梛(なぎ)という樹があります。マキ科(※01,04)の常緑高木で、
- 熊野本宮大社(※01)、熊野速玉大社(※02)の神木(カミの憑代)
- 春日大社(※03)の境内に多くあり、鹿がこれを食べない
- 葉には微量の水銀が含まれ、山伏が常に口に含んで延命解毒に用いた
- 暗いところでもよく育ち、周囲の植物の成長を抑制するアレロパシー(allelopathy)の性質を持つ
「梛」または「椥(なぎ)」という字は、手許の漢和辞典に国字としても載っていません。あれ。「凪(なぎ)」と同様、国字かと思うのですけれど。これは「木」+「」に分けるしかないな。
- 那:阝(邑)と、音を表す冄(ゼン⇒ダ)とで、地名を表す。借りて、助字に用いる。
一
①おおい(多)。「受福不那(フクをうくるおおからざんや)」[詩経・桑扈]
②ゆったりして安らか。
③なんぞ(何)。いかんぞ。いかん。疑問・反語の助字。[同字]奈(ナ)
④[仏]「刹那」は、きわめて短い時間。「那落」は地獄。地獄に落ちること。「那落迦(ナラカ)」の略。
二
①なに。
②あの。かの。[同字]奈。 - 知:口と矢(矢のようにまっすぐあたる意)とを合わせて、事を正しく言いあてる意を表す。転じて、物事の道理を「しる」意に用いる。
- 智:もと知の別体で、知(チ)に曰(日は変化した形)を加え、おもにすぐれた見識の意に用いる。
『福武漢和辞典』(福武書店)
新熊野神社(※04)の由緒によると、
「八咫烏と梛」の由来
「梛に烏」は当社の社紋であります。当社創建の昔、後白河上皇の枕元に熊野権現が白髪の僧形で現れ「われを梛の樹の所に祀れ」とのご神託あり、上皇は直ちに使者を出し方々を探させ給うた処、一人の使者立ち返り「一夜にして梛の樹生じ大木となった」と云う報せを受け、この地に当社を創建されたと云う創建譚が伝えられています。古来梛は禍や災難をなぎ払い、また「朝なぎ夕なぎ」のなぎに通じ、波静かな平和な状態、幸せや縁むすびを招来する霊樹とされています。又三本足の烏はお日様の象徴であり、三本足は太陽の黒点ではないかと云われています。(以下略)
(新熊野神社の参拝案内より)
※01:和歌山県本宮町本宮。
※02:和歌山県新宮市新宮。熊野速玉大社と熊野那智大社は公式サイトの他、【熊野三山】WEBページ(熊野三山協議会協賛)からリンクするURLもあります。なぜ、ドメイン(domain)が被っている?
※03:奈良県奈良市春日野町。
※04:京都府京都市東山区今熊野椥ノ森町。
そういえば(なんて、しれっと書いていますが)、新熊野神社は創建の砌(みぎり)に紀伊熊野から移植した樹齢900年の「大樟(くすのき)さん」があり、「義満、世阿弥にめろめろ作戦」が決行された舞台です。
- 楠:木と、音を表す南(ナン)とで、木の名を表す。本字は枏。
木の名。クスノキ科の常緑高木。材は堅く、芳香があり、器具材として用いる。
《国語》くすのき。クスノキ科の常緑高木。材は芳香があり、建築材・家具材として用いる。また、樟脳の原料となる。[人の名]くす・くすのき - 樟:くす。くすのき。クスノキ科の常緑高木。材は堅く、芳香があり、建築・器具材として用いる。また、樟脳の原料となる。
《参考》国語では、「楠(ナン)」の字もあてる。 - 冉[本字]冄。[同字]冉.:ほおひげの垂れた形にかたどり、もと、ひげの意を表す。髥(ゼン)のもとの字。転じて、しなやかの意に用いる。
①しなやか。よわい。
②⇒冉冉(ゼンゼン)①だんだんに進み行く様子。②年月の過ぎゆく様子。③やわらかに垂れ下がる形容。
『福武漢和辞典』(福武書店)
ここまでの梛に対する印象をまとめると、そうですね、巫覡(ふげき)ですね。
- 解字すると「梛」⇔「冄」⇔「楠」
- 時間(Time)と空間(Place)の、ある状態が「冄」
- 樹(木)は天地に直交(⊥)して立つ、「曰く」は「申(まを)す」
女みこは巫(かんなぎ)。
男みこは覡(かんなぎ)。
言(こと)を正(まさ)しく現すために立つ存在です。立ってなきゃならない。
そして「ナ・ギ」のあるところに「ク・ス」あり。同じじゃないのに一所。なぜでしょう。
(続く)
参考文献:
『海人族と鉱物』(小田治/新人物往来社)
参照WEBページ:
【大阪百樹】