時、うつろいやすく

日常のたわいもない話…
だったのが、最近は写真一色になりつつある。

油断大敵

2011-09-10 12:51:21 | 将棋

おおよそ30年前の話。
県支部道場にいくと雲の上のHさんがいた。
当時Hさんはわが県で1、2の実力者だった
そのHさんが私に指そうと声をかけて下さった。
この上ない喜びだった。
将棋は私の振り飛車で急戦形の戦いになった。
序盤、私の端攻めからドまぐれの妙手が出て、
一挙に優勢、いや勝勢の状態になった。
へたれの私でも「これは勝てる」と思った。
しかし、そこから私のなまくらな寄せが始まった。
気持ちが完全に守りに入ってしまう。
徐々に怪しい展開へと紛れていく。
やばくなったと思った矢先、Hさんが一言いった。
「油断大敵」
その時点で形勢は逆転していた。
ほどなく投了となった。
痛恨の敗北であった。
Hさんは人柄がよく、その後も私になにかと親切にして下さり
会うたびに快く対局して下さった。
それから1年半後。
Hさんとの勝敗は私の9連敗となっていた。
10戦目、またHさんが指そうと声をかけて下さった。
将棋は第一戦目の時のような急戦形の戦いになった。
そして、形勢もまったく似たように序盤に優位に立った私が
そのままリードを保って勝勢ムードになっていた。
今度こそ「勝てる」と気負った時点でおかしくなり始めた。
第一戦目同様私の緩慢な寄せで局面があやふやになり始める。
頭が混乱してしまい、手が見えなくなっていた。
そのとき、それを横で見ていた県支部長の檄が飛んだ。
「なんばしよるとね、勝たんね!」
その一言で目が覚めた。
絡み合った糸をほぐすようにして局面を収束していった。
Hさんからの初勝利だった。
一勝九敗。
貴重な一勝だった。
その翌年、私は将棋をやめた。
その後Hさんはさらに強くなられて九州大会二年連続準優勝。
Hさんの名は九州中にとどろいた。
「油断大敵」
将棋はやめたが、Hさんの一言が私の人生に大きな教訓をもたらした。
まさに人生も「油断大敵」なのである。