蒸し暑い初夏のある日、「彼女」は「おもちゃ売り場」に佇んでいる。
とあるアニメのキャラに扮して、その顔を覆う可愛いマスクは微笑んでいるのであるが、よく見ると明らかに不安そうに、「彼女」が小刻みに震えているのが解る。
外の天気は晴れている。屋上で予定していた「ショー」が中止になった訳ではなさそうだ。
「おもちゃの販促」の為だけの、ひとりぼっちの「美少女戦士」である。
「はい!みなさーん、こんにちはー!!」
唐突に妙に場慣れした「お姉さん」の声が響く。
佇んでいる「彼女」自身がビクリとする程の声である。
しかし、戸惑いを隠す暇もなく、「お姉さん」の指示で、いくつもポーズをとらされる。
そのぎこちない仕草で、「彼女」の経験が浅い事が解る。
可愛いが通常ではあり得ないデザインの「アニメキャラ」ならではの衣装の胸が、心無しか激しく上下し始めている。
「ああ、このまま倒れてしまうのではないか?」
という、私の心配をよそに、いくつかの無理難題をこなした後、「彼女」は、椅子に座らされた。
休憩したのではない。
これから、延々と並ぶ、50人程の子供達と一人一人握手をしてサインをしなければならないのである。
まだ、初夏なので省エネモードなのか、店の中の空調は効いていない。
人が取り囲んでいるので、余計にむしむしと感じる。
大変な仕事である。
でも、「彼女」を覆うマスクの顔は、にこやかに笑いかけている。
おそらく、唯一、「彼女」の救いとなるのは、目をキラキラさせて、あこがれのヒロインと握手をして、サインをもらって母親の方にかけていく女の子の姿だけなのだろうが、その姿を、不慣れな「彼女」がちゃんと見ていたのか、それは解らない。
結局、サイン会の後に、ポラロイドの撮影会があって、「彼女」が少しふらつきながら売り場の横の「従業員控え」のドアに消えるまで、約小一時間であった。
「彼女」は、覆われたマスクを外し、非現実的な衣装を脱ぎながら、何を思っているのだろう?
「彼女」が彼女に返った時、今日の出来事をどう捉えるのであろう。
躯につたう汗を拭いながら、何を考えているのであろうか?
いったい、毎年何人の女の子が、ついついその「見掛け」に引かれてこういう仕事に挑戦し、そうして何人が去っていくのであろう。
つらい仕事を、これだけ黙々とやり終えた彼女は、それだけでも偉いと思う。
しかし、願わくば、目を輝かせて走り去った、あの女の子の事を思い出し、もう一度挑戦してほしい。
その時は、もしかすると、売り場の販促係ではなく、ステージに立てるのかも知れないし。
数年前の、小都市のデパートでの事である。
もちろん、その後の彼女がどうしたか、私は知る由もない。
※画像は、話の内容と直接関係ありません。
とあるアニメのキャラに扮して、その顔を覆う可愛いマスクは微笑んでいるのであるが、よく見ると明らかに不安そうに、「彼女」が小刻みに震えているのが解る。
外の天気は晴れている。屋上で予定していた「ショー」が中止になった訳ではなさそうだ。
「おもちゃの販促」の為だけの、ひとりぼっちの「美少女戦士」である。
「はい!みなさーん、こんにちはー!!」
唐突に妙に場慣れした「お姉さん」の声が響く。
佇んでいる「彼女」自身がビクリとする程の声である。
しかし、戸惑いを隠す暇もなく、「お姉さん」の指示で、いくつもポーズをとらされる。
そのぎこちない仕草で、「彼女」の経験が浅い事が解る。
可愛いが通常ではあり得ないデザインの「アニメキャラ」ならではの衣装の胸が、心無しか激しく上下し始めている。
「ああ、このまま倒れてしまうのではないか?」
という、私の心配をよそに、いくつかの無理難題をこなした後、「彼女」は、椅子に座らされた。
休憩したのではない。
これから、延々と並ぶ、50人程の子供達と一人一人握手をしてサインをしなければならないのである。
まだ、初夏なので省エネモードなのか、店の中の空調は効いていない。
人が取り囲んでいるので、余計にむしむしと感じる。
大変な仕事である。
でも、「彼女」を覆うマスクの顔は、にこやかに笑いかけている。
おそらく、唯一、「彼女」の救いとなるのは、目をキラキラさせて、あこがれのヒロインと握手をして、サインをもらって母親の方にかけていく女の子の姿だけなのだろうが、その姿を、不慣れな「彼女」がちゃんと見ていたのか、それは解らない。
結局、サイン会の後に、ポラロイドの撮影会があって、「彼女」が少しふらつきながら売り場の横の「従業員控え」のドアに消えるまで、約小一時間であった。
「彼女」は、覆われたマスクを外し、非現実的な衣装を脱ぎながら、何を思っているのだろう?
「彼女」が彼女に返った時、今日の出来事をどう捉えるのであろう。
躯につたう汗を拭いながら、何を考えているのであろうか?
いったい、毎年何人の女の子が、ついついその「見掛け」に引かれてこういう仕事に挑戦し、そうして何人が去っていくのであろう。
つらい仕事を、これだけ黙々とやり終えた彼女は、それだけでも偉いと思う。
しかし、願わくば、目を輝かせて走り去った、あの女の子の事を思い出し、もう一度挑戦してほしい。
その時は、もしかすると、売り場の販促係ではなく、ステージに立てるのかも知れないし。
数年前の、小都市のデパートでの事である。
もちろん、その後の彼女がどうしたか、私は知る由もない。
※画像は、話の内容と直接関係ありません。
こういう光景って、なんか妙に忘れられない時あるね。こういうのをちゃんと覚えていてくれるのって、やっぱしぱっぱの優しさってもんだよ。
自分の撮影の時も、きっとモデルさんをこんな風な目で見てるんだね。だから何となくぱっぱのサイトは見てて安心すんだよ。
いままで読んだ中でいちばん素敵だったと思います。
雨やまないな。