いつも寝不足 (blog版)

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『ロジャー&ミー』

2006年03月03日 | 映画・ドラマ
ロジャーとはGMの会長ロジャー・スミスのことで、マイケル・ムーアの故郷ミシガン州フリントはGM発祥の地。直訳して『ロジャーと私』なんてタイトルの方が内容とピッタリ来るように思う。

ロジャー&ミー

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時は1980年代後半、舞台はミシガン州フリント。業績好調にもかかわらずフリントの工場を閉鎖し3万人にも及ぶ従業員を解雇するGM会長ロジャー・スミス。そのロジャー・スミスにマイケル・ムーアが(アポなし)インタビューを試みるも徹底的にはぐらかされる。フリントの町はGMに依存して繁栄してきたが、工場の海外移転に伴って没落し全米屈指の犯罪多発都市と化していく。

以上のような内容を基本的にはユーモラスに、しかし、フリントに降りかかる悲劇は悲劇として正面から描かれている。

マイケル・ムーアの作品は『ボウリング・フォー・コロンバイン』に続いて2本目。本作が監督デビュー作で、この作品が評価されたことによって『ボウリング…』などへと続いていったそうだ。

『ボウリング…』に比べると明らかに低予算で、ユーモラスさ、コミカルさを演出するための仕掛けも少ない。しかし、だからこそ、より直裁にマイケル・ムーアの資質が見て取れるように思う。

上で「基本的にはユーモラス」と書いたが、家賃が払えずにクリスマス・イブに借家を追い出される家族や、糊口をしのぐために飼っているウサギを(食用として)売る女性の姿なんかは明らかに悲劇。しかし、そこに埋没することなく、観客を引っ張っていくエンターテイメント性は素晴らしい。重い問題を重いままに撮って誰も見ないもんなんか作っても仕方ないしね。

この作品を見て気づかされるのが、アメリカは資本家とその取り巻きが作る階層と、それ以外に分断されているということ。田中宇が最近盛んに言っているのが、ネオコンなんかを含むアメリカの指導層は基本的に資本家なので、資本の論理に乗っ取りグローバル化を進め、必ずしもアメリカ国民の利益を重要視していない。

GMは今でこそ青色吐息だが、この作品が作られた頃はまだまだ好調でフリントの工場を閉鎖するのも更なる利益追求のために海外移転するのが目的。このあたりの事情を隠蔽するためにジャパンバッシングが行われたのは日本人なら知っての通り。

今のアメリカがイスラム世界を懸命に叩いて愛国心を鼓舞しようとしているのも、実は似たような構図。国益や愛国心の美名を振りかざす人々が、実は最もそこから遠い。この作品中に登場する資本家たちもアメリカは素晴らしいと声高に主張しながら足下の町を荒廃させていく。

まぁ、だからと言って、会社が潰れても工場を残せとは言えないのが資本主義の世の中。そのあたりの事情を飲み込んで渡っていくしかないのかな。この作品は、そういった部分も含めて問い質しているので、人によっては「何を左巻きなことを」と嫌悪するだろうが、そういう問い質しは絶対的に必要だと私は思う。

ところで、ウサギを食用に売る女性が実際にウサギを絞めるシーンが終盤近くで出てくる。決して残酷描写だとは思わないが、人によっては強い拒否反応を示すかもしれない。実際、この場面は結構叩かれたらしい。確かに、ウサギの頭を棒で殴って気絶させ(殺して?)、逆さ釣りにして皮を剥ぐシーンなんかは見る人によっては全く受け容れられないかもしれない。しかし、人が生きていくという力強さを示す良いシーンだと思う。このシーンを省いたら、少なからず作品がスポイルされてしまうに違いない。本当にショッキングな部分はカットしたり画面に映さないようにちゃんと配慮しているしね。

なお、Wikipediaによると、ミシガン州フリントは、この作品から15年経った現在も荒廃したままで犯罪多発都市だ。


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