私の中で筒井康隆の黄金期は1970年代だった。
あのころの筒井康隆には爆発的な面白さがあった。
その後1980年ころから作風が変わりだし、次第に筒井離れが始まった。
80年代中ごろ以降の筒井作品を私はほとんど知らない。
ちょうどその分岐点頃に発表されたのが『旅のラゴス』(1986年)である。
今年になってはじめて知った作品である。
読者評は高かったが、黄金期を過ぎた筒井作品にあまり期待はしていなかった。
出だしの部分は多少往年の筒井ぶしを感じさせるところもあったが、
残りの8割は、私の知らない筒井康隆だった。
かつての破天荒さはなくなり、相反するような流暢な作風に変わっていた。
筒井康隆らしからぬ、清涼感に満ちあふれた作風に変わっていた。
作風がまったく違うので黄金期の作品と単純に比較することはできないが、
完成度の高さにおいては黄金期の作品を完全に凌駕していた。
これは筒井作品とか日本SFとかいう小さなくくりで評するような作品ではない。
時代性やジャンルを超えた普遍的な名作である。
★★★★☆