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時、うつろいやすく

日常のたわいもない話…
だったのが、最近は写真一色になりつつある。

7.『紀元5000年』 食事

2009-12-27 00:41:29 | 創作

今夜はステーキを食べた。
この味はおそらく冷凍肉であろう。
食べ物は別に冷凍物に頼る必要はない。
これは母のこだわりから始まった。
この宇宙船ではスキャナー再生で保存データーのあらゆる食物を再生できる。
材料の肉も魚も野菜も再生できるし、完全に出来上がった料理の再生もできる。
料理のレパートリーは数千種類に及ぶ。
世界的なのシェフのメニューからごく一般的な家庭料理まであらゆる料理を再生できる。
最近は、食事の7割がこの再生メニューに頼っている。
あとの2割が再生食材を材料にしての手作り料理、残り1割が冷凍食材を元にしての手作り料理である。
母は少なからず再生食材に抵抗を抱いている。
鉱物を口にするような無機的な味気なさを感じるのだという。
「生」の宿らないものから作る食物は所詮無機物に過ぎないのだという。
こういうものを食べ続けると人の「生」もだんだんと磨り減っていくのだという。
しかし、この憂慮は8年前の父の再生を境に沈静化してまった。
以来、母は表立って再生食材を批判することはなくなった。
母は父の再生を誰よりも喜ばしく思っているからだ。
今では母のお気に入りの家庭菜園も閑散なものになってしまった。
日課だった菜園いじりも気が向いたときにしかやっていない。
菜園いじりの時間が減った分、父に寄り添う時間が増えたようだ。
食事のすべてが再生食材になる日もそう遠くはないだろう。