。

ネオンとは違う、暖かな屋台の灯りが
夜の闇に滲むように列を成して
その間を沢山の人が行き交っていく。

その全ての営みが花火みたいだと思った。

キレイだけど寂しいね。

隣から声がして繋がれた手にぎゅっと力がこもった。

不意に、季節外れの蛍が一匹。
夜空に舞い上がって闇に溶けた。

蛍には見下ろすボクらがどんな風に見えるだろう。
花火には見下ろすボクらがどんな風に見えるだろう。

寂しいけれどキレイだった。

ただそれだけを言って強くその手を握り返した。