不条理み○きー

当面、きまぐれ一言法師です

だぁれも しらない

2005年05月09日 00時00分00秒 | 夜 話


 ぬらぬらと光る粘液に包まれた、緑色の身体。
 硬く尖った嘴に、ぞろりと並ぶ鋭い歯。
 硬い甲羅を背負い、頭には湿った皿がある。

 おまえの事を、異形のあやかしと人は呼ぶが、
 おまえから見れば、一糸纏わぬ身となった私もまた
 異形のあやかしと映るのだろう。

 おまえを脅かさぬようにゆっくりと近づく。
 おまえの目が不安で曇る。

 大丈夫。
 心配ない。
 おまえと私は、求め合う欠片。引き裂かれた割符。

 そっとおまえの腕に触れる。
 ひやりと冷たい感触に、一瞬、私は総毛立つ。
 それは、「恐れ」ではない。
 私の中の、「眠っていたモノ」がざわめきたったその証し。

 ゆっくりと近づいて、両手を脇から滑り込ませ
 そっとおまえを抱きしめる。
 おまえの粘液の感触が、私の肌を包み込む。

 白く肌理細やかなこの肌も、おまえの肌に比ぶれば
 まるで乾いた和紙のよう。
 赤く紅引く唇も、おまえにすれば気味悪い肉片に映るかも。

 おまえは少し怯え、思わず抱き寄せた私の肩に咬みつく。
 鋭い牙で白い肌が破れ、つぅっと赤き血が滴り落ちる。

「はぅっ」
 走る痛みに、私は小さく声を上げる。
 その声に、おまえはビックリしたように、咬む力をそっと緩める。

「いいのよ。心配ない。」
 私はおまえの耳元でそう囁いて、そのままおまえの首筋に口付ける。
 おまえの粘液の感触が、唇から伝わってくる。
 それが、私の中の「目覚めたモノ」を刺激して、別の歓喜を呼び起こす。

「ずっと、ずっと、探していたの。」
 そう、おまえは私の欠片。
 そして、わたしもおまえの一部。

 ゆっくりとおまえの肌の冷たさと、粘液の粘りを確かめるように、
 わたしは首筋から、肩へと口付けする。
 そして、さらに強くおまえを抱きしめる。

 おまえも何かを感じたのか、そっと私の背中へ手を回し
 ぎゅっと私に絡みつく。

 そして、二人は・・そして、二匹は・・
 
 重なり合う躯と躯。交じり合う汗と粘液。
 絡み合う手と脚と・・・。

    ぴちゃ、くちゅ、くちゅ、ぴちゃ。
     あうぅ、はぅ、はっ、はっ。

 種族の垣根を捨てて、現実とあやかしの区別を捨てて
 蠢き合う私とおまえ。
 欠片と欠片。
 
  やがて訪れるうねりと歓喜。
   迸る激情。爆破する感情

    いつしか、二人は・・・いつしか、二匹は・・・。





「円」となりて消え果る。



 【TB】【序】 遊びをせんとや 生まれけむ BOOKS - o-tamaさんのブログ - Contemporary Unit
    河童の思い出 BLOG STATION
 【参考】廓庵禅師 十牛図


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
「十牛図」 ~蔵の中~ (お玉)
2005-05-11 21:10:32


十枚の絵で八番目はただの『円』です。

円という形を見つめていると色々な言葉が浮かびます。

『虚空』『回帰』『結合』『無限』・・・



十牛図では牛と童で語られていますが、

お玉は自分の「執着」を河童に置き換えて書いてみました。

受け取り方は人によって色々だと思いますが

ぷよぱぱさんが、まさかこんな風に料理をするとは

予想できませんでしたよ。



頭に浮かんだ絵は「蔵」です。

白いしっくいの壁の土蔵。

緋の着物の少女。白痴美。

日常と遮断された蔵の中で繰り広げられる

この世のものではない異形との秘密の日々。



なんてね(笑)





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蔵の中 (ぷよぱぱ)
2005-05-12 02:13:46
★お玉さん

 確かにピッタリの背景ですね。

 蝋燭の炎に照らし出される様子が目に浮かぶようです。



 牛十図の解釈としては、どうしても「達観」したような物が多い気がするのですが、お玉さんの話には、もっとストレートな表現が似合う気がして、こんな話にしてみました。



 お玉さんの「執着」が伝わったのか、はたまた、作者の「妄執」かは、他の読者の判断にお任せしましょう。
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