1964年
「いや、夢中で振ったのが当たったのでしょう。アドバイス? いや」ベンチの小鶴コーチは笑いがとまらない。ベンチのすみでは高山がエヘヘと笑いながら報道陣に取り囲まれていた。「シュートでした。つまったからダメだと思いました。コース?インコース。城之内さんが内角で勝負するような予感がしたので、ボックスのうしろに立っていたんです」2三振と遊ゴロのあとの三塁打。意外に細かいところまでおぼえていた。「神宮での巨人戦から当たりがもどったね」という質問に「七番というオーダーがいいんです。五番を打つときよりバットが軽く出ますよ」といい、そしてすぐ真顔でつづけた。「もし五番を打っていて、あの場面がきたらきっと三振ですね。堅くなって三振です」三振という言葉にむやみに力がこもっていた。一試合たいてい2三振を記録、林監督に「三振のタイトルがとれるぞ」といつもひやかされているので、三振にはだいぶこだわっているようだ。「日本一の巨人との試合でこんなに打っていいんですかね。申しわけない」先日の五回戦ではやはり七番を打って1ホーマーを含む四打数三安打。ロッカーへ向かう通路で「これでいいんですかね」ともう一度首をひねった。遠征先でも、合宿でも、朝晩一時間ずつのバット・スイングを忘れない。両の手のひらにはちょうど十個のマメができている。林監督はゴツゴツした高山の手を引き寄せていった。「マメがふえれば、ヒットもふえる」第二試合は一番あがって六番を打ったが、四打数で一安打。「やっぱりぼくは七番打者」と笑った。
「いや、夢中で振ったのが当たったのでしょう。アドバイス? いや」ベンチの小鶴コーチは笑いがとまらない。ベンチのすみでは高山がエヘヘと笑いながら報道陣に取り囲まれていた。「シュートでした。つまったからダメだと思いました。コース?インコース。城之内さんが内角で勝負するような予感がしたので、ボックスのうしろに立っていたんです」2三振と遊ゴロのあとの三塁打。意外に細かいところまでおぼえていた。「神宮での巨人戦から当たりがもどったね」という質問に「七番というオーダーがいいんです。五番を打つときよりバットが軽く出ますよ」といい、そしてすぐ真顔でつづけた。「もし五番を打っていて、あの場面がきたらきっと三振ですね。堅くなって三振です」三振という言葉にむやみに力がこもっていた。一試合たいてい2三振を記録、林監督に「三振のタイトルがとれるぞ」といつもひやかされているので、三振にはだいぶこだわっているようだ。「日本一の巨人との試合でこんなに打っていいんですかね。申しわけない」先日の五回戦ではやはり七番を打って1ホーマーを含む四打数三安打。ロッカーへ向かう通路で「これでいいんですかね」ともう一度首をひねった。遠征先でも、合宿でも、朝晩一時間ずつのバット・スイングを忘れない。両の手のひらにはちょうど十個のマメができている。林監督はゴツゴツした高山の手を引き寄せていった。「マメがふえれば、ヒットもふえる」第二試合は一番あがって六番を打ったが、四打数で一安打。「やっぱりぼくは七番打者」と笑った。