ああ、やっぱり眠ってしまったんだね。
二人の夜に迷い込んだ、仕事のメールが一通。
「至急、返信下さい。」
うっかりメールを開いてしまった自分の間抜けさを呪いながら、
慌てて返信を送ったのだけれど、
その隙に、キミは「眠りの魔王」に連れ去られてしまった。
久しぶりの遠出。
しかも、憧れのホテルだったから、キミはちょっとはしゃいでいたね。
いつもよりもグラスを重ねていたしね。
それに、よく喋って、よく笑っていた。
最近、忙しくて、すれ違いが多く、用件もメールで済ましていたから、久しぶりのキミの声と笑い声が、心地よかったよ。
沢山話して、沢山飲んで、沢山笑って。
BARを出るときに、ちょっとふらついて、俺にもたれかかってきたのでビックリしたよ。
人前では、いつもしっかりしているのにね。
「大丈夫?」
って、尋ねると、ちょっととろんとした目でキミは
「大丈夫」
と、にっこり笑った。
本当に、楽しかったんだね。
部屋に戻って、軽くキス。
ふと振り返ると、パソコンのメールのランプが光っていた。
「すまん!」
目で合図すると、キミはちょっとむくれて、
「早くね。」
って、耳元で囁いた。
ベッドに倒れこむキミを横目に、慌ててパソコンに向かう俺。
それから、モノの10分くらいしかたっていないのに。
キミはベッドの上で寝息を立てている。
口元に、幸せそうな笑みを浮かべて。
窓の外は見事な満月。
どうやらキミは、一足先に、あそこに行ってしまったようだね。
OK。
それでは、俺も、星の間に遊びに出かけたキミを追いかける事にしよう。
そして、キミにもう一度、キスをする。
【TB】Fly Me To The Moon ♪お玉つれづれ日記♪
隣のベッドルームからリクエストが届く。
「ねえ、熱い珈琲ほしくない?」
いい考えだね。
早速、ルームサービスに電話。
今日はホテルの様式にあわせてエスプレッソ。
やがて、ノックの音がして珈琲が運ばれる。
珈琲には、きちんとチョコが添えられている。
そのまま、ベッドルームに向かい、ドアをノック。
「お嬢様、珈琲が入りましたよ。」
・・・反応が無い。
「お嬢さん?」
良く見ると、小刻みに肩が揺れている。
ははん。
そっとキミの後ろから近づいて、キミの耳元にささやく。
「眠ってしまわれたのでしょうか?お嬢さん?」
耳元は、キミの弱点でもある。
「うふふふ、あはははは、やめて。おねがい、あはははは。」
キミは堪え切れずに笑い出す。
そのまま、ベッドの上でじゃれあう二人。
不意に、キミが俺の頬に、軽いくちづけをする。
俺はキミをそっと抱きしめて、キスを返そうとする。
しかし、キミは、俺の唇にそっと指をあてて囁く。
「そ・の・ま・え・に。珈琲、頂きましょ?
冷めちゃうと、美味しくないわ。」
もっともだ。
時間もまだ有るしね。
そして熱い一杯の珈琲から、
次の熱い物語が始まる。
やわらかな照明のこの部屋での、唯一のBGMだった。
濃くて甘い霧が、少し開けた窓から侵入して
大人気なく火照った頬を、心地よく覆う。
珍しく酔って、ベッドに倒れ込んでしまったようだ。
不粋な睡魔に拉致されそうになりながら、
枕元のバックの中の携帯電話を探した。
「ねえ、熱い珈琲ほしくない?」
短い文を隣の部屋のデスクに送信して
私はもう一度、ワインの酔いに身をゆだねた。